Wー3       第15回医療情報学連合大会 15th JCMl (Nov.,1995)

ワークショップ
歯学部・歯科大学附属病院の病院情報システムを考える


座長  玉川裕夫  大阪大学歯学部附属病院予防歯科

1.ワークショップのねらい  ”全国各地の医学部・医科大学附属病院では、病 院の合理化を旗印に病院情報システムが導入され、 なかには、インテリジェントホスピタルという看板 をあげているところさえあります。しかし、歯学部 ・歯科大学附属病院では病院情報システムの導入が 遅れがちで、システム構築に関するノウハウも流通 していないようです。”  上記のようなメッセージを皮切りに、今回のワー クショップについて、日本の歯科関係者が参加する メーリングリスト(dentex-info@dent.niigata- u.ac.jp)でアナウンスしたところ、9月14日から 24日までの11日間で、76通のメッセージが交 換された。このメーリングリストは、1995年1 月に、新潟大学のお世話で発足し、9月現在で、4 00名を越えるユーザが、大学の垣根を越えて登録 しているが、これまで、このように多量のメッセー ジが短期間で交換されたことはなく、メーリングリ ストサーバの過負荷を引き起こす結果となるほどの トラフィックであった。  交換されたメッセージの中には、今回スピーカー をお願いした廣瀬先生からの発言をはじめ、全国の 歯学部・歯科大学附属病院(以下、歯科系附属病 院)で、病院情報システムを担当せざるを得なくな った担当者の、切実なメッセージも含まれており、 本学会のような場でこそ、情報交換の核となるべき 組織が作られる必要があると、痛感した。  本ワークショップは、これまで病院情報システム を導入・運用してこられた経験をお持ちの、東京医 科歯科大学廣瀬康行先生と、鹿児島大学竹原重信先 生にスピーカーをお願いし、今後この分野で、より 一層緊密に情報交換が行えるようになることを目的 として開催する。 2.歯学部・歯科大学附属病院の特殊性 2.1 診療体系について  医科と歯科の診療体系は異なっている。例えば、 医科では、診断(検査)→投薬→経過チェックとい う流れで診療が進められるのに対し、歯科では診断 →処置→経過チェックという流れになっている。  病院情報システムにも診療体系の違いが反映され

ており、医科の病院情報システムは、各種のオーダ を、電子的に肩代りするような仕掛けを中心として 発展してきた。病院運営を合理化しようとする流れ の中では、当然の方向であるが、これは歯科系附属 病院で、既存の病院情報システムを利用しようとす る時の大きな壁となっている。 2.2 保険制度について  歯科の保険制度が、医科と大きく異なる点は、病 名と処置との関連が密接であるという点である。ま た、処置内容そのものにも時間的な前後関係があっ て、それらが整合性を保っていないと、保険請求で きないということも忘れてはならない。  その意味で、開業医向けのレセプトコンピュータ の中には、歯科の保険制度を良く研究し、その結果 が反映されている機器がある。全国の全ての国立大 学歯学部附属病院が、医事会計システムを導入し、 レセプト処理を電算化ているが、保険請求の整合性 にまで目を向けて、それらをチェックできるシステ ムを導入しているところは寡聞にして聞かない。こ れも、医科の病院情報システムが、保険請求の整合 性の面でそれほど注意を払われないまま、発展して きたことの結果であると考えられる。 2.3 診療科の区分について  歯科系附属病院は、口腔という小さな領域をたく さんの区分に分けて診療しており、診療科の専門性 がずいぶん高い。いいかえれば、一個体としての患 者を診るという考え方が根付きにくい環境であるの かもしれない。これは、患者の既往歴や病歴といっ た情報を、それほど重要視しない傾向を歯科にもた らしており、現に病歴管理室を設けているのは、国 立大学歯学部附属病院11のうち、鹿児島大学歯学 部附属病院だけである。 3.システム導入の現状  医事会計業務だけでなく、日常の診療で発生する 情報まで、病院情報システムに取り込んでいる歯科 系附属病院は少ない。各大学よって、その理由はさ まざまであろうが、共通しているのは、これらの病 院に適したシステムが、市場に流通していないとい


- 47 -

      第15回医療情報学連合大会 15th JCMl (Nov.,1995)

うことである。  歯科系附属病院は、いわゆる歯科の部分と、病院 の部分とが同居しており、それらを高次元で結びあ わせることができるようなシステムは見あたらな い。全国に歯学部・歯科大学は29校しかないか ら、小市場であることは否定できないが、歯科系附 属病院サイドからのアプローチも不足しており、情 報を交換する場を持たずに、個別に交渉してきたこ とが招いた結果であるのかもしれない。  また、病院情報システムを支えるスタッフについ ても立ち遅れており、医療情報部あるいは室を定員 として独立させているのは、鹿児島大学だけであ る。他は兼任、あるいは兼任の発令すらなく、委員 会組織で導入を検討しているところもある。 4.歯科系病院情報システムを扱う部署について  少なくとも、医学部附属病院と歯学部附属病院の 玄関が分かれており、それぞれ独立採算制となって いる大学では、次のような理由で、医療情報部ある いは室を歯科系附属病院にも設置すべきであると考 える。今後の歯科系附属病院情報システムは、その ような組織間での情報交換をもとに、発展していく のが本来あるべき姿ではなかろうか。

・病院情報システムは、運用を経るにしたが って、多種多様の疾病とそれに対する処置、 それらの効果など、歯科医師の生涯教育に有 用な種々の客観的情報が蓄積される。これら の情報を活用し、歯科医学教育にフィードバ ックするには、その目的に合致するようシス テムを構築しておかねばならず、教官の立場 で、歯科医師が運用に参画している必要があ る。 ・病院情報システムに蓄積される情報は、歯 科系附属病院の病院管理・連用に有用であ る。それを活用するには、病院スタッフと意 志疎通が行いやすい場所に組織がなくてはな らない。 ・医科と歯科では診療体系が違うので、同じ 大学といえども、同一の病院情報システムを

稼動させて、事足りるわけではない。 ・病院情報システムは、個々の病院の業務に 合わせて発展していくが、継続的にシステム を維持・発展させて行くには、複数の専任ス タッフが必要である。 ・病院情報システムは、日常の病院運営に関 する業務に関与しており、効率良く、しかも 停止することなく遂行されなければならな い。他の講座での講義や臨床教育などを兼任 しながらでは、どちらの業務も遂行上の困難 を伴う。 ・歯科系附属病院は、それぞれの地域で、口 腔に関する高次医療機関としての役割を持っ ている。地域医療をささえる他の病院と情報 交換を行う時、拠点となる部署が歯科系附属 病院にも必要である。

5.今後の歯科系病院情報システム  現在のコンピュータネットワーク技術の進歩を勘 案すると、いわゆる電子カルテのモデルとして、患 者情報を各部署で分散させて持っておき、それらを リンクさせる情報を別に独立させて持つような、ハ イパーテキストの概念を取り入れたものが登場して くると考えられる。それは、病院内だけでなく、地 域で、あるいは国際的に広がりを持たせることが可 能な形で、開発が進められて行くに違いない。  これまでのように、一社のシステムが、病院情報 の全てをカバーするのではなく、ハードウエアとソ フトウエアを分離して、現状に合わなくなった部分 を、よりよきものと置き換えられるようなシステム を望む声も強い。  このようにして開発された歯科系病院情報システ ムからは、実に豊富な疫学的情報が得られるであろ う。  今回のワークショップが、来るべき21世紀に向 けて、使いやすい、本来の意味での歯科系附属病院 情報システムつくりに、少しでも役立つことを期待 して、座長の抄録原稿とする。







- 48 -