3-G-3-1 データベースと標準化 / ワークショップ: 歯科領域の標準化―新たな一歩をここから

MMLに追加する歯科パートの原案について

○矢嶋 研一1)    森本 徳明2)    玉川 裕夫3)    大橋 克洋4)    福田 康夫3)    廣瀬 康行5)    成澤 英明6)    田中 猪夫7)    林 直治3)

矢嶋歯科医院1)    三次矯正歯科クリニック2)    大阪大学 歯学部 附属病院 医療情報室3)    大橋産科婦人科4)    琉球大学 医学部 附属病院 医療情報部5)    昭和大 歯科病院 歯科医療情報室6)    株式会社スリーアイ7)

抄録: 大学附属歯科病院情報処理研究会は歯科用特殊文字のJISコードへの追加、データベース間通信標準化のために部位情報表記案の作成などの活動を続け、歯科領域での情報の共有、標準化を目指してきた。
 一方、電子カルテ研究会で研究されているMMLはバージョン2で名前空間を利用したモジュール化により各診療分野特有の情報を記述する道筋がつけられた。当研究会でもそれを受け,MMLにおいて歯科特有の部位表現を可能とするための研究に着手した。
 歯科の場合、処置や病名といった診療情報のほとんどが歯の部位という情報に強固に結び付けられている。しかしMMLには部位を表現するための構造は含まれていない。このため、歯科用のMMLを作るには、まず1)歯の部位を表現するための構造の決定と2)MMLのどの部分をどのように拡張するかの検討、そして3)歯科独自のモジュールの作成などといった作業が必要である。また同時に歯科用のMMLのインスタンスがそれを用いない機関に渡されても不具合が生じないような整合性の確保にも注意をはらわなくてはならない。<BR> さて、歯科における伝統的な部位表現方法は、Zsigmondy形式というグラフィカルなものである。この形式はただ単に歯の解剖学的位置を表示しているわけではなく、歯の状態、補綴物の設計などといった複数の情報を同時に表現し伝達できる便利な記法である。
 部位表現のためのXMLは、このような部位表現があらわす情報がどんなものかを再検討した上で、必要な情報が欠落することなく表現できる構造を決定していかなければならない。当セッションでは幾つかの具体的な提案を元に議論を深めていきたいと思う。

Proposal of XML based dental module for MML

Kennichi Yajima1)    Noriaki Morimoto2)    Hiroo Tamagawa3)    Katsuhiro Ohashi4)    Yasuo Fukuda3)    Yasuyuki Hirose5)    Hideaki Narusawa6)    Inoo Tanaka7)    Naoji Hayashi3)

Yajima Dental Clinic, Tokyo, Japan1)    Miyoshi Orthodontic Office, Hiroshima, Japan2)    Medical Informatics Osaka University Dental Hospital, Osaka, Japan3)    Ohashi OB/GY Clinic, Tokyo, Japan4)    Medical Informatics, University of the Ryukyus Hospital, Okinawa, Japan5)    Dental Informatics Showa University Dental Hospital, Tokyo, Japan6)    3i Corp, Japan7)

Abstract: In this study, we propose newly developed data format, based on XML(eXtensible Markup Language), for full expression of the human dentition.Tooth position is one of the most important information in dentistry and it appears in every scenes of dentistry from dairy clinical works to text books.In order to express and exchange electronic patient records on computer networks, standardized information exchange format for human dentition has very important roles.Our proposal contains tags and attributes for describing tooth position and should be discussed with the MML (Medical Markup Language) consortium for their structures and functions.

Keywords: dentistryZsigmondyFDItooth positionMMLXML


1. はじめに

 大学附属歯科病院情報処理研究会(DHIS)は歯科領域での情報の共有、標準化を目指して活動を続け、歯科用特殊文字のJISコードへの追加1)、データベース間通信標準化のために部位情報表記案の作成2)などの成果をあげてきた。
 一方、電子カルテ研究会で研究されているMMLはバージョン2で名前空間を利用したモジュール化により各診療分野特の情報を記述する道筋がつけられた。当研究会でもそれを受け,MMLにおいて歯科特有の部位表現を可能とするための研究に着手した。

2. 部位の表現方法

 歯科領域での処置や病名あるいはそれ以外の診療情報のほとんどが歯の部位という情報に強く結び付けられている。しかも歯科臨床における歯の部位という概念は、単純に歯の解剖学的部位や種類をあらわしているわけではない。
 日本やその周辺諸国で広く利用されているZsigmondy形式の部位表現は歯の位置や種類という情報だけでなく、歯の状態や補綴物の設計といった情報を同時に含み、シンプルであるが多くの情報を伝達できる優れた方法である。
 これ以外には「左上顎中切歯」といった解剖学的表現や「21」といったFDIで定めた国際的な歯の番号が部位の表現としては利用されている。しかし、Zsigmondy形式の便利さを超えることができず日常臨床ではほとんど使われることはない。

3. Zsigmondy形式の問題点

 Zsigmondy形式は便利な表記方法であるが、表現方法がテキストでなくグラフィカルなものであるためコンピュータでは扱いにくい。
 現状では表示や印刷のためにはグラフィックとして描くか、外字として特殊な文字形を作り利用するしかなく、外字としてのコードの統一もなされていないため、電子メールのような最も基本的なテキストによる情報伝達すら困難を極めている。
 また、複合した情報を表現しているため、情報の内部表現が複雑でこれもシステム間の情報の伝達を難しくしている。
 前者の解決のため、DHISではグラフィカルな表現をテキストで扱うことができるように特殊字形をJIS規格に登録する活動を行い、新JISコードとして登録することができた。後者のためには32バイトの文字列による表現を提案してきた。

4. XMLによる部位表現

 一方、電子カルテ研究会によって医療情報の交換手段としてMMLが提案された。医療情報をXMLによりマークアップし、その意味や構造を伝達するという素晴らしいコンセプトである。
 このコンセプトはZsigmondy形式をコンピュータで扱うための問題点を根底から解決できる道を開いた。XMLでマークアップすることで歯の部位という概念が意味する複合的な情報を表面的な表現形式に囚われずに伝達できるのである。
 DHISでは幾つかの具体的な提案を元に検討を重ねているが、この構造を決定する作業は同時にZsigmondy形式が表現している情報がどういったものかを再検討することになり歯科における部位という情報の複雑さと重要性を再認識することとなった。
 歯の部位の最も基本的な情報は歯の種類である。この場合でも、歯そのものを指定する場合と歯があるべき空間を指定している2つの意味がある。また、「遠心根」のような歯の部分を指定する表現や、「支台歯」といった歯の状態や補綴物の設計を表現する場合がある。さらにインプラントや歯牙移植術などの場合の部位表現も考慮されなければならない。
 これらの情報を失うことなく表現できる構造を決定することが第一目的であるが、同時にコンピュータで扱いやすく、将来の変更や拡張などに柔軟に対応できるような構造も要求される。
 そして、構造を決定するだけでなく実際に活用される場面や、将来の拡張を見越した運用規定を定め永続性のあるものにしていかなければならない。

5. 歯科用MMLの検討

 MMLは医療情報の交換規約であるため歯科としての対応が必要である。しかし、基本のMMLには歯の部位に相当する構造は含まれていない。このため、歯科としてはこの基本MMLを修正・拡張するか、この基本MMLをそのまま使い部位情報を埋込むための運用方法を規定するような作業を進めなければならない。
 MMLはバージョン2で名前空間を導入し、構造のモジュール化を行い各診療分野独自の構造の導入を可能にした。しかし、その拡張や修正の具体的な方法やガイドラインが示されていないため、基本MMLや他の医療分野のMMLとの整合性をとりつつ、独自の構造を導入する方法を確立しなければならない。
 この問題はDHISだけで解決できるものではなくMedXMLコンソーシアムとの連係が必要である。歯科用のMMLは他科に先駆けて本格的な検討に入っており、他科で同様な拡張・修正が必要になった時のモデルケースとなるであろう。
 部位情報の他に、歯科独自の情報を構造化する必要もある。たとえば、矯正や補綴といった分野である。まず最初は、基本MMLに足りない歯科分野での情報の洗い出しである。そして、それらを分類し構造を分析し、XMLとしての構造を決定していくという作業が待ち受けている。膨大な作業量も予測され、着手する前にその戦略を十分検討する必要があろう。

参考文献

[1] 成澤英明,他:歯科用図形文字の標準化.第2回医療情報学会シンポジウム,神戸,1997.

[2] 玉川裕夫,他:歯の部位情報交換の標準化に関する提案,第19回医療情報学連合大会論文集,784-785,1999.

[3] 藤田恒太郎:歯の解剖学. 金原出版株式会社, 1982.

[4] 荒木賢二,他:医療情報交換規約(MML)バージョン2-改定の概要-,第19回医療情報学連合大会論文集,786-787,1999.

[5] 日本医療情報学会課題研究会 電子カルテ研究会 MML仕様作成ワーキンググループ:MML-Medical markup Language-規格書Version2.21,1999

図1 XMLによる部位表現