歯科の診療録電子交換に必要な歯周検査結果の標準化について
玉川 裕夫1) 二家本  晃2) 伊藤  豊3) 漆原  譲治4) 稲田 拓5) 多貝 浩行6) 高柴 正悟7)
大阪大学歯学部附属病院1)
神奈川県歯科医師会2)
北海道大学病院3)
株式会社ジーシー4)
村田機械製作所5)
株式会社モリタ6)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科7)
Standardization of a periodontal examination for an electronic data exchange in dentistry
Tamagawa Hiroo1) Nikamoto Akira2) Itoh Yutaka3) Urushihara Jyohji4) Inada Taku5) Tagai Hiroyuki6) Takashiba Seigo7)
Osaka University Dental Hospital1)
Kanagawa Dental Association2)
Hokkaido University Hospital3)
GC Co. Ltd.4)
Murata Machinery, Ltd.5)
Morita Corporation6)
Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences7)
Periodontal disease is an inflammatory disease that affects more than 80% of adults in our country. All patients need and deserve to have a complete periodontal examination and to have a complete record of their status recorded in their dental chart. Since, many devices and application programs are on the market that may help to record the results of examination in an electronic form. Moreover, this examination is part of both initial and periodic dental treatments, and is included in the cost of care. Examinations are normally covered by dental insurance. However, standardization of the examination for an electronic data exchange is not well discussed and no guide line is found in our country. In this workshop, we are going to discuss the outline of the standardization. Members from the Japanese society Society of Periodontology, the Japanese Society of Dental Practice Administration and Japan Association for Medical Informatics will join to discuss this problem. The fruit of this workshop will support long-term studies that are needed to find the real benefit of a wide range of periodontal therapies.
Keywords: standardization, 標準化, periodontal examination, 歯周病検査, electronic form, 電子様式

1. はじめに


 歯周病は他の歯科疾患にくらべ治療経過が長いが、定期的な口腔ケアを継続することで安定期を長く保てることが知られている。歯周病の進行状況を把握するために行われる歯周検査は、保険診療でも認められ広く普及しており、歯周ポケット深さや歯口清掃の状況を電子的に記録するアプリケーションも多数開発されている。しかしながら、蓄積されたデータを交換するための電子フォーマットは今のところ標準化されていない。
そこで、大学病院や診療所の歯科医の他、歯周検査データを入力できる機器を作っているメーカの担当者も加わったワークショップを日本歯周病学会および日本歯科医療管理学会と共同で開催し、何をどこまで標準化できるかとその影響について検討を行う。
 
2. 歯周疾患検査結果の活用について


 歯周病治療を進めていくには、適切な治療行為の積み重ねと保険診療の算定条件を満たすデータの蓄積と書類の作成が必要とされる。PCRの記録ソフト(FileMaker Pro 11で作成した自作のものであり、windowsWindowsでもmacMacでも使用可能)を基幹において、歯周疾患検査結果、残存歯状態、口腔内所見、指導要点などのデータを加えることで書類の作成、管理を行っている。作成するのは、初回と二回目以降の歯科疾患管理表、歯周精密検査表、歯科衛生士実地指導の時に手渡す「専門的口腔ケア」、歯科衛生士実地指導業務記録の5種の書類である。
 歯周病治療の進行状況を管理するソフト(FileMaker Pro 11で作成)を併用している。医療連携を行う上で紹介元の歯周病の治療進行ステージの情報と補綴治療情報があれば、紹介先での歯周治療および口腔管理に役立つのではないかと考える。歯周検査結果標準化においては、保険算定基準の統一が明確になされるべきであろう。歯周ポケット検査は、計測点が4点法に統一されるとデータの推移が比較しやすいし、用いられる用語は国際的に用いられているものであってほしいと考える。
 
3. 病院情報システムにおける歯周病診査機能の開発~操作性への配慮と情報・機能連携~

 2010年7月、北海道大学病院歯科診療センタにおいて電子カルテ運用が開始された。これに先立ち、新たに病院情報システムの一部として歯周病診査管理システムの開発を行ったので報告を行う。
 本システムは、一般歯科医師や看護師や学生・衛生士学校の実習生等の使用も考え、病院情報システムとの共通UIの下、平易かつ直感的な入力操作を第一に開発を行った。具体的には、電子カルテ画面上から起動し、既存患者歯牙情報と連動したうえで初期値として自動的に残存歯を対象とした診査入力画面を展開する。目的に応じて1歯あたり1、4、6点を選択式とし、ポケット深さの値は片顎単位で連続10キー入力を実現するとともに、同一画面上で動揺度、分岐部、GI、BOP、PlI等の値もマウスを利用した直感的操作下での入力を可能としている。また、専門外来からの要望により、アドバンスな機能としてインプラントへの対応やアタッチメントレベルの併記格納等の拡充をはかっている。
 診査結果は、専用画面上で従来の診査票様式及びグラフ様式での参照が可能な他、自動的に電子カルテ2号紙上登録画面上にも格納されることより、同一画面上で結果を参照しながら評価や治療計画等必要なコメントのカルテ記載を実現している。
出力機能としては、従来の診査票様式ならびにグラフ様式での印刷に加え、CSV出力も可能である。なお、運用的には従来の紙の診査票をオリジナルとしたスキャン運用も併用しており、チェアサイドにおける柔軟な対応をはかっている。
 
4. 歯周組織検査データの標準化と普及についての経過報告

 歯周病検査の一つに歯周組織検査がある.ポケットの精密検査であれば部位別で28歯168ヶ所を深さ、出血、排膿、などの情報を加えると一検査で500程のデータ数となる.この検査データをカルテ、レセコンシステムや医療施設間で受け渡しするための標準化に2001年から取り組んだ.検査項目を洗い出しデータの仕様をまとめ2003年の医療情報学会DHIS勉強会にて報告.その後日本歯周病学会の資格認定試験の症例報告のソフトウエア化計画が歯周検査ガイドライン選定と平行して行われ歯周組織検査データ仕様も変更を重ねてきた.現在は日本歯周病学会認定申請の標準ソフトとして採用されており、また数社のカルテ、レセコンとのデータの受け渡しにも使用されている.歯周病は全身健康との関連も注目されており医科への情報伝達は標準化が不可欠と思える.この仕様開示により、今回の標準化推進議論のたたき台となれば幸いである.
 
5. 紙として蓄積された歯周疾患検査結果の電子化に関する考察

 紙媒体による記録を効率よく電子化するための仕組として、スキャナ利用を中心とした帳票電子化の試みが報告されている。紙に記入された情報は、イメージスキャナで画像データ化した後、OMR(Optical Mark Recognition、光学マーク認識)、又はOCR(Optical Character Recognition、光学文字認識)によってテキストデータ化が可能であり、本研究では評価対象として、問診票(健康調査票)と歯科のプラークチャートとを例に、OCRを用いてデータベース化を行うシステムの構築・評価を行った。その結果、市販のOCRエンジンの中にはチェックボックスや数字・文字の○囲みなど医療現場で頻繁に使われる表現形式を正確に読み取れないものがあること。読み取った文字情報にユーザが定義したタグを付与してデータ蓄積できるOCRエンジンを用いれば、XML形式のデータベース構築が容易なことが確認できた。
 又、現在市販されている汎用OCRエンジンは、①市販のWindowsPCと汎用スキャナの組み合わせで動作可能、②ユーザにてOCR対象の帳票デザインの設計が可能、③異なるデザインの帳票から統一したフォーマットでの認識結果データの出力が可能、といった機能を持っていることから、紙媒体で記録された歯周疾患検査結果についてもOCRを用いることで高効率かつ低コストで紙に記載された情報を一定の標準化されたフォーマットにてシステムに蓄積できることが示唆された。
 
6. 標準化の立場から話題提供


 歯科システムベンダの販売する多くのカルテ・レセコンでは、歯周検査結果を入力して記録しカルテに印刷等ができるようになっている。専用PDAやポータブルなPCで入力したデータを、カルテ・レセコンに取り込めるようになっているものもある。ただし、その電子的記録形式に標準化されたものはなく、各ベンダ独自形式となっている。患者を他医療機関に紹介するために歯周検査結果を電子データで渡す必要性は高いと言えないかもしれないが、標準的な形式にした歯周検査結果の電子データを収集して、統計処理を行うことの有益性は高いと考える。
 そこで、歯科医学的には素人であるため稚拙ではあるが、歯科システムベンダの立場から、歯周検査結果として取扱うデータの内容について考察し、仮に標準フォーマットを策定するならどのような記録形式がよいかについて、他の標準規格も参考にして検討したことを報告する。学会における議論の契機となれば幸いである。