医科歯科統合病院における情報共有-電子カルテによる共有基盤の現状と展望-
新美 奏恵1) 鈴木 一郎1) 寺島 健史2) 赤澤 宏平2)
新潟大学医歯学総合病院地域保健医療推進部1)
新潟大学医歯学総合病院医療情報部2)
Sharing patients' information in medical and dental hospital –the current condition and prospect of the basis for information sharing in electric health record-
Niimi Kanae1) Suzuki Ichiro1) Terajima Kenshi2) Akazawa Kouhei2)
Division of Community Health Promotion, Niigata University Medical and Dental Hospital1)
Division of Medical Informatics, Niigata University Medical and Dental Hospital2)
Most of the medical and dental hospitals in national universities were consolidated into one hospital 10 years ago. In Niigata University, medical and dental hospital integrated into one general hospital in 2003. Since then patients’ identification numbers of both hospitals had been unified and the identical ordering system had been used in both medical and dental department. Since 2006, inpatients’ clinical records were documented in one electric health record, and receipt computer were used for the outpatients’ record as front-ending terminal at the dental department. As we introduced new hospital information system in January 2011, all clinical and ordered records were integrated into one key system, and “one clinical record for one patient” had been structured. To switch outpatients’ clinical treatment record from handwriting- to electronic- record, we had to consider about needs for immediate record during outpatients’ treatment and peculiarity of each department. As a result, new hospital information system compounded of specialized record system for dental treatment, ophthalmologic treatment and scanned record of handwriting, which were integrated to one key system. While integration of plural system enabled to achieve “one clinical record for one patient”, multiple record systems with different database and different user interface coexist in one hospital information system. Moreover, combined usage of scanning of handwritten record means some information is non-text style. As a result, this hospital information system is still not sufficient for secondary use of patients’ clinical information. Hereafter we have to develop an environment which is integrated with clinical record and enable secondary use of information, and also standardization of medical information including medical terms are needed.
Keywords: Medical and dental hospital, 医科歯科統合病院, Electric health record, 電子カルテ, Information sharing, 情報共有, Secondary use, 二次利用

1. はじめに
 多くの歯学部を持つ国立大学で医科と歯科の病院統合が行われてから10年が経過した。病院規模の相違から歯科側では統合による様々な混乱もみられたが、現在では組織運営や患者サービスといった観点からも統合による様々なメリットも生まれている。この間、病院情報システムはオーダリングシステムから電子カルテへ大きな変革を遂げ、そのための標準化も進んだ。しかし、一方で医科と歯科の診療形態の相違に加えてカルテ記載要件の相違や医事会計上の区別という制度上の問題により、医科と歯科を一つのシステムに統合することはいまだ困難な状況にあり、歯科固有の電子カルテシステムを医科システムにマージさせる、という手法をとっている病院も多い。今回、2011年1月稼働の新システムでは、外来カルテの電子化により「1患者1カルテ」を実現した。本シンポジウムでは今回構築した電子カルテの概要を示し、現状での医科歯科の情報共有の現状と今後の課題につき議論したい。
2. 新潟大学医歯学総合病院における病院情報システムの変遷と概要
図1 新病院システムのイメージ:

2.1 病院情報システムの変遷
 新潟大学では2003年の病院統合以来、IDやオーダ系など医科と歯科の情報統合を進め、2006年からは入院は医歯共通電子カルテを導入したが、歯科外来診療は歯科用レセコンを病名処置オーダのフロントエンドとする運用してきた1) 2)。 一方で、医科外来診療は手書きカルテが存続し、従来の紙カルテが医科と歯科で別に存在していた。これに関する歯科病院情報システムの変遷および問題点については既にその概要を本大会で報告している1) 2) 3) 4)
 
2.2 新病院情報システムの概要
 電子カルテの第2世代目となる今回の新システムでは「1患者1カルテ」を基本とし、基幹システムで診療やオーダーの内容が一元的に管理できるようにした。外来カルテの電子化にあたっては、紙カルテからのスムーズな移行や各診療科の診療形態にあわせて、基幹システムを軸に眼科、歯科といった個別カルテと手書きカルテのスキャンを併用したハイブリッドな構成となった。新システムは基幹システムとしてMegaOak HR(NEC)を導入した。診療にあたり外来カルテは各科の診療特性から医科では電子カルテへの直接記入、眼科カルテ、手書き診療録のスキャンが併存し、さらに歯科カルテが併存することとなったが、全て基幹システムであるMegaOak HRで一元的に管理され、全ての診療内容はMegaOak HRから参照することができるようにした(fig.1)。また入院カルテについては前システムと同様MegaOak HRでの記載とした。

2.3 歯科カルテの概要と医科歯科電子カルテの連携
 歯科電子カルテシステムについてはHAPPY ACCEL-ERD(東芝住電医療情報システムズ)を導入した。基幹システムとの連携を行うことにより歯科医師がカルテにログインすると自動的に歯科電子カルテの2号用紙が立ち上がりカルテの記載、記録が可能となる。また、処方、注射、検体・細菌検査、放射線オーダーなど医歯共通オーダーは基幹システムのオーダー機能を使うこととし、主要なオーダを起動するためのアイコンを2号用紙画面上に設け、そこから直接起動、操作ができるようにした(fig.2)。これにより前システムでは医科電子カルテと歯科レセコンに二重入力が必要であった処置行為、処方、注射、検査やエックス線オーダなどは入力と同時に医科カルテと歯科のカルテに記録、反映されるようになり、二重記載の煩雑さや入力ミスの危険性を解消することができた。
図2 基幹システムと歯科カルテの連携:

 電子カルテでは患者をキーとして診療行為、診査、検査の内容などを時系列で一元的に管理する必要がある。その一方で、歯科カルテは保険診療における療養担当規則を満たし、療養給付の基となる記録である必要があり、そこには歯科特有の保険点数情報や、日計、月計を記載する必要があるなどの条件がある。今回構築した歯科電子カルテではカルテに記載した診療内容を医事会計システムで取込み、適宜修正した最終的な会計情報をカルテ側にフィードバックし、別画面として保険点数情報を表示することにより、保険診療録としての条件を満たすようにした。また、担当した歯科医師はそれを参照することにより、修正が必要な場合は保険請求との整合性のとれたカルテとして修正記載ができる。





3. 新カルテシステムでの病院全体としての情報共有
 新カルテシステムでは医科歯科間での完全な情報共有が1可能となった。その結果、検査結果や画像データなど、同一患者でもこれまで医科と歯科別々に管理されていたものが一つのカルテ上で管理されることになり、シームレスな医科歯科連携が実現できた。


3.1 新カルテシステムの医科歯科カルテ相互の診療情報内容の反映
 歯科カルテの記載は基幹カルテにアイコン記録され、そこからビューワーで歯科カルテの記載内容が参照できようになる。一方医科外来カルテと入院カルテの記載内容はテキスト形式で歯科カルテに反映される。これにより医師、歯科医師はそれぞれ医科カルテ、歯科カルテからお互いの診療内容を参照することができる(fig.3)。
図3 基幹システムへの歯科カルテの反映:






3.2 医科歯科連携の強化による医療の効率化、迅速化
  従来は院内であっても医科と歯科で外来診療内容をすぐには参照できず、必要な医療を提供するまで時間を要することが多かった。新システムでは医師、歯科医師はそれぞれ医科カルテ、歯科カルテからお互いのオーダー内容のみならず診療内容も参照することができる。それにより、より迅速に患者の状態を把握できたり、検査やエックス線撮影の重複を避けることができるようになった。その結果患者への負担を軽減でき、医療の効率化や迅速化を図ることができた。また、医学部や歯学部の研究室にもHIS端末を配置することにより、研究環境でもカルテの参照や記載を行えるようにしたことで診療の効率化を図ることができた。

3.3 医療安全に関する情報の病院全体としての共有
 基幹システムの患者情報として既往歴、治療歴、使用禁忌薬剤やアレルギー情報など医療安全管理上重要な事項を基幹システムに集約させることにより医科と歯科でその情報を利用、共有できるようになった。

4. 現状の課題と今後の展望
 カルテを紙から電子媒体に移行する際の障害の一つは、特にリアルタイム性の高い外来診療において、診療プロセスに深く根付いた紙カルテの記録性と参照性を電子媒体に移行することによる診療効率低下である。今回の外来電子カルテ化にあたり、医科では従来の紙カルテから緩やかな移行のため、手書記載用紙のスキャン読み取りシステムを導入した。一方、歯科では2001年よりレセコン入力によるカルテ記載を行っていたため、今回の電子カルテ移行にあたっても比較的スムーズな移行が可能であった。レセコンとカルテの二重入力解消や一部残っていた紙オーダの電子化等による省力化が実現された一方、処置記載のナビゲートや医事チェックといった機能は現時点では電子カルテはレセコンのそれには及ばない。これは長年レセコンを使用してきたエンドユーザーの使用感の低下も招いていると考えられ、今後改善が必要な点の一つである。
 医歯統合病院において歯科の電子カルテが独自なものとなる理由の一つは、歯科カルテは2号用紙の記載に様々な要件と制約が課せられていることによる。特に、会計情報の記載要件については、病院のような同日に複数部署で診療や検査行為が発生する場合は、最終的な会計情報は医事システム上で整理されたものをカルテに事後フィードバックする仕組みが必要となる。今回の歯科電子カルテでは、オーダ時の点数情報はカルテには記録せず、事後に医事会計情報を引用する仕組みとしたが、現状ではこれがシステム上も運用上も最も現実的な方法と思われる。
 医歯統合病院におけるもう一つの問題は、医科と歯科の医事会計が独立しており、特に医歯間での転科は退院と入院を伴うという、不合理な手続きが必要となる点である。制度上の問題は病院で解決することはできないが、システム上でも入退院手続きによりオーダが引き継がれないといった不具合があるため、この点は今後システム改造で対応する予定である。
 今回構築した電子カルテは医歯統合病院の情報共有基盤として現時点で選択し得る現実的なシステムの一つと考えているが、データベースもユーザーインターフェイスも異なる複数の電子カルテが併存することは、いかに基幹システムで情報が統合されているとはいえ、高コストで利便性に欠き、情報共有環境や二次利用のためには貧弱な環境である。また、手書きスキャン併用によりカルテ記事の一部が非テキスト情報であること、それ以前にカルテ記事の用語が標準化されていない現状では電子カルテ情報の二次利用は極めて限定されている。次の課題は、病院規模や診療特性に柔軟に対応できる電子カルテと統合されたユーザーインターフェイスから情報の二次利用が可能となるような病院情報システムの開発、そしてカルテ用語を含む医療情報の更なる標準化であろう。
参考文献
[1]鈴木一郎、小林博、西山秀昌.:歯科情報システムの今後 大学歯科病院における病院情報システムの新たな展開. 医療情報学連合大会論文集 2006;26巻 174-175.
[2]鈴木一郎.:医歯学総合病院における歯科病院情報システム. 医療情報学連合大会論文集 2007;27巻 64-65.
[3]鈴木一郎、加藤一誠、依岡正宏.:歯学部附属病院における診療録記載支援システムの導入. 医療情報学連合大会論文集 2001;21巻 145-146.
[4]鈴木一郎、大内章嗣.:大学歯科病院における診療録記載支援システム導入の評価. 医療情報学連合大会論文集 2004;24巻 668-669.