標準歯科マスタを使用した医科歯科共存型電子カルテシステムの構築について
正木 史明1) 藤田 洋之1) 宇治川 清登2) 山内 智博3) 山根 源之2) 辻内 みゆき4) 松井 秀樹4) 松田 敏寛5) 榎本 邦彦5)
東京歯科大学市川総合病院 医療情報システム管理課1)
東京歯科大学 オーラルメディシン・口腔外科学講座2)
東京歯科大学 口腔外科学講座3)
東芝住電医療情報システムズ株式会社4)
日本電気株式会社 NECソフト株式会社5)
The development of electric medical and dental record systems function together using a standard master in dental
Masaki Fumiaki1) Fujita Hiroyuki1) Ujigawa Kiyoto2) Yamauchi Tomohiro3) Yamane Gen-Yuki2) Tsujiuchi Miyuki4) Matsui Hideki4) Matsuda Toshihiro5) Enomoto Kunihiko5)
Tokyo Dental College Ichikawa General Hospital, Medical Information Systems Management Section1)
Tokyo Dental College, Department of Oral medicine and Oral Surgery2)
Tokyo Dental College, Department of Oral Surgery3)
Toshiba Sumiden Medical Information Systems Corporation4)
NEC Corporation, NEC Soft Corporation5)
At Tokyo Dental College Ichikawa General Hospital, the new Hospital Information System, as electric medical and dental record systems function together has been operated in January, 2010.Reasons of the development that electric medical and dental record systems function together has been operated are duty on our college established in the first dental college and depend on particularity of dental health care and electric dental record .Then in order to electric receipts of dental, dental diagnosis master and dental health care master have been used in dental record system. Now, we are prepared to be able to submit to electric receipts of dental. This time, we report on the development and operation processes of the new Hospital Information System, as electric medical and dental record systems function together.
Keywords: electric medical and dental record systems, 医科歯科共存型電子カルテシステム, a standard master in dental, 標準歯科マスタ

1. はじめに
 東京歯科大学市川総合病院では医科歯科共存型電子カルテシステムを開発し、平成22年1月から本稼動している。旧電子カルテシステム導入では実現できなかった歯科電子カルテシステムと医科電子カルテシステムとの共存稼動は、当学が日本最古の歯科大学であるための必要性と、歯科医療行為、歯科電子カルテの特殊性によるところが大きい。また、歯科レセプト電算化を行うため、傷病名マスタ、歯科診療行為マスタを歯科電子カルテシステムに使用した。現在確認試験、本請求に向けて準備をしている。今回は標準歯科マスタを使用した医科歯科共存型電子カルテシステムの導入経緯と開発内容、稼働状況について報告する。
2. 導入経緯
 東京歯科大学市川総合病院は日本最古の歯科大学である東京歯科大学の付属病院として昭和21年に開院され現在20診療科、病床数570床の総合病院として千葉県市川市の中核病院の役割を担っている。当院の医療情報システムの沿革は平成14年3月のオーダリングシステム導入に始まり、平成16年3月電子カルテシステム導入、医科レセプト電算対応、平成19年4月医科レセプトオンライン請求開始、平成22年1月医科歯科共存型電子カルテシステム(旧電子カルテシステムのリプレイス)導入となっている。
 医科歯科共存型電子カルテシステムの開発・導入経緯として、旧電子カルテシステムのハードウェアの老朽化とソフトウェアの陳腐化が顕著となってきたこと、フルオーダリング、ペーパーレスをより推進すること、そして歯科単科大学では国内唯一の形態となる総合病院として、医科歯科診療情報の連携について歯科領域の立場にたって新規開発する必要性があったことが挙げられる。
3. 院内開発・導入体制
 平成21年6月から平成22年1月までの約7カ月の間に23の運用部会(WG)で業務分析、システム運用案を検討、決定していった。稼働2ケ月前に職種別操作研修、自主操作研修期間を1カ月設けて、稼働1か月前に全体・部署別リハーサルを2回行った。
4. ネットワーク・ハードウェア
 ネットワーク環境は、外来、病棟の基幹フロアハブを2重化し、無停電電源化、自家発電回路への切り替えを可能としており、有線配線は1Gbps(クライアントまでは100Mbps)、無線は54bpsとなっている。ハードウェア構成として、サーバは基幹系サーバ(電子カルテ、オーダリング、医事会計、汎用画像管理)では二重化クラスタリング構成とし耐障害性を高めており、インターフェースサーバ等の各種サーバを含めると合計72台となる。クライアントは電子カルテ端末561台(デスクトップ端末354台、ノート端末207台、19インチディスプレイ276台、タブレットディスプレイ78台、PACS用高精細ディスプレイ91台(電子カルテシステムとの相乗り))、プリンタ186台(診療文書、オーダ確認帳票の印刷に使用)、ミニプリンタ67台(病理検査ラベル、検体検査ラベル印刷に使用)となっている。
 医科電子カルテを主に使用する診察室では電子カルテ端末、19インチディスプレイ、PACS用高精細ディスプレイ、プリンタ、ミニプリンタの基本構成とした。歯科電子カルテを主に使用する歯科ユニットでは電子カルテ端末、19インチタブレットディスプレイ、PACS用高精細ディスプレイ、プリンタ(電子カルテ端末2台に1台設置)、ミニプリンタ(歯科ブースに1台)の基本構成となっている。看護師用電子カルテ端末にはバーコードリーダー付き無線ノート端末を可動式カート上に配置した。また、ファイリングに対応するため、スキャナーを23台配置した。
図1 歯科診察ブース:
5. ソフトウェア
 医科電子カルテシステムについてはMegaOakHR(NEC)を、歯科電子カルテシステムについては基本ベースとして、HappyAccelERD(東芝住電医療情報システムズ)を導入した。医科電子カルテシステム、歯科電子カルテシステム、オーダリングシステム(処方、注射、検体・細菌検査、病理検査、画像生理内視鏡、処置(汎用)、服薬指導、栄養指導、リハビリ、指示コメント、予約、病名、入院基本、患者基本、クリニカルパス等)、看護支援システム、医事会計システムを基幹システムとして、19の部門システム(①自動再来受付機システム、②診察券発行管理システム、③DPC情報システム、④給食システム、⑤調剤管理システム、⑥注射支援システム、⑦医薬品検索システム、⑧服薬指導システム、⑨看護勤務管理システム、⑩検体検査システム、⑪採血管供給システム、⑫病理検査システム、⑬生理検査システム、⑭画像・レポート配信システム、⑮内視鏡システム、⑯透析システム、⑰汎用画像管理システム、⑱病歴システム、⑲データウェアハウスシステム)と患者属性情報や依頼情報、結果情報等の送受信を行っている。またアイコンランチャとして、平成14年3月から稼働しているオーダリングシステムの情報と旧電子カルテシスムで作成されたカルテ、看護記録、診療文書を参照可能としている。
 医科電子カルテシステムのデータベースはOracle9i、歯科電子カルテシステムのデータベースはCache’を採用している。医科電子カルテサーバのプラットフォームはWindowsXP 、歯科電子カルテサーバはRedHat Enterprise Linux AS4である。医科歯科共有クライアントのプラットフォームはWindowsXPである。基幹システムのうち、医科電子カルテシステムは歯科電子カルテシステムとの連携部分を除いて、極力システム改修を行わず、既製品の中で可能となる細かなマスタ設定や運用変更で対処していった。看護支援システムも同様である。歯科電子カルテシステムについては、歯科診察記事入力、歯科処置オーダといった従来の歯科システム(歯科レセプトコンピュータ)の機能を強化し、ユニバーサルデザイン化した歯科電子カルテシステムの新規開発となった。また、歯科技工システム、歯科衛生士システムといった歯科分野の専門職種に特化したシステムも新規導入した。基幹システム部分と各部門システムについてはベンダー間の標準インターフェース仕様書に基づいて連携をしているが、医科電子カルテシステムと歯科電子カルテシステムの連携部分と、標準歯科マスタを使用した歯科電子カルテシステムと医事会計システムの連携については新規開発を行った。
図2 歯科電子カルテシステム画面:
6. 歯科電子カルテと医科電子カルテのシームレスな連携
 新規開発内容として、医科歯科の電子カルテ、オーダをお互いのカルテ機能を犠牲にせずにシームレスに連携したことが挙げられる。旧電子カルテシステムでは医療機関番号の違いから医科入院患者の歯科受診については外来診療扱いであったが、入院中外来の概念をシステムに盛り込んでいる。これにより薬剤部、検査部等の部門システムへ歯科医師からのオーダでも入院患者として投薬、検査指示が行える。また、歯科医師が医科電子カルテにログインして外来患者受付画面一覧にて患者選択すると、歯科電子カルテが自動起動することを始め、「処方・注射・画像・検査」といった各種オーダや汎用画像管理システム、画像配信システム等の部門連携システムが歯科電子カルテの一部のように起動・操作ができる。
 歯科電子カルテシステムとの共存を考慮し、医科電子カルテシステムのデータベースを歯科電子カルテシステム側で直接参照することで、オンタイムでの情報連携を実現した。医科電子カルテ情報を画面連携のタイミングで取り出すことにより、歯科電子カルテの大前提である治療病名に対しての所見等の記事入力や歯科処置オーダ入力、各種オーダ入力を実現している。歯科カルテに必要な医事請求点数の表記についても医事会計システムの算定情報を歯科電子カルテ側で参照可能にしている。
7. 歯科電子カルテ閲覧・記事入力機能の強化
 歯科電子カルテの閲覧・記事入力として新規追加された機能は以下である。
・患者の診療状態の時系列表示とフィルタ機能
歯科電子カルテ上で患者の診療状態(医科、歯科、入院、外来)を時系列に表示することができる。また、診察記事情報、歯科処置等のオーダ情報を職員毎の設定により絞り込む機能を追加した。
・治療病名による保険カルテ/自費カルテの自動選択
治療する病名により、保険カルテ/自費カルテが自動で切り替わる機能を追加した。選択した病名が保険病名であるか、自費病名であるかで、表示されるカルテが切替る機能を追加した。
・3D歯式シェーマ入力・参照機能
従来の平面シェーマではなく、立体化した歯科シェーマを3Dソフトにて作成し、現在6パターン(歯牙列1、歯牙列2、第一小臼歯、犬歯、側切歯、中切歯)登録している。
・歯科テンプレート入力機能
現在歯科の診察記事入力を円滑にするために、歯科テンプレート開発を進めている。
8. 標準歯科マスタを使用した歯科電子カルテと医事会計システムの連携
 歯科病名については、MEDIS-DC(財団法人医療情報システム開発センター)の歯科病名マスタを当初使用予定であったが、歯科医師から病名不足を指摘されたため、診療報酬情報提供サービスにて提供されている医科歯科収載の傷病名マスタ、修飾語マスタを使用することとした。
 歯科レセプト電算化対応の傷病名マスタ、修飾語マスタを使用したため、医事会計システムと1対1でマスタコードが関連付けされている。歯科処置・手術については、ベンダーの提供するマスタ(以下ベンダー提供マスタ)と診療報酬情報提供サービスの歯科診療行為マスタの変換・統合処理を行う仕組みを新規開発した。従来歯科紙レセプトによる請求には医事会計システム内に病院が作成したマスタ(以下ユーザマスタ)を使用しており、歯科診療報酬上のルールに基づいた歯科レセプト印字位置情報やコメント情報を補填するために活用されていた。まず、ユーザマスタをベンダー提供マスタに完全に入れ替え、ベンダー提供マスタと歯科診療行為マスタの関連付けを行った。歯科診療行為マスタがN個に対し、ベンダー提供マスタは1個でマスタコードの紐付けを行う必要性があったため、N対1の変換・統合処理を歯科連携サーバ内で行うこととなった。この仕組みは傷病名マスタや歯科診療行為マスタ等の標準歯科マスタを使用する上で歯科紙レセプト作成と歯科レセプト電算化の両方に必要なシステム処理であった。
 今回のシステム導入では、平成22年4月診療報酬改定の余波を想定して歯科レセプト電算化の同時稼動を延期したが、審査機関との確認試験、オンライン請求による歯科レセプト電算化の事前準備は整ったと言える。
図3 標準歯科マスタと医事会計システムの連携:
9. システム開発時の問題点
 歯科電子カルテシステムと医科電子カルテシステムの切り替えが簡易に可能となるよう、オーダ・電子カルテ情報更新がオンタイムで行うことができるよう医科電子カルテシステムと医事会計システムのデータベース開放が必要であった。インターフェースサーバを介さないで直接データベース参照を行うことがベンダー間でなかなか合意が取れなかった。医科歯科の異なるシステムベンダーの間に立ち、利害関係のあるシステムベンダー間の壁を取り払い、医科・歯科のカルテに対する考え方の違いをシステムベンダーに理解させるには、システムベンダー間で機密保持契約を結ばせる等の情報公開を必要とした。
 また、医科・歯科電子カルテシステムの診療情報が最終的に1つの医事会計システムに会計・請求情報として伝達されるまでのシステムデータフローの構築に時間がかかった。具体的には、まず歯科電子カルテシステムから発生した歯科病名・歯科処置情報は歯科病名・処置サーバ、歯科連携サーバに伝達される。その後歯科処置情報は直接医事会計システムに伝達されるが、歯科病名情報は医科電子カルテシステムを経由して医事会計システムに伝達される。歯科電子カルテシステム側では医事会計システムの患者属性情報を取り込み、算定情報、医科電子カルテ情報をクライアントで参照することができる。医科電子カルテシステム側では各種オーダ情報が医事会計システムに伝達され、医科電子カルテ情報がクライアントで参照できるといったフローになっている。

図4 システム概念図:
10. 今後の課題
 今回傷病名マスタや歯科診療行為マスタといった標準歯科マスタを使用したことにより歯科レセプト電算化への準備は完了したと考えている。今後は歯科においての治療病名とレセプト請求病名の考え方についてもう一歩踏み込んでいきたいと考えている(治療病名の医事会計システムへの情報伝達、歯式のコード化、移行病名、併記病名)。また、ICD10対応標準病名マスタや歯科病名マスタとの互換性を持つ標準歯科マスタを使用したことにより、歯科診療データベースからの情報抽出の準備もできたといえる。
 将来的には、医科・歯科電子カルテシステム、オーダリングシステム、看護支援システムといった基幹システムデータベースと画像情報、病理検査情報、退院サマリ情報等の部門システムデータベースを一元管理したデータ取り込みインターフェース機能とデータ抽出インターフェース機能の両方を実装する蓄積・検索型データベースを構築することが必要である。

図5 今後の課題 DWHの将来構想:
参考文献
[1]財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)歯科分野の標準化検討委員会.:「http://www2.medis.or.jp/master/sika/byoumei/.」標準歯科病名マスターの概要<Ver.1.09>.
[2]財団法人医療情報システム開発センター.:「http://www2.medis.or.jp/stdcd/byomei/index.html.」ICD10 対応標準病名マスターVer.2.83仕様書.
[3]診療報酬情報提供サービス Various Information of Medical Fee.:「http://www.iryohoken.go.jp/shinryohoshu/receDentalMenu/.」レセプト電算処理歯科システムに関する情報.