導入した医療情報システムにおける運用状況アセスメント
日浅 恭1) 田中 武志1) 小野 重弘1) 西 裕美1) 河村 誠1) 荒川 真1) 内田 雄士1) 鍋島 巧1) 香川 和子1) 上田 宏1) 海原 康孝1) 中元 崇1) 齊田 拓也1) 岡田 貢1) 安原 幸美1) 小川 郁子1) 中岡 美由紀1) 槙田 和子1) 田中 俊生1) 小川 哲次1) 鎌田 伸之1) 山田 文香2)
広島大学病院1)
富士通中国システムズ2)
The Availability Assessment of Medical Information System After Introducing in the Dental Section of University Hospital.
HIASA Kyou1) TANAKA Takeshi1) ONO Shigehiro1) NISHI Hiromi1) KAWAMURA Makoto1) ARAKAWA Makoto1) UCHIDA Yuushi1) NABESHIMA Takumi1) KAGAWA Kazuko1) UEDA Hiroshi1) KAIHARA Yasutaka1) NAKAMOTO Takashi1) SAIDA Takukya1) OKADA Mitsugu1) YASUHARA Yukimi1) OGAWA Ikuko1) NAKAOKA Miyuki1) MAKITA Kazuko1) TANAKA Toshio1) OGAWA Tetsuji1) KAMATA Nobuyuki1) YAMADA Fumika2)
Hiroshima University Hospital1)
Fujitsu Chugoku Systems Ltd.2)
Hiroshima University Hospital introduced the new medical information system Hope/EGMAIN-EX(R)(Fujitu Co. Ltd) in September 2008, which made possible for all staff of hospital to access medical and dental records by LAN. As almost all operations became to be done by using computers, this introduction changed working methods of all hospital staff. Using questionnaires, the authours assess the newly introduced medical information system from viewpoints of hospital staff in their operations and cooperations. Staff in the Dental Section of the hospital answered questions about satisfaction of their working condition in using the new system after 6 months and 18 months from the introduction. And questionnaires about function of authorizing medical records written by dental doctor-in-training were also done. According to the results of questionnaires, the new system was to be found well accepted totally. But the degrees of satisfaction in some questions were low, thus, it was desirable to improve some functions and operating methods of the system. It was considered that an regular availability assessment of medical information system was important for its users to manage it well.
Keywords: Assessment of Information System, 情報システムの評価, Dental Information System, 歯科情報システム, Authorization of Medical / Dental Records by Doctors-in-Training, 研修医カルテのカウンターサイン

1. はじめに
 広島大学病院は,2008年 9月にHOPE/EGMAIN-EX(R)(㈱富士通)を中核とする統合型医療情報システムを導入した。それ以前は診療録や紙媒体で保存していた検査記録,X線レントゲン写真および入院看護記録を電子化し,ほとんどの医療情報をオンラインで共有可能とした。また,部門間オーダの依頼,受領,実施,結果を電子的に実施記録することで,オーダの依頼から完了までをすべてオンラインで端末から確認可能とし,部門間の連携を強化した。さらに, 2010年4月には中核システムをHOPE/EGMAIN-GX(R)(㈱富士通)にバージョンアップし,諸機能の強化をはかるとともに,新たに歯科医師臨床研修におけるカウンターサイン機能1)の利用を開始した。
 近年,医療機器のデジタル化とネットワーク技術の発達が相まって医療情報ネットワークによる医療業務のIT化が進んでいる。このような新しい医療情報システムは,紙カルテとレントゲン写真を見て患者情報を収集し,ペンで記録する診療のスタイルを,コンピューターのディスプレイを見て患者情報を収集し,キーボードとマウスで入力するよう変化させた。医療情報システムは,複数の部門が複雑に連携して行われる病院業務の情報基盤となっているため,歯科医師のみならず,病院職員すべての業務がコンピューター端末を介するように変貌しているであろうことは想像に難くない。このような状況のなかで,歯科領域においてIT化された医療情報システムの導入による新しい機能の報告や,その効果についての分析は多々報告されているものの2) 3)導入されたシステムの稼働状況を調査し分析した報告はあまり見受けられない。そこで,われわれは,導入した医療情報システムの点検評価を行うため,構成員にアンケートを実施し,運用や連携の観点から分析を行うことにした。
2. 対象および方法
 対象は,広島大学病院歯科領域15診療科,診療支援部2部門,研修指導医,歯科臨床研修医および事務部を対象とした。医療情報システムについてのアンケート(アンケート1)は,新システムの導入約6ヶ月後および約2年後に行った。また,歯科医師臨床研修のカウンターサイン機能についてのアンケート(アンケート2)は,導入の約4ヶ月後に実施した。実施したアンケートの項目を表1および表2に示す。
3. 結果
 医療情報システムについてのアンケートでは,システム導入6ヶ月後に 15診療科,診療支援部2部門の17名が,システム導入2年後に15診療科,診療支援部2部門および事務部の26名が回答した。
 アンケート1の結果を,システム導入6ヶ月後(アンケート1-1)を図1に,2年後(アンケート1-2)を図2に示す。アンケート1-1では,5段階評価(満足4-不満0)で回答を求めたところ,不満評価0の回答はないものの,中間の評価2が最も多く,評価1とあわせると否定的な評価が強い印象を受けた。特に,Q2.2では,他と比較して評価1の割合が多い結果となった。これに対し,アンケート1-2では,4段階評価(満足4-不満1)で回答を求めたところ,全ての項目で評価4および3の肯定的な評価が多数を占めていた。
 アンケート2の歯科臨床研修指導医(指導医)の回答(アンケート2-1)を図3に,歯科臨床研修医(研修医)の回答(アンケート2-2)を図4に示す。アンケート2-1では, 5段階(満足4-不満0)の評価2が最も多く,肯定的な評価よりも否定的な評価が多い傾向を示した。また,指導医の約半数が,運用上の問題に遭遇した経験を持っていた。これに対し,研修医が回答したアンケート2-2の結果は,肯定的な評価が半数以上を占めていた。また,約三分の一程度の研修医しか運用上の問題に遭遇した経験を持っていなかった。
4. 考察
 今回の新しい医療情報システムの導入において,われわれは約1年前より準備を開始した。診療録をはじめ紙媒体で保存していた検査記録,X線レントゲン写真および入院看護記録が電子化されることから,部門連携を重視した小ワーキンググループで新しい運用案を策定し,それらを統括する大規模なワーキンググループで運用方法を決定した。アンケート1-1の全般的な評価Q1の結果から、約半数は肯定的な評価4および3と回答し,評価2を加えると8割近くの構成員が概ね問題はないと考えていることが分かる。しかしながら,電子カルテの診療記録においては,Q2.1カルテ入力は良好な結果となっているものの,Q2.2およびQ2.3とも否定的な評価が多くなっており,歯科病名処置や処置セットなど入力支援ツールに問題がある可能性があると考えられた。このため,歯科処置に関するワーキンググループでは,入力支援のセットマスタや運用上の問題点を検討して改善を行い,定期的に検証していくことにした。また,Q3部門オーダの評価では評価1の割合が高い結果となっており,部門連携においては運用面に混乱が生じている可能性が示唆された。これに対しては,オーダごとに関連する部署より構成する小規模ワーキンググループを作り,運用面から解決を図った。
 アンケート1-2では、評価を4段階にして、評価が肯定的なのか否定的なのか明確にすることにし,さらに,アンケート1-2ではまとめて調査した部門オーダの評価を細分化することにした。その結果、全般的にアンケート1-1と比較して評価4および3の肯定的な評価の割合が多く,2年間の経過により新しい医療情報システムへの熟練度の高まりと新しい運用の定着がなされていることが伺えた。一方で,Q2.2歯科病名処置画面とQ2.3処置セットマスタについての評価は否定的意見が多い傾向を示していた。この結果は,アンケート実施5ヶ月前に医療情報システムのバージョンアップを行い,その1ヶ月後に健康保険の改訂が連続したことにより,混乱が生じているものと考えられた。部門オーダの評価では,歯科放射線オーダと歯科技工オーダが良好な結果であったのに対し,歯科再診予約では否定的評価が多い傾向を示した。歯科放射線オーダと歯科技工オーダは,オーダが依頼側から受け側へと一方向の連携であるのに対し,歯科再診予約オーダは,部門や歯科医師により運用方法が微妙に異なるうえに,患者,歯科医師,診療台および歯科衛生士の要素をマッチングさせる必要があるため連携が困難と考えられた。現在の運用では,歯科医師の予約スケジュールは完全には電子化しておらず,部分的に紙媒体の予約表が正本として運用されている。すなわち,紙の予約簿を電子入力するように運用している。今後は,コンピューター上の予約データを正本とした完全電子化を推進する構想もあるものの,実現のためにはこのアンケートにあらわれた問題点を詳細に調査する必要が有ることが示唆された。
 臨床研修において,研修医の処置などの医療行為に関しては,研修医が単独で行ってよい行為,指導医によるチェックや指導が必要な行為に関する基準が明文化されておらず,本来,指導医のチェックが必要であるにもかかわらず,チェックがなくても実施できる実態が問題視されている4)。歯科においても同様の問題が認識されており,歯科臨床研修指導医(指導医)の確認は必須で診療録への指導医のサインが推奨されている。このような状況に対し,カウンターサイン機能は,歯科臨床研修医(研修医)の医療情報システム上でのユーザー権限を,指導医のチェックがないとオーダ発行できないよう制限することで実現するものである。研修医の医療情報システム上の権限を,院内で画一的に制限でき,指導医によるチェックを確実に行うことができる。広島大学病院では,平成22年4月より運用を開始した。指導医のカウンターサイン機能についてのアンケート2-1では,全般的評価Q1も,目的別の評価Q2.1およびQ2.2も評価2が最も多く,それ以外の評価は,肯定的評価と否定的評価がほぼ同じか,否定的評価が若干多い傾向を示した。これに対し,研修医のアンケート2-2では,Q1およびQ2.1は肯定的評価が半数以上を占めていた。このことから,研修医は,自分のオーダ入力には指導医のチェックがかかることを知っているので,研修状況や内容は指導医に把握されていると感じているのに対し,指導医からは,閲覧はできるものの臨床研修の状況を把握するには足りない点があり,研修医にとっても有用とは感じにくいことが示唆された。生じた問題点Q3.1では,指導医の約半数が問題発生の経験を持っていたのに対し,研修医は3分の1程度にとどまっており,自由記載の記載でも,指導医と比較して研修医側の問題意識は薄いように感じられた。カウンターサイン機能については,医療情報システムにより臨床研修指導が可能なのではなく,オーダのチェックが可能なのみであるのに,研修医と指導医の意識に差があるため,当該機能をどのように生かすのか明確になっていない可能性が示唆された。
 本研究の結果,新しい医療情報システムの導入は,医療現場に様々な混乱をもたらしたものの,時間と共にある程度は収束していることが伺われた。しかしながら,医療情報システムは複数の部門が複雑に連携して行われる病院業務の情報基盤となっているため,システムのバージョンアップや保険改正など環境の変化により運用上の問題が新たに生じてくる可能性があることが示唆された。また,医療情報システムは,ネットワークによる連携で,さまざまな診療情報を院内のあらゆる場所で確認することを可能にするものの,これまで行ってきたアナログ的な連携を行いにくくする可能性がある。今後,このような特性を踏まえた新しい連携の充実化が望まれるが,そのためには,いろいろな機能の運用状況をタイムリーかつ多角的に評価改善することが不可欠であると必要があると考えられる。医療情報システムを有効に使っていくためには,定期的に点検評価を行い,人的な連携でタイムリーに改善を図っていく必要が有ると思われた。
参考文献
[1]合地 明,他4名.:臨床研修医に対する電子カルテ上でのカウンタサイン(記載内容確認・承認)機能の開発. 第25回医療情報学連合大会論文集,p.551-552,2005.
[2]齋藤孝親,他7名.:歯学部付属病院における歯科電子カルテ導入時の諸問題とその対応について. 医療情報学,27 (Suppl.):p.60-61,2007.
[3]伊藤 豊.:北大病院(歯科診療センタ)におけるシステム上の病院統合と電子カルテ導入を目標とする次期システムへの取り組み. 医療情報学, 27(Suppl.): p.1067-1068, 2007.
[4]国立大学病院附属病院長会議医療安全管理体制問題小委員会.:研修医に対する安全管理体制について(問題点及びその改善策). 1994.

表1 医療情報システムについてのアンケート項目(アンケート1-1,1-2):
表2 カウンターサイン機能についてのアンケート項目(アンケート2-1,2-2):
図1 アンケート1-1の結果:
図2 アンケート1-2の結果:
図3 アンケート2-1の結果:
図4 アンケート2-2の結果: