歯科診療における地域連携のための診療情報内容の取扱いについて
瀧川 智義1) 瀬崎 基史2) 清水 典佳1) 宮崎 真至1) 伊藤 公一1)
日本大学歯学部1)
岡山情報処理センター2)
A study on the handling of information of dental treatment for region
Takigawa Tomoyoshi1) Sezaki Motoshi2) Shimizu Noriyoshi1) Miyazaki Masashi1) Ito Kouichi1)
Nihon University School of Dentistry1)
Okayama Electronic Data Processing System Center Co.,Ltd.2)
A medical treatment safety measures and regional cooperation of the medical treatment are important. Patient's diagnosis and treatment information is important for the region. The purpose of this research is an investigation of the content concerning diagnosis and treatment information on the Nihon University school of dentistry dental hospital. Diagnosis and treatment information which the patient who had come to the hospital in 12 months from April 1, 2009 to March 31, 2010 had brought was investigated. The content of the investigation is a request diagnosis and treatment department, a content of the request, and bringing material at the request lapsed days. The diagnosis and treatment information total of the hospital was 11,700. The average at each month was about 931. Diagnosis and treatment information was a content of the diagnosis and treatment to a lot of diagnosis and treatment departments. t is an important element for the diagnosis and treatment of the medical treatment organization for patient's diagnosis and treatment information to treat the dental treatment department. his diagnosis and treatment information paper and the bringing material are to do attached preservation to the medical record. It is necessary to standardize information to the electronic clinical record system for preservation.Management to which a lot of diagnosis and treatment information is necessary, and the diagnosis and treatment information is standardized is important for the region.
Keywords: dental treatment, 歯科診療, dental treatment for region, 地域連携, medical information, 診療情報, electric medical record system, 電子カルテシステム

1. はじめに
 近年,歯科医療の質の向上のために,医療安全対策および地域連携を密に図ることが重要である。この地域連携を図るためには患者の情報のやり取りが重要である。現在,日本大学歯学部付属歯科病院(以下,当院と称する。)においては,ほとんどの症例が健康保険法に定められた標準様式用紙又はそれに準ずる様式用紙を用いて,紹介元医療機関からの診療情報を得ている。今回,この診療情報に関する情報内容の調査を行い,その診療情報の内容及び持参資料について調査したので報告する。また,診療情報の標準化についても考察する。
2. 調査対象と内容
  調査対象は平成21年4月1日から平成22年3月31日までの12カ月間で当院に来院した患者が持参あるいは郵送されてきた診療情報提供書である。調査内容は,診療情報提供書に記載されている内容から保険診療と判断されるものを抽出して,地域歯科診療支援病院歯科初診料の算定要件である文書による紹介により当院に来院した患者数を調査した。そして,診療情報提供書の内容を詳細に調査するために平成22年1月1日から平成22年3月31日までの3カ月間に持参された診療情報書に記載されている発行日日付と患者来院日との依頼経過日数,診療依頼診療科,診療情報とその診療依頼内容および持参資料等である。
3. 結果
 当院の平成21年4月1日から平成22年3月31日までの診療情報提供書総数は11,170件であり,その月平均枚数は930.8枚であった。その中で地域歯科診療支援病院歯科初診料の算定要件である保険診療に該当するものは8,685枚であり,その月平均枚数は723.8枚であった。そして,平成22年1月1日から平成22年3月31日までの3カ月間の診療情報の詳細内容調査として診療情報提供書持参経過日数は,最大経過日数は1月356日,2月344日および3月351日であり,最小日数はいずれの月も発行日に来院した0日であった。月平均経過日数は,1月16.8日,2月18.0日および3月15.6日であった。診療依頼診療科については,いずれの月も口腔外科が最も多く,1月65.1%,2月71.1%および3月68.0%であった。そして,歯科放射線科,歯内療法科の順であり,当院のすべての診療科におよんでいた。また,診療依頼内容については,いずれの月も抜歯(埋伏歯,過剰歯等)が最も多く,1月47.6%,2月53.9%および3月51.5%であった。そして,3DCT(歯科用CT)撮影依頼,歯内療法,顎関節症の順に多く認められた。持参資料については,放射線画像がほとんどを占めており,その他スタディモデル,口腔内写真が数件認められた。この放射線画像に関しては,そのほとんどがフィルム写真であり,その種類は歯科標準型,パノラマ写真である。デジタル写真は,紙印刷のものとCD-ROMがあった。そして,このフィルム,紙印刷およびCD-ROMの返却要望率は,持参患者の1月73.2%,2月74.9%および3月79.9%であった。
4. 考察
 医療機関間の診療連携には,患者の診療情報のやり取りが歯科治療を行なう上で重要な要素となる。今回の調査により当院における診療情報提供書に関しては,多くの内容があり,歯科大学病院としてのこれからの方針にも多くの示唆が含まれていた。また,診療情報提供書の経過日数については,症状の変化があると判断される場合もあり,診療上は新たな検査から開始することが必要となる症例もあることが認められ,診療情報提供書の有効期間についても今後の課題とする必要があろう。診療内容については,口腔外科および歯内療法関連等の処置あるいは診断依頼情報が多く認められ,歯科治療の特殊性および難治療に対して,当院が対応していることが判明した。今後とも,多くの歯科診療所,医科病院・診療所に対して当院の治療状況を広くアピールして地域歯科医療に貢献することを継続するが必要である。
 また,この診療情報提供書および持参資料は,診療録に添付保存することとなっている。しかし,持参資料についてはその多くが歯科放射線画像であり,紹介元からの処置後の画像の返却を求められる症例が多く認められ,当院ではその読像所見を残すのみとなる。これらの読像所見および画像が揃っていると,他疾患等での再度の紹介時にもこれらを役立てることが出来るものではないかと考えている。このためには,画像情報がフィルム画像のコピーでは,再現が困難であることが多いために,画像情報のデジタル化が早急に望まれるところであると考えている。
 そして,これらデジタル化されていない情報を保存するための物理的空間を確保することは,紹介先医療機関の長年の問題点である。当院では,平成19年5月より電子カルテシステムを採用しており,これら診療情報に係る情報が,何らかの電子情報で添付されるとなると,その保存場所に関しては,サーバーに保存が可能となり,保存場所の省スペース化にも寄与しているところである。しかし,その保存方法には,様々な情報を一括して保存することが,情報活用には有効であるが,現在の歯科の状況を考えると放射線画像のデジタル化は遅れており,その保存には診療情報の規格標準化が不可欠であると考えている。
 この規格にはHL7,DICOM等が医科システムと一部の歯科病院で標準的に使用されており,患者の情報を紹介元と紹介先の病院あるいは診療所と電子的に共有して患者の診療に有効に活用されている。現在,歯科放射線学会あるいは歯科工業会において画像情報の規格化がすすめられてはいるが,多くの病院,診療所においては歯科専用撮影機器自体の画像情報が規格化されておらず,その規格統一が待たれる。今後,規格化された歯科診療における情報が,医療機関間の地域連携においても患者に有益な効果を生み,患者の満足度を向上させる診断および処置がなされるような方向に早急に進展することが望まれる。
 現在,歯科診療情報については,レセプトの電算化あるいはオンライン化が進行しており,平成23年4月にはほとんどの歯科病院および診療所が参加することが考えられる。これはセキュリティを重視したものであり,情報の管理もそれぞれの病院および診療所で認識されるようになる。さらに,この歯科診療情報に関しては,標準化がなされているために,歯科においてこのような体制が整うことは地域連携をさらに容易に進めることが出来ると考えている。
5. 結語
 日本大学歯学部付属歯科病院において診療情報提供書を調査し,多くの疾患あるいは診断,処置の依頼があることが判明した。地域連携には多くの診療情報が必要であり,その診療情報の規格標準化された管理が重要である。