病院で溜め込まれた『紙』の電子化について
林 直治1) 玉川 裕夫1) 廣田 映二1) 多賀 義晃1) 坂田 克行1) 村上 伸也1) 稲田 拓2) 池田 稔2)
大阪大学歯学部附属病院医療情報室1)
(株)日本シューター2)
How to Deal with Paper Document in Hospital? -Digitize or Not.
Hayashi Naoji1) Tamagawa Hiroo1) Hirota Eiji1) Taga Yoshiaki1) Sakata Katsuyuki1) Murakami Shinya1) Inada Taku2) Ikeda Minoru2)
Division of Medical Information, Osaka University Dental Hospital1)
Nippon-shooter, Co., Ltd.2)
Keywords: paper document, , paperless, , digitization, , authenticity,

1. はじめに
 近年歯科系大学病院においても、HISが導入されることにより、さまざまな成果が報告されている。また歯科特有の表記方法である歯式を作成するためのフォントもunicodeに組み込まれ1)、ますますIT化に拍車がかかることが予想される。これに伴い考えておかなければならないことのひとつとして、これまでの紙資料(以下『紙』と称する)をどうするかという点が挙げられる。『紙』と一口に言っても、これまでの診療内容を記録している紙カルテ、診療業務をサポートする帳票類、病院機能を評価管理するに資する帳票類、各部署間でのモノや情報のやりとりに使用される紙伝票、などさまざまなものが挙げられる。
本来これらのものは、カルテに綴じられるなどにより、患者単位でまとまって存在しているべきであるが、大学病院という要素(大きさ)も手伝って、散在しているのが現状である。さらにHIS導入により、診療現場ではこれまで以上に簡単に『紙』が作成可能であり、過剰な『紙』も考えられる。
そこで今回、大阪大学歯学部附属病院に存在している『紙』を基に、その性質などについて現状を把握し、それらを電子化するにあたって考慮すべき点を明確にすることを目的とした。
2. 方法
 本院内で存在している各種『紙』にどんなものがあるのかに関して、各診療部署に対してアンケート調査を行い、その結果を基に電子化に際して考慮すべきことを考察した。
3. 結果
 アンケート結果により判明した『紙』について、全体で約400種ありその半分(約200種)に個人情報が含まれていた。大きさはA3からA6までがあった。各文書の量(枚数)は数日で1枚のものから1日に100枚を超えると考えられるものまであり、これら『紙』の全体量や1日あたりの増加量を正確には把握できなかった。
 内容による分類では表1に示すとおり、『文書の動き』による分類で、院外→院内(他院からの紹介状など)/院内→院外(各種診断書など)/院内1→院内2(各種検査レポート)/院内1→院外→院内1(同意書など)/院内1(各科カルテ)の5パターン、『紙への出力方法』による分類で、システムからの出力のみ(患者説明用資料など)/システムからの出力+自由文手書き(同意書など)/システムからの出力+選択手書き(各種アンケートなど)/システムからの出力+自由文&選択手書き(詳細な問診票など)/手書きのみ(各科患者台帳など)の5パターン、『保管期間』による分類で、永久/一定期間/無し(都度廃棄)の3パターンが認められた。その他に『個人情報の有無』『法的保管義務の有無』『内容の追記の有無』『内容の修正の有無』などの指標が認められた。
4. 考察
 現存する『紙』について、多種多様なものが存在することが確認できたが、問題はこれに留まらず、これら『紙』を電子化する以降にも存在する。即ち、『取込方法』として、仮想プリンタ/各部署毎のスキャン/院内で一括してスキャンの3パターンが、また保管形態として『認証の有無』や、『電子化後の2次利用の有無』『紙元本の廃棄の可否』についても考慮が必要であると考えられる。
 しかしながら一方で、ストレージの単価は驚くほど安くなっており、また、windows journalのようなOCR技術の発達も見逃せないものがあり、上記した分類の如何にかかわらずありとあらゆる物を電子化して取り込むことにより、「ここになければどこにも無い」という状態を作ってしまうという考え方もある。
 そして「ここになければどこにも無い」という状態を作り出せることが、各種紙資料の電子化による最大のメリット2)であり、情報管理の立場から見たときこの点は大きい。
その反面、『真正性』を誰が・どうやって・どのくらいのコストをかけて・どこまで担保するのか、あるいは2次利用できてこそのデータ蓄積であるという考え方から、そこまで担保するに見合うだけの有用なあるいは担保することが求められる情報なのかについては、まだまだ議論がなされるべきであると考える。
参考文献
[1]Hiroo TAMAGAWA et al.:Unicode characters for human dentition - new foundation for standardized data exchange and notation in countries employing double-byte character sets -. Handbook of Research on Dental Computing and Applications: Advanced Techniques for Clinical Dentistry. in press.
[2]JAMINA大阪セミナー.:「http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/special/it/report/200808/507518.html.」医療現場における完全ペーパーレス化は可能か?.
[3]第38回関西医療情報処理懇談会(20周年記念大会).:「http://www.jami.jp/hcit/doc/point08-028inf.pdf.」将来の医療IT.

表1 大阪大学歯学部附属病院に存在する紙資料の分類: