歯科衛生士業務記録の実装と、そのデータを用いた交付文書の自動出力
佐々木 好幸1) 都竹 常広2) 松井 秀樹2)
東京医科歯科大学歯学部附属口腔保健教育研究センター1)
東芝住電医療情報システムズ株式会社2)
Implementation of dental hygienist work journal and the automatic output of documents required to be delivered
Sasaki Yoshiyuki1) TSUDUKU Tsunehiro2) MATSUI Hideki2)
Center for Education and Research in Oral Health Care, Faculty of Dentistry, Tokyo Medical and Dental University1)
Toshiba Sumiden Medical Information Systems Corporation2)
The work of a dental hygienist is preventive treatment, dental treatment assistance and dental health guidance. Based on the dental hygienist enforcement regulations, a dental hygienist must make a work journal. A dental hygienist work journal is not a medical record, and it is not an official document, but can become evidence by the Criminal Procedure Code. After an insurance revision of 1996, the dental hygienist has to have come to mention information about a patient in work journal. At the dental hospital attached to our University, we implemented a dental hygienist work jhournal function in the dental information system. This helps promotion of efficiency of a work.
Keywords: dental hygienist, 歯科衛生士, work journal, 業務記録, documents required to be delivered, 交付文書

1. はじめに
 歯科衛生士法施行規則には、「記録の作成及び保存」として「第18条 歯科衛生士は、その業務を行った場合には、その記録を作成して3年間これを保存するものとする。」と定められている。この「歯科衛生士業務記録簿」は診療録ではないが、その内容としては診療録に同様な事項が記載されていることも多い。
 1996年4月以前は、歯科衛生士業務記録が適切に作成されているかどうかを調査することはほとんどなかったが、1996年保険改定で「歯科衛生士実地指導料」が導入された際に算定要件として、
が決められた。
 現行の保険診療においては、歯科診療録、患者交付文書、歯科衛生士業務記録簿にはお互いに冗長な情報が記載されているため、歯科医療情報システムに導入する価値が高い。本学歯学部附属病院では、2007年9月にこの機能を実装し、現在も順調に稼動しているので報告する。
2. 歯科衛生士業務記録簿に記載すべき情報
 前述のように、歯科衛生士法施行規則には「歯科衛生士は、その業務を行った場合には、その記録を作成し…」とある。「その業務」とは歯科衛生士の業務を指し、歯科衛生士法では、

が定められている。
 歯科衛生士業務記録簿は診療録でも公文書(公務員が公務で作成した文書を除く)でもなく、歯科衛生士個人が作成した一般文書である。刑事訴訟法第323条の「商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面」に相当し、適切に記載されていれば証拠となり得る文書である。逆に、証拠能力が存在する程度には詳細な記載が必要であるとも考えられる。
 もともと、歯科衛生士業務記録簿の書式に定めはないが、前述の1996年保険改定で導入された「歯科衛生士実地指導料」の算定要件として患者交付文書の複写の添付が要求されているため、患者交付文書に記載が必要な内容を歯科衛生士業務記録簿に書く必要が自動的に生じている。
3. 本システムの流れと機能
3.1 歯科医師による依頼発行
歯科衛生指導依頼情報として、患者ごとに以下の情報を管理する。

図1 依頼発行画面:歯科医師が歯科衛生士に口腔衛生指導を依頼する画面

3.2 歯科衛生士による依頼の確認
 現行では依頼の発行と同時に「口腔ケア外来指示書」が出力され、患者は紙の依頼書を持って「口腔ケア外来」に来ることになる。口腔ケア外来において患者の2号用紙画面を開くと依頼の詳細が確認できる。

3.3 歯周組織検査情報の入力
 過去の検査履歴があれば表示する。2号用紙画面から衛生指導依頼メニューの実地入力〔検査〕を選択することで起動する。起動時は前回検査結果を初期表示する。検査入力ボタンを押すと歯科衛生実地記録(検査入力)画面に移行する。
図2 歯周組織検査入力画面:歯周組織検査(ポケット、出血、排膿、動揺)の入力を行う

3.4 プラークコントロールレコードと指導内容の入力
 プラークチャートの上下に設置してある「プラーク一括選択バー」を押したときの動作は、

 画面上部の過去指導内容から、今回の指導内容にコピーできる。コピーしたい文章を選択し、コピーボタンを押すことによって、下部の入力画面にコピーされる。その際患者説明、実地指導の各々の指導内容の種別に合わせて今回指導内容にコピーされる。
図3 プラークコントロールレコードと指導内容入力画面:プラークの付着状況や患者への指導内容を記入・保存する画面

3.5 口腔保健質問用紙の記入
 初回指導時の各種アンケートを入力・保存する。以降任意の機会に修正・更新できる。当内容は、履歴保存を行うものとする。歯科衛生実地指導(プラーク入力)画面から口腔保健質問用紙ボタンを押下することにより起動する。ただし初回指導時はボタンの押下を待たずに自動的に起動される。二度目以降は、初期値に前回の入力内容を引き継ぐ。
図4 口腔保健質問用紙画面:初回指導時の各種アンケートを入力・保存する画面

3.6 患者指導概要の作成
 発行する文書の内容を確認する。二つ並ぶプラーク付着状況の絵図は、右側が今回図、左側は過去の任意の回(デフォルトは前回)の図とする。日付を指定して検索する場合は、指定した日付の直近過去(指定日を含む)の履歴を表示する。歯科衛生実地指導(プラークコントロールレコード入力)画面から、患者指導概要ボタンを押下することで起動する。文書は患者交付用、カルテ添付用、会計レセプト添付用の3枚を印刷する。実施した処置内容に合わせてタイトルを「P管理のみ」「実地指導のみ」「P管理と実地指導併記」と変えて出力する。
図5 患者指導概要画面:

3.7 指導説明書発行
 指導説明書は「診療文書(管理システム)ユーティリティ」で管理され、Microsoft Wordが自動制御される。
図6 診療文書ユーティリティ:診療文書ユーティリティを介して指導文書が発行される

図7 患者交付文書印字フォーマット:

3.8 歯科衛生士業務記録の閲覧・印刷
 歯科衛生士業務記録の閲覧・印刷については、歯科衛生士ごとに任意の期間の記録された業務を検索し一覧表示する。歯科衛生士実地指導料の算定要件である患者ごとの交付文書と同一の内容が出力される。また、統計表の出力も可能である。
図8 歯科衛生士業務記録(個別詳細):患者ごとの交付文書と同一の内容

図9 歯科衛生士業務記録(統計表):統計表の印字書式
4. 導入の効果
 導入当初は、歯周組織検査やプラークコントロールレコードのデータ入力に必要なリソースが心配された。そのため口腔ケア外来においては全歯科ユニットに端末を増強し、チェアーサイドで診査しながら入力できる体制を作った。入力の手間については、紙に手書きで記録するのとほとんど変わらなかった。
 紙で運用していた当時は、プラークコントロールレコードの計算、診療録に添付するチャートと業務記録簿のチャートと交付文書の塗り潰し作業など、使い回せるはずのデータを手書きで何度も書く必要があったが、これらの手間が激減した。
 本学歯学部附属病院では、患者ごとに担当歯科衛生士を配当する方法を取っているが、歯科衛生士の部署の異動や患者の都合などで、必ずしも一人の歯科衛生士が担当し続けられるとは限らない。このような場合、複数人の歯科衛生士の歯科衛生士業務記録簿から必要な情報を縦覧しなければ、一人の患者の指導の経過を追うことができない。電子的な情報は、患者の時系列、歯科衛生士の時系列、担当医の時系列など自在に見せ方を変えることが可能である。
 紙面の都合で記載できなかったが、本システムではプラーク付着の偏りから指導文書例を自動選択する機能や、過去に作成した文書を同一患者に限らずに部分的に再利用する機能、口腔清掃用具等の商品名のリストからの選択とリストのメンテナンス機能など、使い勝手に直結する機能が実装されていることも導入効果を高めていると考えられる。
5. おわりに
 2006年の保険改定で患者への文書交付が義務づけられ、「歯科医療機関いじめ」と思えるほど手間のかかる内容であった。2008年改定で、文書交付が「3月に1回」もしくは「3回に1回」に緩和され一安心であるが、交付文書は適切な情報が記載されて患者に適切に情報提供されればかなり有効な教育手段になる。「規則で決まったから、とりあえず(内容を吟味せず)文書交付する」という考え方から脱却することで、患者との信頼関係の構築にも役立つツールであると考えられる。