医科歯科統合システムにおけるマルチベンダーによる歯科電子カルテの構築
丸山 陽市1) 藤原 卓1)
長崎大学医学部・歯学部附属病院医療情報部歯科分室1)
Integrated electronic medical and dental record system on multi-vender environment in unified medical and dental hospital
Maruyama Youichi1) Fujiwara Taku1)
Nagasaki University Hospital of Medicine and Dentistry1)
The new hospital information system (HIS) that unified medical and dental hospital information systems has been operating since June 2008 in Nagasaki university hospital of medicine and dentistry. A basic specification of this new HIS was assumed to integrate all information generated from medical hospital section and dental hospital section in integrated electronic medical and dental record system, and to share medical and dental information in our unified hospital. However, HIS based on electronic medical record system would have contained the severe problem for dental hospital session because of the complexity in dental insurance system. For this problem, our solution was that electronic medical record system and electronic dental record system should be integrated for new HIS on multi-vender environment. The electronic dental record system by dental system vender has been used as front-end system of ordering system for dental disease name and dental treatment. In this multi-vender system, it was difficult that previous data of disease name and treatment history were shifted from previous ordering system to new electronic dental record system, in addition, the differences of the graphical user interface between two systems gave the confusion of system operation to dentists at the early time of new HIS. Though these problems are recognized, multi-vender environment has the advantage that electronic dental record system can solve the complexity in dental insurance system.
Keywords: electronic dental record system, 歯科電子カルテ, multi-vender, マルチベンダー, hospital information system, 病院情報システム

1. はじめに
 長崎大学医学部・歯学部附属病院では、平成20年6月より電子カルテを中心とした総合病院情報システムを稼動させている。新総合病院情報システムの基本仕様で策定した包括的業務要件の一つとして、医科と歯科の情報を一元管理し、患者基本情報および診療情報、画像情報等を医科、歯科間で円滑に交換できることとしている。これは医科歯科のシステムと患者IDを統合してすべての情報を電子カルテに集約し、医科歯科の診療情報をシームレスに表示・共有することで、医科歯科の連携を推進させることを意味する。これまで医科歯科統合前の歯学部附属病院では医科用システムを歯科用にカスタマイズすることを考えてきたものが、病院統合により、医科と共通システムの中で歯科の独自部分を実装する視点が必要である1)と言われはじめている。歯科の独自性とは医科の保険算定ルールと大きく異なり、部位、病名、処置の関連付けが必要であり、算定ルールが複雑なことである。この独自性を解決する手段が求められている。部位、病名、処置の関連付けや複雑な算定ルールに対応した算定・医事チェック機能は歯科系ベンダーによる歯科診療所用のレセコンではすでに実装されている。しかし、医科歯科システムの一元化による医科歯科共用部分の増加に伴い、医科システムのカスタマイズでの歯科独自性に対する対応は困難な状況である。病名・処置の歯科独自性を解決するために、歯科用レセコンと医事システムを連携させる方法1)が見られるが、電子カルテとの連携までには及んでいない。
 長崎大学では新システムの包括的業務要件を満たしながら、歯科独自性を解決する方法を検討した結果、医科系ベンダーによる電子カルテと歯科系ベンダーによる歯科システムを連携させ、歯科システムを病名・処置オーダのフロントエンドとして使用することとした。これにより歯科独自の病名・処置に関する問題点が解決でき、電子カルテと歯科システムのマルチベンダーによる歯科電子カルテ構築が可能となったので、その概略を報告する。
2. 新総合病院情報システムの概要
2.1 歯科電子カルテの基本要件
 歯科系診療部門で求める電子カルテとしての基本要件は以下の項目とした。

  1. 診療支援機能の充実(プロブレムリスト、プログレスノート、フローシートの活用)
  2. SOAPに対応
  3. 診察記事入力支援(テンプレート、シェーマの入力、ペン入力)
  4. 算定項目チェック機能
  5. 歯科処置の次候補表示
  6. 療養担当規則に基づいた記載内容、書式
  7. 歯周検査の電子保存と表示
  8. 複数診療科と連携した予約支援
  9. 歯科衛生士の業務記録簿と実地指導の連携
  10. 技工管理システム
  11. 学生教育支援

2.2 電子カルテシステム
 従来より歯科系診療部門では1患者1カルテであり、新システムの医科歯科統合により、病院全体で完全な1患者1カルテが実現でき、すべての医療従事者間で情報の共有が可能となった。さらに、歯科システムで発生した病名や歯科処置オーダ情報はすべて電子カルテへ送信することで、電子カルテ上で歯科システムの情報を含むすべての情報を集約することが可能となった。また、電子カルテの基本要件とした療養担当規則に基づいた記載内容、書式については、電子カルテに歯科カルテ参照ボタンを設定し、参照ボタンを選択することにより、歯科システムで2号様式イメージの画面を開き、歯科処置や各種オーダに対する点数、日締めや月締めの点数、負担金徴収額の表示を可能とした。
 学生教育支援に関しては、臨床実習生が担当する患者に限定してアクセス許可を与えるアクセス制御機能が実現できたために、臨床実習生に電子カルテの閲覧権限を与えて教育に利用できる環境が整った。

2.3 歯科システム
 電子カルテと歯科システムとの連携は以下の事項で実現させた。

  1. 患者基本属性
    • 医事システムへ登録した患者基本属性情報、保険情報を歯科システムに取り込む。
  2. 各種オーダ情報の取り込み
    • 電子カルテで発生したオーダ情報を歯科システムに取り込む。
  3. 歯科処置オーダ情報
    • 歯科システムで入力した歯科病名・処置オーダ情報を電子カルテへ送信し、電子カルテ上で情報を集約する。歯科処置オーダを含むすべてのオーダ情報は電子カルテから医事会計システムへ送信する。
 今回、歯科系ベンダーによる歯科システム導入で実現できたものは以下の項目であった。

  1. 処置部位に対する履歴管理の充実
    • 喪失歯、有髄歯、無髄歯の履歴情報。
    • 残存歯と喪失歯を管理するためのテーブルを患者毎に持つ。
    • 入力された歯の部位は、システム内で常に病名と関連付けて扱う。
  2. 歯科処置オーダ入力時の算定チェック機能
    • 対象部位(歯番の種類・状態)の条件。
    • 年齢条件。
    • 算定単位(1歯/1口腔等)。
    • 算定回数(当月/1回算定等)。
    • 有髄歯、無髄歯の条件。
  3. 処置オーダ入力のナビゲート機能
    • 病名により選択できる処置オーダセット項目を誘導する。
    • 処置履歴から選択する処置オーダセット項目を誘導する。
  4. 診断料、管理料、加算、摘要記載等の文書記載もれ防止と入力の省力化
    • 診断料、指導料、管理料および加算等の算定と文書記載を誘導する。
    • 摘要記載義務の病名・処置を確定する場合は記載を誘導し、記載後に算定する。
    • 提供文書は電子カルテに送信し、フローシートにも反映させる。
  5. 歯周検査の電子化
    • 歯科システムで入力した歯周検査は電子カルテに送信し、フローシートにも反映させる。
  6. 歯科衛生士業務記録
    • 歯科衛生士業務記録で入力したプラークチャートと文書は実地指導へ連携させる。

2.4 オーダリングシステム
 歯科特有の病名オーダ、歯科処置オーダ、予約オーダ、技工オーダ、歯科放射線オーダ以外のすべてのオーダについては、医科系診療部門と統合を行っている。放射線オーダについては、医科放射線と歯科放射線のオーダに別れているが、医科から歯科放射線、歯科から医科放射線へシームレスにオーダできる運用である。歯科特有のオーダに関して、病名オーダと歯科処置オーダは歯科系ベンダーによる歯科システムで構築し、予約オーダ、技工オーダ、歯科放射線オーダは医科システムで構築している。

2.5 医事会計システム
 旧システムが構築されたのは医科歯科統合前であり、統合後も医事会計システムは医科系診療部門と歯科系診療部門でそれぞれ独立したシステムで運用していたため、医科会計と歯科会計の合算ができずに、患者サービスの面で問題が生じていた。新システムでは医事会計システムは医科系と歯科系で一元化したために、医科系診療部門と歯科系診療部門は別棟であるが、どちらの会計窓口でも会計処理が可能となり、患者サービス向上に貢献できた。
3. 新システムの問題点
 歯科システムを用いたマルチベンダーによる歯科電子カルテ構築で大きな問題となったのは、歯科システムへ病名と処置履歴のデータ移行ができなかったことである。これは旧オーダリングシステムと歯科システムでの病名に対する扱いが異なることに起因する。旧オーダリングシステムは医科系のシステムであったため、歯科特有の部位情報がコード化されず、部位情報、病名、処置の関連付けができていなかった。一方、歯科システムはレセコンから発展したものであり部位情報、病名、処置の関連付けが必要であった。このために、新システム本稼動直前に再診患者に対する病名、処置履歴を歯科システムに事前入力する必要があった。医科システムと歯科システムの連携に伴う操作感は、シングル・サインオンによりシームレスな操作が可能となっているが、本稼動当初は電子カルテと歯科システムのユーザインターフェースの相違に戸惑う場面が少なくなかった。
4. まとめ
 歯科システムを病名・処置オーダのフロントエンドとしたマルチベンダーによる歯科電子カルテは、従来の医科オーダリングシステムをベースに構築した場合に問題となる部位、病名、処置の関連付けや算定チェックの実現が可能となった。今後は、現在は未対応である標準歯科病名への対応が重要な課題となる。
参考文献
[1]鈴木一郎、小林博、西山秀昌.:大学歯科病院における病院情報システムの新たな展開. 医療情報学 2006 : 26(Suppl) : 174-175.