北大病院歯科診療センタにおける病院情報システムの現状
伊藤 豊1)
北海道大学病院医療情報企画部(歯科診療センター)1)
The new system of hokkaido university hospital center of dental clinic
Ito Yutaka1)
Division of Medical Information, Hokkaido University Hospital(Center of Dental Clinic)1)
At hokkaido university hospital center of dental clinic we use the hosital information system since 2002. This year we edveloped and start to use the new system. In this new system we integrated all the patient's data of two hospital, medical and dental hospital of hokkaido university, and developed new system, the system for dental laboratory management, for dental higinist management, for dental surgery managemet, for the management of periodontics and electrical health record of dentalclinics.
Keywords: dental viwer, デンタルビューワー, filmless system of intraoral digital radiography, 口内撮影法のフィルムレス運用, electrical health record system for dental clinics, 歯科用電子カルテ

1. はじめに
 北大病院歯科診療センタにおいては、本年2月より新システムの運用を開始した。本システムにおいて、医科システムとの患者情報の統合をはかると共に、帳票・伝票運用を行っていた業務の電子化とカルテの電子化を目指すものである。今回、この新システムの現状及び開発状況を報告するものである。
2. 北大病院歯科診療センタの概要(H19)
・ 外来患者数 671人/日
・ ユニット数 192
・ 診療科 3診療科15専門外来
・ 病棟 固定床 26床 (医科病棟内)
3. これまでの経緯
H14年 2月 歯学部附属病院としてオーダリング
      システムの運用を開始
H15年10月 医学部附属病院と統合
      歯学部附属病院から北大病院歯科
      診療センタに改称。システムの統合は
      せず、医科参照用端末を導入
H16年10月 医科システムとのID統合作業開始
H17年 4月 次期システム調達作業開始
H18年 5月 歯科病棟の医科病棟への移転
H19年 5月 新システム開発開始
   12月 新システム用端末展開開始
H20年 2月 新システム運用開始
    5月 口内法X線写真のフィルムレス運用開始
    6月 院内手紙機能運用開始
    7月 歯科矯正フィルムレス画像分析運用開始
    9月 歯科技工オーダ・管理システム運用開始
   10月 歯科衛生師業務管理システム運用開始
       歯科外来手術管理システム運用開始
4. 新システムの概要

4.1 フィルムレスシステムの構築
 旧システムにおいても、口内法以外のXpは、医科側に準じてフィルムレス運用を行っていたが、新システムにおいては口内法のデンタル撮影等もデジタル化及びフィルムレス運用を行うこととした。

4.1.1 端末構成と展開
1.端末構成及び配置の概要
 旧システムにおいて、CT、MRI、胸部CR等は既にフィルムレス運用を開始していたが、パノラマ及びセファロはデジタル化されていたが、端末の数が不十分であったため、フィルム出しも平行して行っていた。新システムで口内法も含めたフィルムレス運用を開始するにあたっては、歯科診療上の特性上、全ての歯科ユニットに対し端末の設置は必須とされた。また、保存・補綴・歯科矯正の外来からは、治療中の参照及び患者説明用に、ユニットアームマウントのデュアルモニタの設置要望がだされ、これらを満たすため、以下の対応を行うこととした。
①端末種類について
 歯科外来、特にユニット周りやサイドキャビネット上は、治療用の器具や多種の材料などを操作する必用もあり非常に手狭で余剰スペースがあまりない場合が多い。このため、多くの現場で少スペースの観点からノート端末が選択されている。しかし、今回当院では、大量の画像を迅速に処理するには搭載されるグラフィックボードに余裕が必用であること、オーダ種の増加や電子カルテに対応する場合、17インチSXGA以上の解像度が必用であることより、よりあえてデスクトップ型の端末をデフォルトととし、小児歯科や障害者歯科外来などのみ、その性格上必用なときに撤去可能なノート型とした。具体的には、歯科診療センタの歯科治療ユニット190台に対し、汎用デスクトップ端末170台(内2画面端末102台)、ノート端末20台(主に障害者歯科、小児歯科外来用) の設置を行うこととした。
②既存診療室への端末設置の工夫 
 デスクトップ端末の設置にあたっては、PC本体、17インチモニタ、キーボード&マウスの設置スペースが必用となる。
 当院の外来においては、サイドキャビネットの種類が固定式、可動式と分かれている上、その大きさ種類も多種多様となっているため、以下の対応を行った。
 1.既存キャビネットの改修 86台
  固定式のキャビネットが設置してある場合、撤去不可のため、改修を行い設置することとした。まず本体は、既存キャビネット周囲に専用収納ケースを床上に設置もしくは、引き出しを撤去し改造することにより対応した。モニタについては、スペースと安全性の確保からアームマウントとしキャビネット上に固定した。
 2.新規キャビネットの導入 81台
 *既存キャビネットが小型可動式で改修対応不可の診療室においては、既存のものと同等機能を有し、かつPCを設置できるモニターアーム付きキャビネットを新規調達することとした。
図1 ユニット用2画面端末設置風景:

③端末展開に伴う付帯工事(ネットワークコンセント及び電源の増設)
 ユニット設置端末については全台分のLAN工事を新規に行うこととなった。しかし、前述のようにユニット周りには、既存のキャビネットや治療器具などが設置してある上、患者導線等への配慮も必用とされ、各診療科の医師の協力が不可欠となった。特に、保存系補綴系においては、1台1台について、使用する歯科医師と詳細な打合せ及び工事立ち会い等の協力が不可欠であり、病院職員ならびに工事関係者の負担は大変なものであった。


4.1.2 デンタルビュワーの開発
口内法、特にデンタル撮影のフィルムレス運用にあたっては、専用のビュワーの開発が不可欠であった。その開発にあたっては、既存のアナログフィルムの機能を損なう事無く移行しつつ、電子化することにより初めて可能となる機能を付加する事を念頭に行った。
①デフォルト表示機能
 アナログフィルム同等の操作性及び視認性を損なわ無いようにするため、特に画像選択後最初に表示される画面の開発に力を注いだ。
1)フィルム実寸大表示(10枚法レイアウト)
 歯科診療、特に形成や根管治療時にバーや根管用小器具等の治療器具をかざしてダイレクトに長さの目安とできるよう、デフォルトの表示サイズをあえてフィルム実寸大とした。(しかも、デスクトップ用17インチモニタ及びノート用15.4インチSXGA+画面の2種類に対応)。
 また、表示レイアウトは、同一スタディ内の撮影枚数に関わらず、あえて10枚法レイアウトで表示することとした。この際の部位情報は、オーダ情報に由来するものではなく、撮影済IPの読み取り後放射線技師がマッピングを行い付与したものを使用することとした。このことにより、全てのPACS上のデジタルデンタル画像については、10枚法レイアウトの何処の位置に属するかが決まる事になり、過去画像の比較の際により有意な利用が可能となった。
2)上下2分割化とパノラマ表示
 また実寸大表示にすることにより、画面上に余裕ができることから、画面を上下2分割とし、上部に今回選択画像を表示するとともに、下部に今回表示選択画像部位を含む直近の過去画像を自動的にデフォルト表示することとした。また、表示させる画像は口内法だけでなくパノラマ画像も選択可能とし、その際には口内法同様にフィルム実寸表示を行うものとした。
図2 Dental Viewer 初期表示画面:10枚法とパノラマの比較(フィルム実寸表示)

図3 詳細表示(全画面レイアウト):

 なお、結果として従来のPACSにおける画像選択後、ユーザが何も操作しなくともアナログフィルム同様の情報が得られたことにより、PC操作に不慣れな職員においても抵抗感なくフィルムレス運用への移行が可能となった。
②過去画像との比較参照機能の充実
 アナログフィルム時、シャーカステン上に同一部位の写真を複数並べて容易に比較参照が可能であった。この機能を極力操作を増やす事なく実現するため、オーダ履歴を見ることなくなく過去画像の履歴を部位別に参照し、その上で任意に選択し同一画面上に比較表示する機能を開発した。
具体的には、縦軸に日付、横軸に10枚法の部位情報をならべてマトリックス表示した上で、任意の画像を選択指定し、詳細表示することを可能とした。
③新規付加機能
1)同一スタディ内での左右及び上下同種歯牙間の比較詳細表示機能
 アナログフィルムでは、再マウントが必用であったが、デフォルト画面上で任意に選択し、詳細表示することにより、左右及び上下直近に並べた状態で比較参照することを可能とした。
2)過去画像間の左右及び上下同種歯牙間の比較詳細表示機能
 前述のマトリックス内で、任意の部位及び日付を選択することにより、同一スタディ外でも同種歯牙間の比較詳細表示を可能とした。
図4 Dental Matrix Viewer:

④ユニットアームにマウントされたセカンダリモニタへの画像ジャンプ機能
 デュアルモニタ間の画像の移動に関して、従来はマウスでのドラッグ等が必用であった。この際、2モニタ間の距離が短い場合は、比較的操作は容易であるが、サイドキャビネット上のプライマリモニタとユニットアーム上のセカンダリモニタ間では、最大3m近くの距離があり、現実的ではない。また、セカンダリモニタをミラーリング表示させると、他の患者の個人情報等が不用意に表示される危険性がある。このため、ユーザは原則プライマリモニタ上で表示内容のの確認を行い、必用な時のみセカンダリモニタにワンクリックで表示させるジャンプ機能を実装した。なお、セカンダリモニタに表示した画面を、プライマリモニタも戻す場合も、その操作はプライマリモニタ上で行う事とした。
 なお、これらの機能は、指定された端末に歯科の属性をもつ職員がログインすることにより使用可能する設定を行った。これにより、医科側歯科側双方の職員がそれを意識することなく適切な画像参照機能の提供を行うことが可能となった。
















4.1.3 ティーチング及びカンファレンス機能
 術前カンファレンスや医局内での症例検討及び研究目的での画像情報の利用の要望に応えるべく、以下の開発を行った。
①ティーチング化及びファイル外だし機能
 病院情報システム外での画像情報の利用のため、画像情報から個人情報を削除し、外だしする機能を持たせた。
 具体的には、まず、ユーザ自身で外だし用のフォルダの作製を行ってもらう。この後、ビュワー上で任意の画像を指定することにより、自動的に先ほど作製したフォルダ上にティーチングファイルの作製を行う。なお、このフォルダの中では、画像はモダリティ及び撮影日+患者毎に管理される。ここまでの操作を各診療科の端末で行ってもらった上で、医療情報部内の限定された端末から、複数患者分を一括してファイルとして外出しすることを可能とした。
②カンファレンス機能
 病院情報システムを使用した術前カンファレンス等に際し、予め患者単位で必用な画像のグループを作製し管理する機能を用意した。具体的には、ティーチング機能同様ユーザに予めフォルダを作製してもらったのち、その上に患者属性をつけたままのサムネイルファイルを任意に作製してもらい、管理することとした。ユーザは、使用時に自分の作製したフォルダを開き、その中にある画像を選択することにより、オリジナルのDICOM画像の参照が可能となる。また、ここで作製したファイルを手術室の端末のローカルディスクに共有することにより、術中スタンドアローンでの画像参照を担保することを可能とした。


4.1.4 歯科矯正分析ソフトとの連携
 歯科矯正の分野では、所謂セファロ分析が必須となる。当院ではこれまで、規格撮影されたフォルムを歯科医師各々がトレースする事により行ってきた。病院の方針としての画像情報のフィルムレス運用に則り、今回のタイミングで分析の電子化をはかることとした。分析にあたっては、市販の歯科矯正用分析ソフトをベースとし、患者情報及び画像情報の通信部分に手を加えることにより、病院情報システム及びPACSとのシームレスな連携を可能とした。





4.2 新規開発システム
 旧システムで未対応で伝票・帳票ベースで運用を行っていた、歯科技工指示書、歯科衛生士業務記録簿、歯科外来手術申し込み書、歯科外来麻酔手術申し込み書等の機能の電子化及びこれに伴う管理システムの導入を行うこととした。これらのシステムの稼働に伴い、歯科診療センタにおける業務のほとんどを電子化ペーパレス化を可能とするものである。また、電子カルテの運用開始に伴い、歯周疾患に対する各種診査及び治療計画・治療進捗等を管理するシステムの導入を行うものである。
4.2.1 歯科技工オーダ及び管理システム
1.歯科技工オーダの開発
 ユーザの操作軽減をはかるべく、基本的にマニュアルレスで直感的操作でも使用可能できるものを目指した。具体的に、入力時の画面遷移を極少化をはかる共に、情報の淘汰を行い画面スクロールの発生も極力おさえることとした。
2.技工管理システム
 技工物作製の進捗管理と共に、貴金属咬合機材料などの管理、外注技工物の発注管理、技工士のスケジュール管理等の機能も付与した。


4.2.2 歯科衛生士業務管理システム
 歯科衛生士実施指導の電子化及び帳票化と業務記録簿の電子化を目指し開発を行った。また、業務の省力化を達成すべく、入力操作の軽減を意識した画面構成とした。



4.2.3 歯科外来手術管理システム
 現在当院では、外来における抜歯や小手術等は、歯科外来手術センタで集約して行っている。ユニット数は9台で、各診療科の担当医が、手術部位・手術内容、使用器具、患者の既往歴等を記入した申し込み票を持参した上で、別途外来予約オーダを登録して運用を行っている。
 今回システム化するにあたっては、予約オーダとの一体化をはかるともに、画面遷移を少なくし直感的な操作を可能とすることを目指した。また、患者背景の把握と共有化によりリスクの軽減もはかることとした。


4.2.4 歯科外来麻酔管理システム
 歯科外来における麻酔管理下での治療に関して、現在紙ベースで行っている申し込み、麻酔管理記録簿の電子化をはかるものである。

4.2.5 歯周疾患管理システム
 歯周疾患の各種診査を電子化するとともに、歯周治療のガイドラインに則った診療を促進し、かつ現在の進捗状況の把握、過去の検査結果の参照等を操作負担を軽減した上での実装を目指すものである。


4.3 電子カルテに向けて

4.3.1 開発方針
運用面、操作面を考え、既存の歯科処置オーダをベースとし、その上で以下の要件を満たすものとする。
・歯科保険診療録としての機能を担保する。
・保険指導時の指摘要件の改善を目指す。
・医科側との患者情報の共有と北大病院としての1患者1カルテを阻害しないものとする。
・歯科診療を行う上で、以下の支援機能を持たせる。
1)ポータル要素をもたせたデフォルト画面
2)参照機能の強化
3)診療前、診療中及び診療後の使用を意識した画面構成


4.3.2 編集機能
 診療効率及び操作性を考え、既存歯科処置オーダをベースとし、これに各処方、画像オーダ等の情報や、コメント・指導内容・薬剤・材料等を編集し、所謂歯科カルテを編集することを考えている。
 これにより、既存オーダの改造を最小限にしつつ、各オーダに①病名・部位情報の付与②医事点数情報の付与が可能となるものである。


4.3.3 保険診療録として
 保険診療録として、保険医が各自で当該月の保険請求情報を各端末で参照・確認できるレセプトビュワーの実装及び、医事情報(個人負担金及び点数情報)の医事システムからのフィードバック機能等の実現を目指す。


4.3.4 歯科診療支援機能について
 従来の紙カルテの長所と短所及び日常診療業務を診療前・診療中・診療後にわけて分析を行い、これまでの診療録の長所を損なうことなく、新たに日常の歯科診療をサポートする機能を付加すべく開発を行うこととした。具体的には、既往歴や感染情報等、歯科診療上医療従事者が必須とする情報をデフォルト表示するとともに、その他の情報の取得、オーダ等の新規登録、各種診査票の参照・入力等を画面遷移することなく行えるようにするため、以下のような機能の実装を目指すものである。
1.デフォルト画面ー歯科ポータル機能の実装
 単なるデータの保存ツールとしてだけではなく、情報の収集及び積極的活用を促す事により、診療リスクの軽減及び情報の共有化の促進、患者医療サービスの向上、ユーザの操作ストレスの軽減を目指し、歯科診療に必用な情報の集約化及び日常業務で使用する機能を集約した専用画面の開発を行っている。この画面は、歯科医師の属性をもつユーザに限ってデフォルト表示を予定している。
2.過去履歴の参照
 直近の診療内容を、デフォルト画面上に分割表示することにより、前回からの継続診療時、操作を発生することなく、診療行為に遷移可能とすることを目指す。
3.新規入力時の参照機能
 常に過去履歴の参照と流用を意識した入力画面の構築を目指す。
4.診査の入力と参照
 外来で多種多数発生する診査の入力及びその結果の参照を、最小限の操作で行うべく入り口を集約すると共に、結果を参照しながらのコメント記載可能なレイアウトの実装を目指す。
5.他科履歴の有効活用
 医科診療科と情報を共有する患者に対して、医科側の診療情報の存在の告知と情報の取得操作の軽減をはかる。
6.疾患別・部位別のソート機能
 疾患別・部位別のソート機能を用意することにより、患者の診療進捗状況の把握の省力化をはかる。

 
参考文献
[1]伊藤 豊.:視認性と操作性を考慮した歯学部附属病院に於ける外来予約システムの開発. 医療情報学, 23(Suppl.): 244-245, 2003.
[2]伊藤 豊.:歯牙部位に関する操作方法の統一と情報の共有化を図った病院情報システムの開発. 医療情報学, 23(Suppl.): 859-860, 2003.
[3]伊藤 豊.:電子カルテ導入に向けた歯周病外来に於ける診療情報の電子化とその利用方法に関する研究. 医療情報学, 24(Suppl.): 1142-1143, 2004.
[4]伊藤 豊.:医科・歯科病院統合に伴う患者ID統合作業について. 医療情報学, 25(Suppl.): 1076-1077, 2005.
[5]伊藤 豊.:北大病院(歯科診療センタ)におけるシステム上の病院統合と電子カルテ導入を目標とする次期システムへの取り組み. 医療情報学, 27(Suppl.): 1067-1068, 2007.