歯科病院情報システムの現状と今後
森本 徳明1)
矯正歯科 森本1)
Dental Hospital Information Systems today and the future
Morimoto Noriaki1)
Morimoto Orthodontic Office1)
In the hospital of the dental department on the university , it has been changing greatly for these several years by changing in the organization, changing in the pre/post dentist education and training system, and revising medical care. As a result, the development of the medical informatics system for the dental department is suppressed to the budget, and the system used easily, which can contribute to the hospital management that bases the insurance system, is requested. Because the university hospital becomes a center, it is necessary to do digging up the problem and standardization that considers them. In this symposium, it is assumed that the presentation of the case with the dental hospital information system developed basing the above-mentioned in these 1 or 2 years is gotten from five universities. Moreover, the proposal concerning a dental image and physical distribution system for which standardization is late are done at the same time. It is thought that it becomes very useful to think about the dental informatics system in the place where this project does similar development and the future. Therefore, a positive discussion is expected in this symposium.
Keywords: dental , 歯科, HIS, 病院情報システム, standardization, 標準化

1. 背景
この数年、歯科大学病院では国立大学の独立法人化や医科歯科統合、卒後研修や歯科医学教育制度の変更により、大学における研究と教育と臨床のバランスが、大きく変化してきているように思われる。また、医療保険制度の改定、医療法の改定により、歯科臨床の現場も大きく変化しており、歯科診療報酬の伸びが抑えられ、また指導書や管理のための文章発行の義務が課されて、診療行為以外の作業が増えたことと、逆に歯科医療機関が増えて、各医療機関では患者の減少による収入減によって人件費等の固定費を抑えることを余儀なくされ、現場での努力にもかかわらず、医療の質の低下につながるような事象が引き起こされようとしている。
さらに、大学病院の教育機関としての機能についても、卒前の教育として診療患者の減少や臨床現場での出来事に的確に対応でき、ある一定のレベルを保つようにと導入されたCBTやOSCEが、教官にとっては診療現場で診療を行いつつ、教育を行う形から、診療とは別の負担として加わり、さらに、卒後教育として、研修医制度が数年前より法制化されたが、患者の配当が十分できなくて、目標ほどは機能を十分果たせない大学があると思われる。
言い換えれば、法人化、医科歯科統合、医療制度の変化,教育システムの変化などにより全体の病院構想から考えると歯科システム独自での開発は予算的にも困難となると同時に、保険制度や法の改定により、診療現場の現状に即したもので、かつ病院経営管理にいかに貢献できるシステムを構築できるかが求められていると考える。
さらに、4年先に迫っているレセプトの電算対応についても考慮を必要としてきている。
しかし、それを達成するものを構築するためには、歯科医療界では大多数を占める個人開業医が結集し、開発すれば現場の意見を反映するシステムを構築できるかもしれないが、それが困難なため、やはり歯科の指導的立場であり、個人ほど経営に追われない大学病院、研究機関が中心になり、問題点の洗い出しとそれを考慮した標準化を行う必要を感じる。
 
2. この10年の流れ
歯科の課題研究会を設立して早くも12年の月日がたつ。そのころは、医科には医療情報部が次々設立され、医事会計システムおよび部門(検査、薬剤、給食等)システムという個別システムから、発生源入力を行うオーダリングシステムが導入されつつある時期であった。「歯科でも同様のシステムの構築を」という流れであったが、医科と比べ、歯科は病院規模が小さいため、歯科の医療情報部の定員も予算もつかないまま、教官、事務官が職務を兼務して、医科と共同、もしくは単独で、開発に当たった。そのときのベンダーの提供する病院情報システムは、歯科の外来中心の診療体制にはあわず、逆に、歯科の開業医で広く利用されていたレセコンは診療所用で、入力・チェックは洗練されていたが、複数の医療従事者が診療科・部門に分かれて仕事をするという病院のシステムには、すぐに利用できるものではなかった。
そこで、国立大学系では医科で稼動しているオーダリングシステムをベースに歯科用に開発していくこととなった。このときに、歯科では外来が中心で処置入力が多く、かつ、病名と処置の関連付けが重要という、それまでの医科で使われていたシステムと異なるが、今の電子カルテには当然である新しい概念が導入されることとなった。しかし、歯科の病名・処置入力システムの開発において、入力しやすさや、入力項目のチェックの仕組みを組み込むためには、治療の流れや保険の仕組みを考える必要があり、一朝一夕に歯科用レセコンのように診療現場で満足できるようなシステムとはならなかった。また、たとえこのようなシステムを個別に作れたとしても、2年に1度の保険改定のたびごとに、医科を中心に行っているベンダーでは歯科の保険に対する知識等が少ないため対応しきれず、大学が自前で入力インターフェースを作り変えるということは時間的、人的、費用的に困難であり、一覧表よりの入力で、チェックも最低限ということしかできないという状況であったと思われる。
また、別な取り組みとして、多くの私立系大学では、歯科大学病院単独での開発が多かったことと、費用対効果を考え、医事会計に歯科用レセコンを改修したものが導入され、カルテより医事会計で職員が一括入力というシステムに、再診予約システムなどが付属するという形で開発がされるところが多かった。入力・チェック部分にすぐれており、ベンダーでそれをサポート可能な歯科用レセコンを歯科大学病院用に改造するためには、オーダリング、部門サーバー、認証機能などを付加する必要があり、かなりの労力を要することがわかった。そこで、開発期間、コストを抑えるために、両者の良いところを使えるように、入力・チェック部分は歯科用レセコンベンダーで、オーダリングや認証に関しては、大手ベンダーにという方法が模索されているが、使用感がシームレスで、両者の良い部分を十分発揮できるシステムは、まだ開発されていないのが現状と思われる。
今後は、上記の問題の解決と同時に、EHR(Electric Health Record)として扱うための診療記録の一元管理(データの所在はばらばらでも)、医療従事者が個々の権限に応じた情報の共有、ペーパレス化(これが本当によいかは別として)をめざして、電子診療録システムの構築、地域の医療機関との連携のためのシステム構築、蓄えられたデータの二次利用が課題と思われる。また、レセプトオンライン化等を行うための社会的な仕組みが徐々に構築されており、病名および手術・処置の標準マスターの整備等はほぼ完成に近づいている。それでさらに保険の解釈が電子的ロジック等で公開されるようになると、すべての医療機関で同様のチェックプログラムが使えるような日がくると思われる。そのころには、データの真正性を保つための認証方法の確立のもとに、医療提供者の診療論理・行動をできるだけ抵抗なく入力できるというユーザーインターフェースと入力されているデータの一次活用、二次活用をどれだけ行えるかということが、システムに求められ、それが将来のシステム評価の対象となると考えている。
 
3. シンポジウムの進行
本シンポジウムでは、上記のことを踏まえて、この1、2年の内に開発・稼動した新しい歯科大学病院情報システムの事例について、それぞれの大学病院で求められていることをいかに解決し、また稼動後に見えてきた新たな問題点について、4大学の先生より発表をいただくこととしている。
また、システム開発側からすれば複雑な割に、医科と比べて開発メリットが小さいと考えられて、大学病院での開発が遅れている歯科用画像に関する提案と、歯科用材料に関する物流システムの提案も現状の自大学の開発状況を踏まえながら、2大学の先生に発表をいただくこととした。


 
6人の演者の話の中から、 また、その後の討論の時間より、おもに、次の4つのことを軸に議論を進めたいと考えています。 
1.歯科病院情報システムとして新しい機能に関して開発上の苦労した点、その評価→今後のシステムに求められること、医科システムと歯科システムの違い
2.国立大学の独立法人化、医科歯科のシステム統合に関して、システム構築に与えた影響(良い点と問題点)→健康・医療情報として、医科のものと歯科のものを一緒に扱えるようにするには
3.利用者の変化について(情報リテラシーに求められるもの、環境変化による考え方の推移)→時代の変化への適応と普遍的なもの
4.今後の方向性→解決すべき共通の課題
この企画が同様の開発を行っているところにとって、また今後の歯科の医療情報システムを考える上で非常に有用なものとなるであろうと考え、積極的な討論を期待します。
 
参考文献
[1]Dental Hospital Information System Forum(dhis).:「http://www.dhis.info/.」
[2]MEDIS標準マスター 歯科分野マスター<病名>.:「http://www.medis.or.jp/4_hyojyun/medis-master/index/dental_byomei_index.html.」
[3]MEDIS標準マスター 歯科分野マスター <手術・処置>.:「http://www.medis.or.jp/4_hyojyun/medis-master/index/dental_syujyutsu_index.html.」