北大病院歯科診療センターにおけるフィルムレス化の現状と今後
内藤 智浩1) 仲 知保1) 渡辺 良晴1) 中村 太保2) 伊藤 豊2)
北海道大学病院診療支援部(放射線部)1)
北海道大学病院医療情報部(歯科担当)2)
Present and Future of Filmless Systems in Hokkaido University Hospital Dental Division
Naitoh Tomohiro1) Tsuzuki Tomoyasu1) Watanabe Yoshiharu1) Nakamura Motoyasu2) Itoh Yutaka2)
Hokkaido University Hospital1)
Hokkaido University Hospital2)
Filmless system has been used routinely, but intra oral digital system has not been developed in Hokkaido University Hospital. Intra oral digital system was introduced our Hospital on May, 2007.An IP system was selected, because the similar exposure procedures, no machine changes compared with conventional film based intra oral methods.Next, we needed to conduct this intra oral digital system to connect with HIS-RIS-PACS systems so, planned to this connection. We present four points 1)The practical operation to conduct this intra oral digital system to connect with the existing HIS-RIS-PACS 2)The predict of future access number of the DICOM viewers after introduction of intra oral digital system3)The cost performance on the introduction of intra oral digital system4)The practical use of intra oral digital system in our hospital
Keywords: PACS, , intra oral digital system, , filmless system,

1. はじめに
北海道大学歯学部附属病院(以下、歯病と略す。)では、平成11年年3月から口内撮影及びパノラミックス撮影を除く画像のCR(:Computed Radiography、以下CRと略す)化を行い[1][2]、平成14年4月には北海道大学医学部附属病院(以下、医病と略す。)の病院情報システム(Hospital Information System、以下HISと略す。)更新に伴い、歯病にオーダリングシステムが導入された。同時に歯病の放射線部門情報システム(Radiology Information System、以下RISと略す。)が稼動し、CR、CT、RI、OT(パノラミックス)画像の医用画像管理システム(Picture Archiving and Communication System、以下PACSと略す。)への配信を開始した[2]。その後平成16年4月から医病では完全フィルムレス化へと移行し、3年以上が経過している(表1)[3][4]。歯科診療センターにおいても口内撮影以外のフィルムレス化の検討を行ったが、HIS端末の配置や機能の問題、運用上の問題から核医学検査、X線TV検査、CT検査、X線単純検査の一部(胸部、頭部)のフィルムレス化に留まっている。さらに、口内法撮影については、放射線部で行っているX線検査で唯一デジタル化されていない検査であった。
現在本院では、平成20年春の稼働を目指してHIS/PACSの更新及び電子カルテ化に向けた導入作業を行っている。診療録の電子保存、電子カルテの導入には、口内法撮影画像のデジタル化を含むフィルムレス運用は避けられない。このため、放射線部では口内撮影デジタルシステムを導入し、完全フィルムレス化へ向けた作業を進めている。
 本報告では、導入したデジタルシステムを既存のHIS-RIS-PACSシステムと接続しての運用確認、HIS更新後、完全フィルムレス化へ移行した場合のPACSアクセス頻度の変化予測、フィルムレス化による材料費等の原価計算の試算、及び口内撮影デジタルシステムの運用上の課題についてまとめる。
表1 歯科診療センターフィルムレスへの歩み:







2. 口内撮影デジタルシステム
2.1 システム概要
導入したシステム構成を図1に示す。口内撮影デジタルシステムは、CRシステムであるYCR-21XG(吉田製作所製)を採用し、DICOM Gateway マッピングPC(アレイ社)とPer to Perで接続した。これらのシステムは、放射線部内の情報ネットワークに接続し、Gatewayには小型熱転写プリンタ(Canonセルフィ:Windowsプリンタ)を繋ぎ、さらにネットワークプリンターとしてドライプリンタ(Agfa DRYPIX:DICOMプリンタ)と既存の熱転写プリンター(コドニクス:Windowsプリンタ)を接続した。しかし、フイルムレス運用時、これらのプリンターは通常業務に使用しない予定である。
図1 システム構成図:





2.2 既存システムとの接続
既存システムとの接続図を図2に示す。
1)RISとのオーダ情報の通信は、DICOM(:Digital Imaging and Communication in Medicine) V3.0 MWM(:Modality Worklist Management)で規定する規格でRIS-MWMサーバと接続した。何点かDICOM Gatewayプログラムの変更を必要としたが、RIS端末からの送信により、患者ID、氏名(ローマ字)、生年月日、性別をDICOM Gatewayに取り込んで業務が行えることを確認した。
2)撮影した画像情報のPACSへの送信は、放射線部設置のPACS-GWサーバへDICOM Ver3.0規格のStorage Service Classで画像を送信する。現在設置のPACS-GWサーバは、DICOM規格のモダリティ種別「IO(:Intra Oral、以後OR)」に対応していないため「CR」として送信することとした。ただし、次期システムとの接続を考慮しDICOM規格のパブリックなタグにプライベートルールで歯部位情報を埋め込んで送信することとし、通信を確認するとともに HIS-PACSでの画像表示も確認した。但し現在のPACSでは歯式情報を利用した表示は行えない。
3) 撮影した画像情報の部内画像サーバ(富士Synapse)への送信は、サーバがモダリティ種別「IO」、「CR」いずれにも対応していることから歯部位情報を付加した「IO」にて通信することとした。また、部内の他のDICOMサーバへの通信試験も同時に行い、DICOM Gatewayに送信サーバを設定した。運用上は一回の送信操作でPACS-GWサーバ及び部内のDICOMサーバに同時に送信するよう設定した。
4) 送信画像の表示確認は、PACSを使用したHIS端末での表示及び放射線部内の画像表示端末での表示を確認した。部内の表示端末は、DICOM Ver3.0規格のQ/R機能にてDICOMサーバから画像を検索、取得して表示することを確認した。
図2 既存システムとの接続:








3. 歯科診療センターのPACS利用
3.1 PACSの利用状況
 PACS導入時の平成14年4月から現在までのPACS画像登録数(検査単位)、PACS画像登録数(イメージ単位)、PACSレポート登録数を図3、図4、図5に示す。それぞれの平成19年7月の登録数は、16,331件(817件/日平均)、749,622件(37,481件/日平均)、4,275件(192件/日平均)であった。前年同月比で見ると、それぞれ13%増、26%増、3%減であった。PACSの利用状況を、画像及びレポートへの合計アクセス数として医科・歯科に分けて図6に示す。平成19年7月のアクセス数では、医科が71,790回(3,590回/日平均)、歯科が10,433回(522回/日平均)であった。前年同月比で見ると、それぞれ9%増、39%増であった。
 歯科診療センターにおけるPACSの利用件数は、全体の12%と少ないのが現状である。これは、歯科では一番撮影件数の多い口内撮影画像がPACSにて利用できていないこと、フイルムレス運用が一部で、他はまだフイルム出力して業務を行っているためである。
図3 PACS画像登録数(検査単位):
図4 PACS画像登録数(イメージ単位):
図5 PACSレポート登録数:
図6 PACSアクセス数:

しかし前年比で見た増加率が大きいことから歯科診療センターのPACSアクセス数について診療科別に調査した(図7)。口腔系(口腔外科、歯科麻酔科)は、この数年の増加率が顕著であった。このことは、平成18年5月の歯科病棟移転に伴う歯科入院X線検査の完全フィルムレス化、歯科でオーダされたX線単純写真読影レポート(平成17年10月~)及び、CT検査読影レポート(平成18年10月~)のPACS配信が開始されたこと等の影響が現れてきたものと考えられる。また、歯科放射線科についてはCR検査などのPACS機能を用いたレポート登録業務に伴うアクセス数が含まれておりそのレポート登録件数の影響が大きく反映していることから他の診療科とは違ったパターンの推移を示している。歯科全体のアクセス数を判断する際、このレポート登録によるアクセス数も含まれている事を考慮する必要がある。咬合系、保存系についてはデジタル化されていない口内撮影検査が中心でPACSを利用できない影響が出ているものの増加傾向にある。
図7 PACSアクセス数(歯科診療センター):




































3.2 システム更新後の利用予測
 システム更新に伴い歯科診療センターが完全フィルムレス化になった場合は、口内撮影画像及びセファロ計測のための頭部規格撮影画像をPACSにて表示・参照することになる。平成18年度口内撮影の検査数は16,781件、月平均1,398件、セファロ検査数は1,358件、月平均113件であった。これらの撮影画像は過去画像との比較参照が頻繁に行われるため、PACSのアクセス回数は1検査当たり3回とした時、(1,398+113)×3=4,533回、月当たり約4,500回増加すると想定できる。この数値に、平成19年7月の歯科診療センターアクセス数実績10,433回を加えると約15,000件/月のアクセスになり、本院全体のPACSのアクセス件数が約6%増加する事になる。
4. フィルムレスによる原価計算の試算
 現在、歯科診療センターにおいてフィルムを出力して運用している検査は、デジタル化されていない口内撮影検査、及び、デジタル化しているがフィルム出力して運用しているオルソパントモ検査、セファロ検査である。これらフィルム出力している全ての検査をフィルムレス運用に切り替えた場合を想定すると、医事請求できないオルソパントモ、セファロフィルム費用、デンタルマウント、デンタルマウント添付用シール等の材料費、現像液、定着液等の材料費が必要なくなり、新たにデンタルカセッテ、IP(これらは消耗品では無いが一定量の購入が必要となる。)、及び、IP保護袋が必要になる。なお、口内撮影のフィルム収支はプライスマイナスゼロと考え今回の試算から省いた。また、オルソパントモ、セファロのフィルム支出がそのまま病院の利益に計上されるとした。
システム全体の原価計算では、上記の消耗品等とともに装置の購入費の減価償却、修理費等の維持管理費、光熱費、及び、人件費等を計算に入れる必要があるが、ここでは消耗品のみの比較を示す。収入はデジタル加算及び、オルソパントモ、セファロのフィルム支出病院収入計上分、支出はフィルム等の消耗品がいらなくなり、IP等の費用が発生する。平成18年度の検査実績から試算したものを表2に示す。装置の減価償却や維持管理費を考慮しても、フィルムレスによる減収は少ないと考えられる。
表2 フィルムレス化による原価計算の試算:











5. 考察
5.1 システム運用上の課題
導入した口内撮影デジタルシステムを既存のHIS/RIS/PACSに接続し運用試験を行った。接続・通信は、DICOM Ver3.0規格のMWM、Storageを使用して行ったが、特に問題もなく接続が完了した。近年、放射線画像機器に関しては、DICOM規格の対応が進んでおり、接続・通信は汎用化した技術と成ってきている。しかし、歯科領域では規格化が遅れたこともあり対応が不十分な点が指摘されているが、本院導入機器に関しては問題が無かった。
口内撮影画像に関しては、DICOM規格にモダリティ種別「IO」があるが、規格が新しいため対応していないサーバも多い。また、歯の部位情報に関してはまだ規格が決まっていなく、今回はDICOM規格のパブリックなタグにプライベートルールで歯部位情報を埋め込んで送信することとしたが、次期のHIS/PACSシステムでどの様に対応するかが問題として残っている。今回の接続テストでは、DICOM Gateway マッピングPCにおいて10枚法の合成画像を作成し同時に送信することとしたが、口内撮影画像用のビューアー機能が整備されれば合成画像は不要となる。
5.2 今後の課題
歯科診療センターで行っている口内撮影も含むエックス線写真のフィルムレス運用は、本院全体の診療録の電子化、電子カルテの導入にとって不可避の課題である。また、口内撮影も含む画像のデジタル化は、画像を電子的に管理・保存・配信する事により、診療情報の共有、保存スペースの減少、紛失等がなくなる等多くのメリットを獲得できる。
 一方、フィルムレス運用を行うためには、放射線部における撮影業務のみではなく、臨床現場における画像参照の機能が重要になる。電子カルテの運用や実施処理の入力などに加えて画像参照のため歯科ユニット単位のHIS端末の配置、口内撮影画像の表示機能、セファロ撮影画像の計測機能などの整備が必要となる。
  口内撮影をデジタル化しフィルムレス化することによる収支計算は、消耗品などに関しては経費が圧縮され、デジタル加算による収入増を考慮すると大きな支出増とは成らない。しかし、装置の減価償却、修理費等の維持管理費、光熱費、及び、人件費等考慮した原価計算では経済効果は期待できないが、画像情報の電子化による様々なメリットは大きいと考えられる。



6. まとめ
本院の放射線画像で唯一デジタル化されていなかった口内撮影画像をデジタル化するため、歯科診療センターの放射線部門に口内撮影デジタルシステムを導入し、既存のHIS-RIS-PACSシステムと接続しての運用確認を行った。各装置との接続は問題なく行え、これによりフィルムレス運用に向けた準備が整った。今後は臨床運用のため、臨床評価、物理特性の評価を進めて行きたい。
歯科診療センター全体のフィルムレス運用は、現状のHIS及びPACSでは装置の配置、機能、運用面で問題が多い。次期システムにおいて、それらの問題を解決すべく運用に向けて準備を進めている。一方、本院では診療録の電子化、レセプトの電子化に相まって電子カルテの導入に向けた準備を進めている。この中で診療情報の一つである画像情報の電子化も避けては通れない重要な課題であり、臨床運用に向けて検討を進めていきたい
参考文献
[1]澤村 強.:北海道大学歯学部附属病院におけるX線ディジタルネットワークシステムについて. 北海道歯科医師会誌.2001;56:111-114.
[2]内藤 智浩.:RISの導入とHIS-PACS接続. 北海道放射線技術雑誌.2002;62:85-93.
[3]渡辺 良晴.:北大病院のPACS運用状況及びフィルムレス運用について. 第6回医用画像認知研究会、第6回遠隔画像診断部会、第4回画像診断報告書研究 会、第23回医用画像電子化研究会合同研究会論文集.2004.
[4]沼田 光哉.:フィルムレス化前後の体制変化とクレームの質的変化. 第24回医療情報学連合大会論文集.2004.