医科・歯科統合した徳島大学病院の病院情報システム
尾崎 和美1) 河野 文昭1) 誉田 栄一1)
徳島大学医学部・歯学部附属病院1)
Hospital Information System of Tokushima Medical and Dental University Hospital
Ozaki Kazumi1) Kawano Fumiaki1) Honda Eiichi1)
Tokushima University Hospital1)
Two independent hospital information systems (Medical HIS and Dental HIS) operated in University of Tokushima hospital during 4 years after Hospital unification. The advantages of a hospital with medical and dental departments could not be utilized because of several limitations that some ordering systems could not use in the dental department.The new hospital information system that unified medical and dental hospital information systems was introduced from January, 2007. An electric medical recording system and all ordering system can be used by all doctor and dentist in Tokushima University Hospital, and a patient's medical record can be referred by all medical workers.In this thesis, the advantages and problems of new hospital information system of Tokushima University Hospital is described.
Keywords: hospital information system, 病院情報システム, advantage, 利点, problem, 問題点

1. はじめに
徳島大学では,平成15年に医学部附属病院と歯学部附属病院が統合したが,その後も医科診療部門と歯科診療部門で独立した2つの病院情報システムが稼働していた.そのため,統合病院のメリットは十分に活かされず,また,歯科診療部門では,病院統合によって生じた多くの制限のもとに病院情報システムを運用していた.
そこで,平成19年1月に病院情報システムを更新するにあたり,その制限を解消し,医科・歯科電子カルテ,検査,画像情報等の病院情報の共有化を図り,患者を中心においた病院情報システムを構築した.
2. 新病院情報システムの概要

2.1 電子カルテシステム
法的に保存義務のある診療情報は,医師・歯科医師だけでなく院内で働くすべての医療従事者が必要に応じて共有できるようになった.また,医学部生,歯学部生等の臨床教育にも活用している.なお,紹介状や同意書のような直接電子化が困難なものは,従来どおり紙等で記入せざるをえないが,それらもスキャナーやデジタルカメラ等により電子保存し,閲覧できるシステムである.

2.2 オーダリングシステム
患者基本オーダ,処方オーダ,検査オーダ,入院基本オーダ,食事オーダなど,医科診療部門と共通できるものは,マスターの統合を行い,両診療部門で運用の統一を図った.しかし,歯科特有の病名オーダ,歯科処置オーダ,予約オーダ,画像オーダ,技工オーダ等については,統合が困難で,かつ使用頻度が高いことから,職制によって医師用および歯科医師用のオーダアイコンを別々に表示し,エンドユーザーのストレスが少なくなるように配慮した.

2.3 歯科レポートシステム
初診時レポート,歯周病レポート,画像レポート,技工レポート等の歯科部門独自に開発したものについては,その機能をそのまま継承した.

2.4 歯科放射線部門システム
医用画像情報システム(PACS)を統合し,病院情報端末から医用画像の参照が容易にできるフィルムレスホスピタルシステムを構築した.また,各診療科やカンファレンス室にはPACS端末が配置され,診断や症例検討に利用される環境が整備された.ただし,デンタルフィルムのデジタル化が実現できていない.

2.5 医事会計システム
医科診療部門,歯科診療部門のそれぞれの受付で登録された患者基本情報,受付情報等は,病院情報に反映され,患者の利便性は向上した.しかし,医事会計が医科・歯科で異なるため,現状では統合できていない.そのため,医科診療部門受付では,歯科診療部門の会計ができない,往診診療時の会計が医科入院会計と合算できないなど,患者サービスの点で問題が残った.
3. システム統合時の問題点とその対応

3.1 患者IDの統合
平成16年10月の病院統合時に,次期システムで医科・歯科の病院情報の一元化を行うことを前提に,両附属病院が別々に登録していた患者IDを統合した.医科・歯科両診療部門で受診履歴のある患者に対しては,医学部附属病院で発行した患者IDを採用し,歯学部附属病院のみの受診履歴のある患者に対しては,患者IDの最初に1を割り当て,患者番号変換プログラムによって対応した.また,平成16年10月以前に全く徳島大学病院の受診歴のない患者に対しては,2から始まる患者IDとし,医科診療部門,歯科診療部門の受付で発行する運用とした.
このため,歯科診療部門では,レントゲン写真や紙カルテ等の患者IDで管理しているものには,新患者IDを記載し直し,管理した.現在も,旧患者IDと新患者IDが混在するため,患者ID検索プログラムによって対応している.

3.2 標準マスターの不整備
医科病名コードは,DPCおよび電子レセプトの導入に伴い,MEDISの標準病名マスターが既に用いられていた.一方,歯科病名コードは,標準化された病名コードが整備されていないため,ICD10に準拠したローカル病名コードを用いていた.単純に両コードを統合すると重複した病名が存在する可能性が危惧されたが,マスター統合作業において,歯科病名コードの重複は,ICD10に準拠していたため,比較的少なかった.このような問題は,医薬品マスター,検査マスター等に生じたが,原則,医科マスターに統一した.

3.3 歯式表示の必要性
歯科診療部門では,電子カルテ,病名,歯科処置オーダ等については,歯式表示が必須である.一方,医科診療部門では,むしろ歯式表示が煩わしいとの意見があり,利用者IDの職制によって表示方法を変えるシステムを構築した.ただし,必要に応じて全ての診療情報が参照できる機能を有している.

3.4 運用の違い
患者基本情報の血液型,感染情報等は,医科診療部門は検査部,輸血部から検査結果が直接患者基本情報に反映される仕組みとなっていた.一方,歯科診療部門の病院情報システムの場合,輸血部および検査部システムとのデータの送受信ができなかったため,検査を依頼した歯科医師により,検査報告書をもとに検査結果を登録する運用であった.また,感染症情報は,歯科診療部門では医療面接の内容を初診歯科医師により患者基本情報に登録する運用であった.病院情報の統合に当たり,医療安全管理面で,検査部の検査結果が直接患者基本情報に反映されるシステムとなり,医師・歯科医師によって血液型,感染症情報の直接入力ができないシステムとなった.しかし,歯科医師の入力した過去の感染情報については信頼性に疑問があるとの議論があったが,歯科診療部門での感染対策上の必要性から運用方法を決めて,過去の感染情報は新システムに移行するとともに,直接入力する機能も残した.
4. 病院情報システム統合のメリット

4.1 患者情報の共有化
病院情報システムが統一され,患者を中心として1患者1カルテが実現し,医科・歯科両診療部門を受診している患者に対しては,電子カルテを見るだけで患者の全身状態が把握でき,有病者に配慮した歯科治療が可能となった.また,多くの医療従事者が院内で行われた検査結果等を電子カルテ上で参照できるようになり,重複検査などの過剰診療が防げるだけでなく,医療過誤の防止および医療の質の向上に寄与している.

4.2 物的資源の効率的利用
CT,MRI,PET-CT,手術室,ICU,CCUなどの病院中央診療施設が予約オーダを用いて予約できるようになり,効率的に利用できるようになった.また,病院情報システムで全てのベッドの管理がされ,ベットコントロールにより,有効利用ができる.これは,病院情報システムの統合により,どの診療室,病棟からも,対象患者のカルテの閲覧,オーダできることによる.

4.3 医歯連携の促進
入院患者の口腔ケアーや歯科治療など,医科診療部門から歯科診療部門への診療依頼など,電子カルテ上で可能となっている.また,電子カルテの参照により,患者状態の把握にも役立っている.
5. 今後の課題

5.1 電子カルテに記載法の統一
現在,医科カルテと歯科カルテの記載法,記載内容が大きく異なっているのが現状である.統合病院のメリットを生かすためには,両者が共通の視点で理解できる診療録の記載が必要である.そのためには,診療録の在り方について考え,両診療部門で統一する必要があると考える.

5.2 オーダリングの充実
歯科処置オーダの入力支援システムの開発が急務である.大学病院では研修歯科医のような新人歯科医師でも容易に診療の流れに沿って,保険請求ができるような仕組みの開発が必要である.

5.3 電子レセプトへの対応
現在,レセプト作成にあたり,病名オーダと医事会計システムの両データを利用しているため,不要病名の削除やレセプト修正にかかる人的作業が多い.そのため,レセプトチェック機能を含む歯科レセプト作成のための支援システムの開発が急務であり,来るべき電子レセプト請求に対応したシステム作りが求められる.

5.4 システムのレスポンスの向上
現在,病院情報のネットワークは,GIGABIT Ethernetで構成されている.しかし,カルテ情報や画像情報など大量のデータを転送するため,時間帯によってはエンドユーザーにストレスがかかることが多い.
6. まとめ
徳島大学病院では,平成19年1月に病院情報システムの更新を期に,医科.歯科2つの病院情報システムの統合を行った.電子カルテシステム,オーダリングシステムの統合により,患者を中心においた病院情報の構築が可能となった.それによって,医科・歯科の診療の連携が拡大しつつある.今後,病院情報システムをさらに充実させるためには,臨床の現場の要望を反映することが大切である.