医歯統合病院における歯科病院情報システム
鈴木 一郎1)
新潟大学医歯学総合病院地域保健医療推進部1)
Dental hospital information system in unified medical and dental hospital
Suzuki Ichiro1)
Niigata University Medical and Dental Hospital1)
There have been many discusssions about dental hospital information system(DHIS) and various standardizations in dental field in past several years . Along with the discussions, many university dental hospitals introduced DHIS. Recently, national universities underwent various administrative reorganizations and 9 of 11 national university dental hospitals merged with each medical hospital. Although the unification has brought about many advantage of scale, there is a need of switching the design of DHIS to fit a new viewpoint.In this symposium, by pointing out some problems of our DHIS, we want to discuss about the establishment of DHIS in the near future, standardization of dental information based on EHR, as well as common infrastructure in the medical-dental field.
Keywords: Hospital Information System, 病院情報システム, Dental Hospital Information System, 歯科病院情報システム, Dental Hospital, 歯科病院, University Hospital, 大学病院

1. はじめに
ここ数年の間に、全国の11国立大学歯学部附属病院のうち9病院が医学部附属病院と統合した.各大学の独法化後の組織形態や建物配置の相違などから統合の実態は様々であり、また大学全体の運営ポリシーや再開発計画などとも関連し、その統合形態はなお流動的で今後の歯科病院の運営については各大学それぞれが暗中模索という状況が続いている.
こうした医歯統合は、病院規模の拡大によるスケールメリットを生む一方で、外来主体の大診療所である歯科部門と入院主体の急性期病院の性格をますます強める医科部門を一つの組織としてどのように運営してゆくかといった課題をもたらしている.また、入院部門においては病床やスタッフなどのリソースの流動化により歯科にとって厳しい状況下に置かれている場合もある.
新潟大学では、2003年10月に病院統合、2006年1月に入院および手術部門の統合、そして同時期に病院情報システムの更新が行なわれた.その概要については2006年の本連合大会にて発表したが1)、その後1年半の経過の中で統合にともなう様々な問題点が明らかとなり、これらの中には病院情報システムに関わるものも少なからずある.本シンポジウムでは私たちの事例紹介を通して医歯統合病院での病院情報システムの課題を示し、今後の歯科病院情報システムのあり方について議論したい.
2. 新潟大学の病院情報システムと病院統合の歩み
新潟大学の歯科病院情報システムの変遷については以前よりその概要を本学会にて報告しているが1) 3) 2)、1986年に最初のシステムが導入されてから4世代目となる2006年1月更新の現システムでは、入院は医科歯科ともに電子カルテ、医科外来は電子カルテと紙カルテの混在、そして歯科外来は以前から利用している歯科用レセコン3) 2)を利用した紙カルテ運用となっている.2003年の病院統合時点では薬剤、看護、検査など一部の部門統合が行われ、その後2006年1月のシステム更新と同時にそれまで医科歯科個別であった患者IDを統合した.また、同時期の病棟新築とあわせて、歯科病棟は医科と同じ新病棟に移転し、また歯科手術室についても医科手術室に2室増室する形で統合した.現在、オーダやカルテなど病院情報システム上の情報は医科と歯科間ですべて共有されている.なお、現時点では医科外来と歯科外来は旧来のまま別棟で診療を行っており、医事会計も独立している(図1).2006年1月のシステム更新にあたり、歯科外来の病名・処置システムについては、オーダシステム上に歯科の特殊性を実装することは困難と判断し、それ以前から利用していた歯科用レセコンと医事システムをインターフェイスすることを選択した2) 3)
3. 病院統合に伴ういくつかの問題

3.1 入院診療における問題
統合にあたって、医科と歯科の各部門システムやその運用の相違については、問題点の洗い出しと対策がなされたはずであったが、実際にはチェック不足や相互の運用の相違を充分すりあわせていなかったことによる問題点が統合後に明らかとなったものがある.歯科入院患者の医科受診(またはその逆)が外来扱いになることによるトラブルはその代表的なものである.例えば、歯科入院患者が医科を受診し処方や検査のオーダが発生した場合、薬剤システムや検査システムは外来扱いとして処理するため入院中にもかかわらず処方薬が病棟へ搬送されない、検査ラベルが病棟で出力されないといった不具合が起きた.また、医科と歯科間のいわゆる転科は医事的には入退院を伴うが、ベッドの移動がないのに煩雑な手続きを伴う入退院が発生するなど現場に混乱もたらした.
医科入院患者の歯科受診の便を図るため、病棟内の摂食嚥下リハビリテーション部門に歯科予診、プライマリケアや口腔ケアを行うための診療室を併設したが、医事やカルテ管理の問題等からその受診手続きについては煩雑なフローとなっている.
これらの問題のうち、処方に関わるものなどについては病院情報システムや部門システムの改良にて対処できたものの、医事やカルテ管理などシステムでは解決できない問題が残り、これらについては現在のところ運用でカバーするしか方法がない.こうした運用ルールについてはマニュアル化により歯科が主に利用している病床フロアでは大きなトラブルはなくなったものの、高い病床稼働率を背景とする混合病床化が進むなか、空床利用先の病棟ではこうした運用ルールに慣れていない病棟スタッフに大きな負担を強いている.また、医事課を含む外来棟と病棟が離れている現状では、両者を頻繁に行き交う人手のメッセンジャー機能が必須となっている.
病歴管理については医科と共通となることで以前より充実した管理が可能となった一方で、歯科がDPC対象外であることから病院統計の算出が煩雑となるといった問題点もある.

3.2 外来診療における問題
現在、医科と歯科の外来診療については、統合以前と同様に別棟で診療を行っており、医事会計窓口も個別となっている.医科と歯科を併診した場合、支払いはいずれかの窓口で一括払いが可能となっているものの、医事会計は個別に行っているため、結局患者は両方の会計窓口を訪れる必要がある.
歯科外来患者では、術前検査などで医師の診断を必要とする胸部単純エックス線写真撮影や心電図・呼吸機能検査など臨床検査技師が行う検査をオーダする場合が多いが、これらの検査のためには患者は迷路のような通路を5分以上歩いて医科外来の放射線撮影室や検査室まで移動し、更にその後会計のために再度歯科外来に戻る必要があり、患者にとって大きな負担となっている.
医科と歯科の紙媒体の外来カルテは現時点では統合前と同様個別管理となっている.同一病院で外来カルテが二元管理されていることは様々な面から問題があり、またカルテ搬送の煩雑さからも早期の電子化による外来カルテ統合が望まれる.しかし、現時点で医科と歯科の外来カルテの書式要件が異なっており、統合できるかは不透明である.

3.3 組織上の問題
病院統合以前の2001年に旧歯学部附属病院では診療科の再編成を行い、11の診療科を4診療科11診療室としたが、医科診療科ではこのような再編は行われていない.この状態で病院統合したため、医科と歯科では診療科の概念が異なるという状況となった.結果として統合後の現在、歯科診療科の再編成の理念はあまり活かされず、逆に医科と歯科の組織がフラットでないことによる情報伝達ルートの複雑化などの不具合が生じている.
4. 今後の課題と展望
本院における病院統合は全体的にはスムーズに行われ、各部門の統合やシステム更新よる医科歯科間の情報共有など様々なスケールメリットが得られている1).しかし、統合前に両病院で運用が異なっていたいくつかの点については、統合時にその相違を調整することができず、いまだに現場の混乱を招いているものがある.歯科入院患者の医科外来処方の不具合などはインシデントにもつながる重大な問題であるが、こうした問題の中には事前チェックが困難な潜在的なものも多く、日々これらの洗い出しを行いながら現場の運用で補っているのが現状である.これらの問題点につては、次期システムや将来的な外来統合での解決に向けて準備をすすめてゆきたい.
歯科外来で病名・処置のフロントエンドとして用いている歯科用レセコンが持つ医事チェックやカルテ記録の機能は、本来病院情報システムや電子カルテの中で実現されるべきものであるが、現状でその実装が困難である原因の一つは医科と歯科の保健診療ルールの相違であろう.今後、合併症を有する高齢者や有病者の増加に伴い病院歯科の需要は増加するものと思われ、病院ベースでの歯科医療提供体制やそのための病院情報システムの構築は大変重要な課題と考えられる.医療情報の標準化や電子化は医科も歯科も同じ基盤の上で行われ、両者が一つの単純な情報システム上で稼働することが求められ、こうしたプラットホームを開発することが私たち医科歯科統合大学病院の役割のひとつと考えている.
図1 新潟大学医歯学総合病院の配置:     (歯科の外来と病棟は300m離れている)
参考文献
[1]鈴木一郎、小林博、西山秀昌.:大学歯科病院における病院情報システムの新たな展開.. 医療情報学 2006;26巻(Suppl.2):174-175.
[2]鈴木一郎、大内章嗣.:大学歯科病院における診療録記載支援システム導入の評価.. 医療情報学 2004;24巻(Suppl.2):668-669.
[3]鈴木一郎、加藤一誠、依岡正宏.:歯学部附属病院における診療録記載支援システムの導入.. 医療情報学 2001;21巻(Suppl.2):145-146.