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歯科情報システムの今後
森本 徳明1)
矯正歯科 森本1)
Next Stage of Dental Hospital Information Systems
Morimoto Noriaki1)
Morimoto Orthodontic Office1)
Abstract: In "Society concerning the dental hospital information exchange",it has proposed the consideration method to a peculiar idea and way to the dental department to use again in the workshop in spring of 2005. This time, about the topic concerning the information system of the changing dental department widely, in the following four titles, it is reported from the person in charge.1.Consideration concerning data structure of new dental formula code2.Recent improvement of Voice input tool for Dental Practice3.Design Concept of "Dental Training Evaluation and Tabulation System (DEBUT)"4.A new development of information system in university dental hospitalTo the base on the above-mentioned topic, it schedules to think together about the dental information system in the future.
Keywords: dental, 歯科, HIS, 病院情報システム

1. はじめに
 平成7年11月名古屋で開催された第15回医療情報学連合大会以来,「歯科診療情報システムを考える」と題したワークショップが催され、これを機に,歯科の病院システムに関する経験やアイデアの交換や,活発な議論を行うためのメーリングリスト dhis1)が創設された.
それ以降、当学会にて歯科の研究会を立ち上げ、そのときに抱えている問題に焦点をあて、ざまざまな提案を行ってきた。
現在の「歯科医療分野における情報交換に関する研究会」では、2005年の春季大会のワークショップまでで、傷病名・手術処置の用語・コードの標準化について医科ですでに作られている同マスターと整合をはかり、また歯科特有の考え方や使われ方に考慮した案を作成し、意見を求めてきた。また、医科とは幾分か異なる歯科材料の管理方法などを考慮した物流システムの構築例などの発表も行ってきた。
今回は、話題を幅広くし、変化しつつある歯科の情報システムに関すしてそれぞれ開発されてきた担当者より報告していただくこととした。
そして、この話題をもとに、今後の歯科における医療情報の取り扱いに関して、どのような方向に進んでいくべきか、参加者とともに考える機会になればと、本ワークショップを企画した。
2. 経緯
最初の「大学附属歯科病院情報処理研究会」(期間:1996年11月~2001年5月)を設立したころは、医科大学病院においては、医事会計システムからオーダリングシステムへ切り替えが行われ、“計算を行う”という個の情報処理から“伝達を行う”という連携の情報処理に移行を図っている時期であった。このような中で歯科の病院情報システムの開発は、医科と異なり、病名・処置を中心としたものであった。そして開発を行っていくうえで、さまざまな問題を解決する必要があることがわかってくる。
たとえば、歯式は歯科ではあたりまえに用いられている記述方式であったが、それまでのコンピュータに登録されている文字では表せない歯科用特殊記号を多く利用していた。歯科のシステム開発を行っている際に、必ず取り扱い、表記の問題に直面した。表記については、個別に外字を作成することでも何とか対応できたが、検索や並べ替えを行う場合や、多施設間で情報交換を行う場合には、共通の文字コードを持っている必要がある。そして、これは機種やソフトに依存してはならないものであるから、JISの漢字拡張計画に、歯式の表現を可能とするタイポグラフィが組み込まれるよう申請作業を行うこととした。本学会の推薦をいただき、平成8年12月に「2バイト情報交換用漢字符号 拡張集合への登録申請書」として申請を行った。その後、平成14年には、Unicode 3.2に歯科用特殊記号2)として採用されたことにより、やっとコンピュータの世界で、日本において通常用いられる歯科の記号が、入力、表示、検索、交換がやっとできるというスタート地点に立てたといえる。
課題研究会の見直しにより、2002年度より「歯科分野における保健医療福祉情報の標準化に関する研究会」、2005年度より「歯科医療分野における情報交換に関する研究会」とテーマを変え、歯科の情報化に関わるもののなかで緊急性の高い課題を絞込み、それを研究課題とした当研究会の設立し活動を行っている3) 4) 5) 6)
3. 歯科の医療情報システムをとりまく現状
 最初に課題研究会をたちあげた11年前と比べて、大きく変化をしてきている。もちろん、コンピュータのハードの伸びは言うに及ばないが、制度的な変化にともない、いろいろなシステムが開発されたり、既存のシステムの改変が行われたりしてきた。

3.1 レセプトの電子化
 レセプトの電子化については、2011年のオンラインの義務化の方針がでて、歯科でも対応する必要がある。当研究会のワークショップで報告してきたように歯科の傷病名および手術・処置のマスターについては関係機関との調整をとりつつ作業が進められている7)。当初の予定通り本年度末から来年度の早い時期には仕様が公表されるのではないかと考えている。当然、歯科の医療情報システムもこれに対応する必要があると考える。
ただし、これはひとつの過程であり、歯科診療録の記載に必要な情報を交換するのに必要な用語、形式を考えていかなければならないと考える。

3.2 歯科大学病院の変化
 国立大学の附属病院においては、この11年の間に、大学の独立法人化に伴う体制の変化、特に11大学病院のうち9の病院では、現状での程度の差はあるが医科と歯科の統合がなされた。
病院情報システムにおいても、システムの統合を考える必要があり、最初の問題はIDの統合からであった。また、施設の統合が進む大学では、医科、歯科でそれぞれ開発されていたシステムをコスト削減のため、できるだけ統合が図られ、また、組織の改変に伴い、運用の見直しが行われ、それに伴い新規システムの開発にも大きな影響がでている。
 また、歯科の大学病院では、一般歯科にはほとんど無い病棟や検査、薬剤、放射線等部門を持ち、地域の中核病院であるということ、医科との一体化した予算措置の関係もあり、一般の開業医で使われている歯科用のシステムではなく、歯科病院独特の歯科システムの開発が行われてきた。しかし、歯科システムの洗練度の違いや保険改正時等のメインテナンスの煩雑さなど問題点に加え、前述の組織の改定による予算の見直し等もあり、方針の転換を考えるところもあるようである。
私立の歯科大学病院においても、歯科用レセコンより電子カルテを目指したシステム更新が行われるところが増えており、病院で使える歯科システムの開発とそのコストに対する考え方を再考する時期に来ていると感じている。
今まで臨床で使われていない新しい技術等を利用することにより、より歯科の臨床現場に適合するシステムの開発・利用を行う一方で、統合された病院の理念に基づく患者・利用者に優しい(わかりやすい・安全・効率・コスト等)病院全体のシステム構築を考える時期であろう。

3.3 歯科臨床教育への活用
 医療において臨床教育は非常に重要である。以前は、指導医のもとで、実際に患者さんに了解をいただき、その上で実際の治療を行うことにより、技術を習得してきた。しかし、現時点では、その形式は変わってはいないものの、教育機関である大学でも教育を行うのに十分な患者さんを集めることが困難となっており、また、実際の治療については、免許をとっての卒後に指導医のもとで患者さんに初めて接して行うということになってきた。
このような中で、少しでも臨床教育を充実させるために、コンピュータを用いて、いろいろな方法が試行、実施されてきている。
4. 今回のワークショップでは
それで、今回のワークショップでは、下記の4つの内容について、それぞれの担当者より報告をしていただく。

1.コードでの交換を意識した歯式のデータ構造に関する考察
2.歯科用の音声入力ツールの最近の進歩について
3.オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT)の設計思想
4.大学歯科病院における病院情報システムの新たな展開

まず、座長より今までの歯科の用語・コードの標準化の議論の中で重要だけれど残されていた、歯式のコード化について改めて考えることとする。この部分の解決により、医科で発表されている各種標準マスターと現在検討中の手術・処置マスターとあわせ、歯科のレセプトの電算化に必要なマスターがそろうこととなる。
次に、成澤英明氏より歯科の電子カルテを考える上で10年前に携帯端末について考えたがそのとき利用をしたかった音声入力ツールに関して、変換精度の向上等によって歯科の臨床現場で利用できそうであるという報告をいただく。
さらに、佐々木好幸氏より今後の歯科医師の教育にも関わる、本年度より運用開始された「オンライン歯科臨床研修評価システム」の設計思想と、運用後まもないがその評価について報告いただく。
最後に、鈴木一郎氏よりこのような流れの中で、また独立法人化され、医科と歯科の統合をされた新しい枠組みの大学病院での歯科のシステムに関する動向について、新潟大学の例についてご報告いただく。
以上の話題を軸に、今後の歯科の情報システムを考えていく予定ある。
参考文献
[1]Dental Hospital Information System Forum.:「http://www.dhis.info/.」
[2]Unicode 3.2.:「http://www.unicode.org/reports/tr28/tr28-3.html.」
[3]歯科の標準化の方向と進捗状況について.:「http://www.med.kyushu-u.ac.jp/jcmi2002/workshop/morimoto.html.」
[4]齊藤孝親,山均,佐々木好幸,鈴木一郎,玉川裕夫,成澤英明,萩原芳幸,日高理智,森本徳明,山田卓也,西田悟.:ICD-DA対応歯科標準病名マスターについて. 第22回医療情報学連合大会論文集,2002,3-4.
[5]佐々木好幸,廣瀬康行,矢嶋研一,森本徳明,成澤英明,尾藤茂.:歯科情報のオブジェクトモデリング. 第22回医療情報学連合大会論文集,2002,5-6.
[6]廣瀬康行,矢嶋研一,森本徳明,佐々木好幸,成澤英明,尾藤茂.:歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築. 医療情報学,2003;23(1);33-43.
[7]歯科分野(病名、手術・処置)マスターのベータ版公開にあたって.:「http://www.medis.or.jp/4_hyojyun/sika/index.html.」