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大学歯科病院における病院情報システムの新たな展開
鈴木 一郎1) 小林 博2) 西山 秀昌3)
新潟大学医歯学総合病院地域保健医療推進部1)
新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食機能再建学分野2)
新潟大学大学院医歯学総合研究科顎顔面放射線学分野3)
A new development of information system in university dental hospital.
Suzuki Ichiro1) Kobayashi Hiroshi2) Nishiyama Hideyoshi3)
Division of Community Health Promotion, Niigata University Medical and Dental Hospital1)
Division of Removable Prosthodontics, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University2)
Division of Oral and Maxillofacial Radiology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University3)
Abstract: Since 1995, our research groups "Research Group for Dental Hospital Informatics" and "Standardization of Health Information in Dental Field" have discussed about hospital information system at dental hospitals (DHIS) and various standardizations in dental field. Along with the discussions, many university dental hospitals introduced DHIS, however, establishment of DHIS still involves some difficulties based on rules of dental clinical record and dental insurance system in Japan. Recently, national universities underwent various administrative reorganizations and, under this framework, our medical and dental hospitals merged to form "Niigata University Medical and Dental Hospital" in late 2003. In such an environment, our design of DHIS has been switched to fit a new viewpoint: how to share and how to use medical and dental information in our unified hospital. The unification has brought about advantage of scale, however, our DHIS can not completely merge with the medical hospital information system because of the differences in clinical record rules and insurance systems.In this planned session, by introducing the example of Niigata University, we want to discuss about the establishment of DHIS in the near future, standardization of dental information based on EHR and insurance claim, as well as common infrastructure in the medical-dental field.
Keywords: Hospital Information System, 病院情報システム, Dental Hospital, 歯科病院, Clinical Record, 電子カルテ, Insurance Claim, 保険請求

1. はじめに
過去10年間、本学会のワークショップなどをとおして大学歯科病院における病院情報システムに関する様々な議論が重ねられてきた1) 2).こうした議論と同期して、国立大学では医科病院と一括調達のもと、医科病院情報システムに歯科独自のシステムを追加するという形で開発され、また私立大学を中心とする歯科単科大学では、それぞれ独自の歯科用のシステム導入が進んできた.それぞれのシステムはその後、他大学のシステム構築のノーハウとして活かされるようになってはいるが、診療体系や保険ルールなど歯科の独自性に対応した病院情報システムを構築することは現在なお困難も多い.
一方ここ数年、大学は様々な改革の波にさらされ、多くの国立大学では独法化とセットで病院統合が行われた.こうした組織基盤の変化により、スケールメリットと歯科の独自性をどのようにバランスさせるかなど、組織の運用とともに病院情報システムについても従来とは異なる視点が必要となった.本セッションでは新潟大学の事例紹介から、今後の歯科病院情報システムのあり方、電子カルテや電子レセをふまえた歯科における標準化の進め方、更に医歯一体の情報共有基盤の構築などについて議論したい.
2. 新潟大学のシステム
2.1 システムの変遷
新潟大学に病院情報システムが最初に導入されたのは1986年である.以後3回の更新を経て2006年1月から4世代目のシステムが稼動している.1,2世代(1986,1993)は汎用機ベースのシステムで、医事、オーダエントリ(臨床検査、注射、手術)、カルテ出庫と連動した予約システム、リコールシステム、病歴システムなどが稼動していた.このうちリコール、病歴の各システムは歯科で独自開発したものである.3世代(2000)では端末がPCとなり、歯科外来でも各種のオーダエントリが稼動するようになった.ただし、画像と病名・処置については紙ベースの運用のままであり、また1,2世代で開発した患者の病歴を記録する一種の電子カルテを目指した病歴システムは、操作の煩雑さやデータの利用目的が明確でなかったことなどから、3世代には移行しなかった2).なお、2001年からは3世代システムに歯科診療所用レセコンを併用し、擬似的な病名・処置システムとして利用するという変則的な運用を行ってきた3) 4).なお、3世代まで医科と歯科はネットワークやハードウェアは共有していたがデータ自体の共有はなかった.


2.2 現在のシステム
以下に2006年1月から稼動している4世代目のシステムの概要を示す.
2.2.1 ID統合
これまで医科と歯科で独立していた患者IDについては、2003年10月の病院統合の際にID統合が検討され、主にコスト的な問題から今回のシステム更新のタイミングに統合することとした.更新前約半年をかけて手作業での名寄作業を行い、システム更新時に両IDを持つ者は医科IDに統合、歯科のみのIDを持つ者は新IDに変更した.

2.2.2 システムの概要
今回のシステムでは基本的に医科と歯科の診療科は同列に扱われている.オーダや電子カルテ情報はすべて共有されており、端末環境も歯科にレセコン環境があること以外に医科との区別はない.
ほとんどのオーダエントリは医科・歯科共通である.ただし運用上両者を区別するものがあり、例えば処方オーダは医科・歯科共通マスタであるが、歯科フラグの設定により歯科外来では限定した薬剤のみリストアップ・処方可能としている.
病名・処置については2001年より歯科用レセコンを導入しており3) 4) 、今回の更新にあたって、これを継続利用するか、新規開発するかについて様々な議論がなされた.レセコンを病名・処置のフロントエンドとして用いる方法は、オーダや医事との双方向の複雑なインターフェイスの実現に難があり、また新規開発の場合はレセコン並の医事チェック機能をオーダ上で実現することが困難である.結局、レセコン導入により算定もれや返戻が減少したという実績4)やユーザの慣れという点から、レセコンを継続利用することとした.現在のところ、レセコン-オーダ-医事の3システム間の双方向インターフェイスは実現しておらず、病名・処置データはレセコンから医事システムへ一方向に流れている.また、予約オーダについては歯科でチェア予約を可能とした.画像については、撮影部署が統合後も医科と歯科に分かれ、また病棟などいくつかの病院機能が医科と同じ建物に移転したことにより、現時点では紙運用が混在する複雑なオーダ・撮影環境となっている.




2.2.3 電子カルテ
医科・歯科ともに、入院は電子カルテ、外来は紙カルテ併用、という運用である.歯科外来でも電子カルテは利用可能であるが、特に歯科外来での利用を想定した開発は行っていない.医科外来では、紙カルテの場合でもオーダ内容は電子化宣言し紙カルテに転記不要としているが、歯科外来ではレセコンからすべてのカルテ記載事項を2号用紙に直接印字し、これをオリジナルのカルテとしている.

3. 病院統合


3.1 統合のインパクト
2003年10月に医学部と歯学部の両附属病院が統合した.看護、薬剤、検査、医事など診療部門以外のほとんどの部署は直ちに統合し、また2006年1月の病棟新築移転に伴い病棟と手術室も統合した.今回のシステム更新はこうした病院機能の統合と同期し、独法化による強いコスト意識や病院全体での最適資源配分という従来とは異なるルールの中で、医科との情報共有を目指したシステム構築を行うこととなった.システムの統合により、医科と歯科を併科している患者の情報が相互に共有できる、医科・歯科間の紹介が電子的に行える、など医療現場にも様々なメリットが生まれた.

3.2 統合による問題点
医科と歯科がフラットな運用となったにもかかわらず、両者の医事が独立していることは様々な混乱や不具合を招いている.例えば入院では、同じ病棟でありながら、医科・歯科間の兼科が不可能で歯科入院患者は医科診療が外来扱いとなる(逆も同じ)、あるいは転科は退院を伴う、などの不合理が露呈した.また、外来についても、現状では医科と歯科の医事が場所も運用も異なるため、医科・歯科間をまたいだ外来診療では患者に大きな負担が生じている.これらの問題については運用やシステムで吸収すべく様々な努力を行ってはいるが、現行制度下では完全な解決は不可能である.
4. 今後の歯科病院システム
1995年に、大学歯科病院の病院情報システムに関するワークショップ1)が開催されて以来、本学会では歯科における病院情報システムにかかわる問題や、更に広く歯科全般の医療情報のかかわる標準化などの諸問題について多数の議論や提案が重ねられてきた.この間、病院情報システムに関しては、各大学間での情報共有もさかんとなり、他大学病院の先行事例をベースとしたり、歯科診療所用レセコンの様々なノーハウを活かした開発も行われるようになり2)、またいくつかの大学病院では医療情報を扱う部署の設置や専任教官の配置がなされた.しかし、歯科ではそのマーケット規模やもっぱら診療所を想定した歯科保険診療にかかわるカルテやレセプトのルールの問題などから、いまだ満足できる病院用システムの構築は困難である.こうした背景のなか、私たちは開発コストやユーザ負担などの点もふまえ、これまで紙運用を残しながら歯科用レセコンを併用するという現実的だが洗練されていない病院情報システムの構築を行ってきた.一方、今回のシステム更新では、これまで歯科単科病院の中で医科用システムをいかに歯科用にカスタマイズするかを考えてきたものが、病院統合により歯科が大きな病院の中の部分集合となり、組織の運用とも合わせて、医科と共通システムの中でいかに歯科の独自部分を実装してゆくか、という視点が必要となった.こうした共通化によりシステムがコンパクトとなり医科・歯科間の情報共有が可能となったことは統合の大きなメリットであるが、一方で医事にかかわる医科と歯科の相違が現場の混乱をもたらしている.電子カルテや電子レセが現実のものとなりつつある今、電子化や標準化のみならず旧来の医療制度も医科と歯科の共通基盤の中で再構築する必要があろう.
参考文献
[1]玉川裕夫、広瀬康行、竹原重信ほか.:歯学部・歯科大学附属病院の病院情報システムを考える(ワークショップ). 第15回医療情報学連合大会論文集 1995:47-50.
[2]鈴木一郎、伊藤豊.:歯学部附属病院情報システムの動向-最近、稼動あるいは稼動予定の歯学部附属病院情報システムについて-. 医療情報学 2000;20巻(Suppl.2):908-911.
[3]鈴木一郎、加藤一誠、依岡正宏.:歯学部附属病院における診療録記載支援システムの導入.. 医療情報学 2001;21巻(Suppl.2):145-146.
[4]鈴木一郎、大内章嗣.:大学歯科病院における診療録記載支援システム導入の評価. 医療情報学 2004;24巻(Suppl.2):668-669.