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コードでの交換を考えた歯式のデータ構造に関する考察
森本 徳明1)
矯正歯科 森本1)
Consideration concerning Data Structure of New Dental Formula Code
Morimoto Noriaki1)
Morimoto Orthodontic Office1)
Abstract: Although it is important in the argument on standardization of the term and code of dentistry, coding of dental formula is one of those which were not looking at the conclusion.We suggested that the method expressing the information about each tooth by decomposing per minimum meanings and associating them again currently expressed clarifying a meaning by using XML technology.This is excellent and extendibility and very good.On the standardization work of a term and a code being done in MEDIS-DC, the new code of dental formula corresponding to a modifier code, and giving the code system and compatibility is proposed this time.By solution of this problem, a master required for computerization of the medical information of dentistry will gather in accordance with the various standard masters announced in the medical department, with dental treatment master under present examination, and it will expect exchange the way between dental computer for Rezept to another one easily.
Keywords: Dental Formula, 歯式, Standardization, 標準化, code, コード化

1. はじめに
歯科の用語・コードの標準化の議論の中で、非常に重要であるが、結論を見ていないものに歯式の伝達方法がある。
日本で広く用いられている歯式の形式はテキストと罫線の組み合わせで表示されているが、情報の観点より分析すると、わが国の健康保険とも絡まって、歯の種類、位置、状態、治療計画等まで複数の意味を、罫線との位置関係やその並び方、また○付きのテキスト文字や記号をいれて表現しており、複雑である。これは、歯科診療録を簡易に記録する方法として考案されたり、歯科のレセプトの審査を容易にする必要な治療計画や処置との関連付けを、歯式や保険傷病名の中には組み込んできた結果と考えられる。
当研究会1)も、さまざまな方向から歯式の取り扱いについて、検討を加えてきた。
歯科用レセコンではこの意味の違いを区別するために、32の歯の場所を箱と見立て、そこにどのような状態の歯が存在するかを、状態を示す数値等で入れていくという方法が開発された。
この方法での共通化を図るべく、歯科の工業会と共同で1999年に玉川2)が当学会に報告した。歯式を交換する場合にテキスト文字列だけでは表現が困難なために考えられた方法であるが、箱が歯の位置を示しており、歯種と位置は基本的に同じと扱われることと、過剰歯や隙の存在も含めて箱の中に記載する記号で起こりうる全ての状態を表現しなければならないため、保険にはなんとか対応したが表現力が十分でないということが挙げられた。
その後、電子診療録でも使える歯式の情報交換を考えるということで、2000年に矢嶋ら3)、2002年に佐々木ら4)、2003年に廣瀬ら5)、矢嶋ら6) 7)はXML 技術を用いて、歯式で表現されていた複数の意味を最小単位に分解し、再度ルールに従って関連つけることにより、意味の欠落をなくし、歯に関する情報の関連を明確にしつつ、表現する方法を提案した。
これは柔軟性、拡張性にすぐれ、非常に表現力にすぐれるものと考えられたが、レセプトの電算化等で使われる方法は、当面はXML技術を使った仕様ではないため、ここで使える方法を考える必要がでてきた。MEDIS-DCで行っている用語・コードの標準化作業でいえば、歯式は修飾語に対応するものであるが、単純に部位を示すだけでは、電子化の恩恵に十分あずかれないことが明確になった。
そこで、MEDIS-DCで行っている用語・コードの標準化作業のコード体系を維持しつつ、不足の情報を付加しひとつのコードとして交換する方法で、レセプトの電子化に対応するだけでなく、将来の歯科健康情報の交換を行える方法として、さらに、現在、広く流通しているレセコンが容易に対応できる方法を提案する。

2. 前提条件
コード形式を考える上で、次のことを前提とした。
2.1 MEDIS-DCの標準化コードに対応する形式
レセプトの電算化事業において、利用される予定のものはMEDIS-DCの標準化コードであるため、このコード体系にそった形式を考える必要がある。

2.2 医科のシステムと交換できる形式
歯科のシステム間での交換は当然であるが、医科のシステムとも交換できる形式が必要である。なぜなら、医科においても歯種を指定することがあり、また、患者の健康情報として総合的に捉える必要が今後ますます高まれば、医科、歯科の境なく扱える必要がある。

2.3 日本の歯科医療で必要とされる位置、処置、治療方針情報をもれなく表現できる形式
 すでに日本の歯科医療で必要により拡張された歯式の持っている情報を、もれなく表現することにより、現在の歯科用レセコンの持っている機能を有効に使うと同時に、異機種間での情報の交換を容易に可能とする方法を考える。

2.4 XML等で表記する方法と情報交換が可能な形式
 今後の歯科医療の発展にあわせた拡張性を考え、たとえば我々の提案したXMLでの記述等に、今回の提案するコードから容易に対応がとれる形とすることで、情報交換を可能とする方法を考える。

2.5 国際的な規格であるFDIの歯式コードと関連付けができる形式
 FDIコードはコンピュータで歯式を扱う方法として、永久歯、乳歯、過剰歯などのコードを定義し、国際的に提唱されている方法ではあるが、国内の医療保険上で利用するには、情報が十分ではない。しかし、国際的な情報交換の必要からも、1対1で対応できる方法を考える。
3. 新しい歯式コードの提案

3.1 新しいコードの枠組み
2-1において、修飾語コードは4桁または9桁ということとなっている。現時点では医科では部位を示す修飾語は4桁でコードが振られていることと、医科では歯種の指定で通常情報が交換されるであろうと考え、次に述べる歯種のコードは4桁とし、医科との交換が容易にできることを考えた。
2-3、2-4を前提に、修飾語の枠の9桁に収めることを考え、歯科で特有に使われる情報に関しては、歯種のコード4桁を除く5桁を利用し、それぞれの桁に意味を定義してすることにより、情報の分割や追加が容易にできることを考えた。
追加する必要な情報としては、歯の位置のコードを1桁、歯の部分のコードを3桁、歯の状態および方位を示すコードを1桁もたせることとした。

3.2 歯種のコード
2-1、2-2に対応するために、コードの桁数は基本的な歯種の表現は修飾語の4桁で表現することとした。さらに、2-5を考え、扱う歯種情報はFDIで定義されているものをすべて網羅してコード化することを提案する。ただし、MEDIS-DCの標準化コードの基本的理念として「コード自体には意味を持たせない」ということより、昨年提案した、直接FDIのコードを組み込む方法ではなく、別テーブルで1対1の対応をとることにより、変換可能とする方法を考えた。また、歯科医療で扱い、実存する歯と同様に扱うほうが論理的に扱いやすい「空隙」、「歯科用インプラント」を歯種とみなしてコードを追加した。

3.3 歯の位置のコード
通常、歯の存在する位置は、歯種により決まっているが、正常と異なる場所に自然に存在する場合や、移植等の処置により位置が変わることがある。過剰歯の位置の明記が必要な場合もある。また、「空隙」や「歯科用インプラント」の治療の場合の位置を明記する必要が、補綴物の形状にも影響を与えるため、歯種の位置を示すコードが必要なため、追加した。コードはFDIをもとに32の歯の部位を数字と大文字のアルファベットを用いることにより1桁で表現することとした。

3.4 歯の部分コード
歯を分割して部分の表現を必要とする処置に、大臼歯の分割抜歯およびそれに続く補綴処置があるが、そのほかにも、歯にできる病変の部位や、それに対応した処置の部位を示すことが出来るよう、また複数の組み合わせを同時に表現できることを考え、歯を14の部位に分割し、その部位を対象しないかするかを、0、1の2進数で表す方法を考えた。
2の14乗を表す必要があるが、数字と大文字のアルファベットを利用しても36であるため、2の5乗(32)を一コードとして、3桁で表現(2の15乗まで表現可能)することとした。

3.5 歯の状態および方位を示すコード
欠損歯、支台歯、残根などの歯の状態は、レセプトの傷病名記載にも必要であるため、別に定義を行った。
また、空隙や過剰歯の位置を指定する場合、3-2で定義される位置より、どちらの方位にあるかが大きな意味を持つため、方位についても定義した。
本来、歯の状態と方位は別の概念であるので、桁を分離すべきであると考えたが、全体を9桁で収めることと、同時に状態と方位を指定することはないという判断より、1桁のコードで表現することとした。
4. まとめ
新しいコードにより、今回、目的とする歯式の情報の伝達が可能となると考える。
この問題の解決により、医科で発表されている各種標準マスターと現在検討中の歯科手術・処置マスターとあわせ、歯科のレセプトの電算化に必要なマスターがそろうこととなり、扱いにくかった歯科の情報がコンピュータで扱いやすくなると考えられる。また、現在ほとんど不可能な歯科用レセコンでの他機種とのデータの交換が可能となることも期待される。
参考文献
[1]Dental Hospital Information System Forum.:「http://www.dhis.info/.」
[2]玉川裕夫、天野秀昭、鈴木一郎、成澤英明、日高理智、廣瀬康行、森本徳明、西山孝之、多田康之.:歯の部位情報交換の標準化に関する提案. 第19回医療情報学連合大会論文集,1999,784-785.
[3]矢嶋研一,森本徳明,玉川裕夫,大橋克洋,福田康夫,廣瀬康行,成澤英明,田中猪夫,林直治.:MMLに追加する歯科パートの原案について. 第20回医療情報学連合大会論文集,2000,906-907.
[4]佐々木好幸,廣瀬康行,矢嶋研一,森本徳明,成澤英明,尾藤茂.:歯科情報のオブジェクトモデリング. 第22回医療情報学連合大会論文集,2002,5-6.
[5]廣瀬康行,矢嶋研一,森本徳明,佐々木好幸,成澤英明,尾藤茂.:歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築. 医療情報学,2003;23(1);33-43.
[6]矢嶋研一,廣瀬康行,森本徳明,佐々木好幸,成澤英明,尾藤茂,神田貢,鈴木一郎,永松浩.:歯科用XML Schema (DinfoEx)による歯科診療録の記載. 第23回医療情報学連合大会論文集,2003,163-166.
[7]矢嶋研一,廣瀬康行,森本徳明,佐々木好幸,成澤英明,尾藤茂.:診療履歴情報とプロブレムのontology的リンクモデルと電子カルテシステムへの適用例. 第23回医療情報学連合大会論文集,2003,800-801.