歯科分野における保健医療福祉情報の標準化の総括と今後の展望
森本 徳明1) 佐々木 好幸2)
矯正歯科 森本1)
東京医科歯科大学歯学部附属口腔保健教育研究センター2)
The summary and next step
of standardization for Dental Health Information System
Noriaki Morimoto1) Yoshiyuki Sasaki2)
Morimoto Orthodontic Office1)
Center for Education and Research in Oral Health Care2)
Abstract: We, the study group "Standardization of Health Information in Dental Field", planned this workshop to summarize the activity for these three years and to decide the future directionality about standardization of glossary and handling. It contains 4 sessions. Two of them are concerned with progression of the standardization work as a summary of activity of this study group. The other of them are two suggestions about distribution system of the dentistry, that is not yet solved at present, and computerization of Rezept in dentistry, that is already implemented in a medical field. Furthermore, we will arrange enough time to discuss these themes and think about a policy toward implementation.
At first, Dr. Saito, head of Committee of Standardization in Dental Information established by MEDIS-DC, presents about standardized dental disease master. The next, Dr. Narusawa presents about an implementation of exchange methods of the dental information that used the standardized master with various dental system. The third, Dr. Tamagawa presents about a distribution system of dentistry in a university hospital and its standardization, especially using dental material code. The fourth, Dr. Morimoto makes some suggestions about a computerized Rezept for dentistry in health insurance system. At last, we make discussion with participants about our trials and verify the effectiveness and problems in this workshop.
Keywords: Dental, Standardization, Health Information System

1. はじめに
 平成7年11月名古屋で開催された第15回医療情報学連合大会において,「歯科診療情報システムを考える」と題したワークショップが催され、これを機に,歯科の病院システムに関する経験やアイデアの交換や,活発な議論を行うためのメーリングリスト dhis 1) が創設されたが、それから10年目になる今年、場所も同じ名古屋国際会議場で連合大会が開催される。また、本学会課題研究会「歯科分野における保健医療福祉情報の標準化に関する研究会」の期間内最後の連合大会であることも考え合わせ、このワークショップでは、この3年間の活動報告を行うとともに、今後の歯科における医療情報の取り扱いに関して、どのような目的をもって進んでいくべきか方向を探ることを目的として、計画した。
2. 歯科の標準化へ向けての歴史
 前身の「大学附属歯科病院情報処理研究会」(期間:1996年11月〜2001年5月)を設立したころは、個対個であったパソコン通信からインターネットの世界に劇的に変化しはじめた時期であった。医科大学病院においては、医事会計システムからオーダリングシステムへ切り替えが行われ、"計算を行う"という個の情報処理から"伝達を行う"という連携の情報処理に移行を図っている時期であった。
 しかし、歯科においては、病院が少なく個人開業医が多い等の歯科医療界の構造にもより、個の医事会計システム、および単科の特化したいわゆる「電子カルテシステム」としては非常に進歩していたが、連携をとるという発想はほとんど生まれず、それぞれのシステムは個別に開発され互換性に乏しいものであった。
 このような中で歯科の病院情報システムの開発は、医科と異なり、それまでの医科で経験することの少なかった、病名・処置を中心としたものであった。そして開発を行っていくうえで、さまざまな問題を解決する必要があることがわかってくる。
 たとえば、歯式は歯科ではあたりまえに用いられている記述方式であったが、それまでのコンピュータに登録されている文字では表せない歯科用特殊記号を多く利用していた。歯科のシステム開発を行っている際に、必ず取り扱い、表記の問題に直面した。表記については、個別に外字を作成することでも何とか対応できたが、検索や並べ替えを行う場合や、多施設間で情報交換を行う場合には、共通の文字コードを持っている必要がある。そして、これは機種やソフトに依存してはならないものであるから、JISの漢字拡張計画に、歯式の表現を可能とするタイポグラフィが組み込まれるよう申請作業を行うこととした。本学会の推薦をいただき、平成8年12月に「2バイト情報交換用漢字符号 拡張集合への登録申請書」として申請を行った。その後、平成12年1月20日に、当初希望したすべては含まれなかったが、歯科で表現するために必要な最低限の歯科用特殊文字が文書番号"JIS X 0213:2000" 標題 "7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合"のなかに登録された 2) 。 この活動は、平成14年には、Unicode 3.2に歯科用特殊記号 3) として採用されたことにより、やっとコンピュータの世界で、日本において通常用いられる歯科の記号が、入力、表示、検索、交換がやっとできるというスタート地点に立てたといえる。
3. 本研究会の設立
 課題研究会の見直しにより、2001年度で「大学附属歯科病院情報処理研究会」が解散となったが、我々の活動内容が重要であることをますます感じてきたため、あらたに、歯科の情報化に関わるもののなかで緊急性の高い課題を絞込み、それを研究課題とした当研究会の設立を申請し、承認された。
 その研究課題は、歯科分野における保健医療情報の流通を行うために必要な情報交換の枠組み策定のみならず、必要な用語の統一さえ十分なされていない現状を踏まえた上で、グランドデザイン等で示されている医療のIT化の波に対応すべく、歯科分野で必要なデータ交換の枠組みと用語の統一を図ることを目的として、そこに存在する課題の解決をひとつずつ行っていくことであった。 4)5)6)7)8)9)10)11)
4. 今回のワークショップでは
 課題研究会期限の3年目にあたる今回、「歯科分野における保健医療福祉情報の標準化に関する研究会」では、昨年のテーマを発展させ、「歯科分野における保健医療福祉情報の標準化の総括と今後の展望」と題し、歯科における標準化の現状の総括と今後の展望を会場との議論も通じて、考えるワークショップを企画した。基調発表として4題、そしてそれを元に討論する時間を十分設け、実装にむけての方策を考える。
 まず、MEDIS-DCの歯科標準化委員会を中心に作成している歯科標準病名に関して委員長の齊藤孝親氏より「歯科標準病名について」と題して、取り扱いの基本となる用語に関してお話いただく。歯科標準病名マスターのベータ版 12) が今春リリースされたが、その反響およびリリース後のこと、さらに今後の用語標準化に関するスケジュールと方針などが聞けると思う。
 次に、昭和大学歯科病院 成澤英明氏より「最新の医療情報標準化マスターを利用した歯科医療情報の交換手段の実装」と題し、歯科医療情報の機種間の交換を保つために、標準マスターやW3C XML schemaを利用して実装する場合の考慮すべき点について発表いただく。
 三番目に、大阪大学歯学部附属病院 玉川裕夫氏より「歯科の物流システムと標準化 −何を解決できるか」と題して、医療管理を行うために有用で、医療コスト削減にもつながるといわれている物流システムについて、大学病院での開発を通じて、医科と異なる、歯科の物流システムの特徴とそれに対する方向性をお話いただくこととしている。
 話題提供の最後に、代表幹事の森本徳明より「歯科用電算レセプトについての提案」と題した発表を行う。
 「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」 13) でひとつの目的であり、指標となっている電算レセプトが、歯科ではまだ行われていない。その理由として、歯式等の歯科固有の表現方法があり、それについての伝達、保存方法が確立していないことなどがあげられる。また、医科の電算レセプトの方式についても、歯科で行われているチェックの内容とあわない部分も見られる。しかし、支払側ではすでに稼動しているシステムであり、歯科で早急に稼動させるためには、この枠組みを踏まえながら、しかし、現在より負担を軽減でき、さらに、将来への発展性を阻害しないシステムでなくてはならない。この点を踏まえ、現在の状況に即した実装する方法を提案したい。
 最後に、これを軸に会場に参加されている方とともに、現状の把握と同時に問題点の洗い出しを行い、今後の歯科のシステムをよりよいものとするための方向性を見定め、解決すべき点など討論を行う予定である。
 これからの歯科のシステムを考えるかたの多くの参加とご意見でより良いワークショップになることを期待します。
参考文献
[1]http://www.dhis.info/
[2]http://www.jisc.go.jp/app/pager?id=9005
[3]http://www.unicode.org/unicode/reports/tr28/
[4]歯科の標準化の方向と進捗状況について, 森本徳明, http://www.med.kyushu-u.ac.jp/jcmi2002/workshop/morimoto.html,2002
[5]ICD-DA対応歯科標準病名マスターについて, 齊藤孝親,http://www.jcmi2002.med.kyushu-u.ac.jp/jcmi-kakunin/JCMI22/1-K-2-2/paper.html,2002
[6]歯科情報のオブジェクトモデリング,佐々木好幸,http://www.jcmi2002.med.kyushu-u.ac.jp/jcmi-kakunin/JCMI22/1-K-2-3/paper.html,2002
[7]「歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築」,廣瀬康行,医療情報学,23(1),33-43,2003
[8]「ICD-DA対応歯科標準病名マスターとその課題」,齊藤孝親,医療情報学,23(1),p114,2003
[9]「歯科システムの新しい実装を考える」,森本 徳明, http://dhis.umin.jp/pub/2003/20008/p20008.html
[10]「Ontology 的分析により構築した記述モデルによる病名やプロブレムの変遷の表現可能性」,廣瀬 康行, http://dhis.umin.jp/pub/2003/10131/p10131.html
[11]診療履歴情報とプロブレムのontology的リンクモデルと電子カルテシステムへの適用例,矢嶋 研一, http://dhis.umin.jp/pub/2003/10128/p10128.html
[12]診療履歴情報とプロブレムのontology的リンクモデルと電子カルテシステムへの適用例,矢嶋 研一, http://dhis.umin.jp/pub/2003/10128/p10128.html
[13]診療履歴情報とプロブレムのontology的リンクモデルと電子カルテシステムへの適用例,矢嶋 研一, http://dhis.umin.jp/pub/2003/10128/p10128.html