歯科用XML Schema (DinfoEx)による歯科診療録の記載
矢嶋 研一1) 廣瀬 康行2) 森本 徳明3) 佐々木 好幸4) 成澤 英明5) 尾藤 茂6) 神田 貢7) 鈴木 一郎8) 永松 浩9)
矢嶋歯科医院1)
琉球大学医学部附属病院 医療情報部2)
矯正歯科森本3)
東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯科医療情報部4)
昭和大学 歯学部5)
(株)シーフィックソフトウエア6)
神田歯科クリニック7)
新潟大学医学部附属病院地域保健医療推進部8)
九州歯科大学附属病院総合歯科9)
Dental practice records by XML Schema (DinfoEx)
Kenichi YAJIMA1) Yasuyuki HIROSE2) Noriaki MORIMOTO3) Yoshiyuki SASAKI4) Hideaki NARUSAWA5) Shigeru BITO6) Mitsugu KANDA7) Ichiro SUZUKI8) Hiroshi NAGAMATSU9)
Yajima Dental Clinic1)
Infomatics,Ryukyu University Hospital2)
Morimoto Othodontic Office3)
Hospital,Tokyo Medical and Dental University4)
Showa University School of Dentistry5)
Seafic Software Corp.6)
Kanda Dental Clinic7)
Division of Community Health Promotion, Niigata University Medical Hospital8)
Department of General Dentistry, Kyushu Dental College, Kitakyushu, Japan9)
Abstract: We previously developed the XML Schema based on ontological analysis of the dental domain, a meta-information model for the electronic representation of medical records in dentistry. We illustrate the instruction for the description of clinical information of dentistry with it in this paper.
Keywords: dental, ontology, XML Schema

1. はじめに
 発表者らは歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築1)2)において歯科診療情報を電子的に表現する方法を提案した.これを使って実際に歯科情報を記述する具体的な方法を検討、解説していく。
2. Ontology的モデルの基本
 Ontology的モデルは「内容」クラスと「関係」クラスから成り立っている。「関係」クラスは省略可能であるので、最小の形式は「内容」クラスのインスタンスがただ一つ存在するものである。次にその例として下顎左側側切歯を表現する最小のインスタンスを示す。
図 1 プリミティブ

 図1は「内容」クラスだけのインスタンスで最もプリミティブなものであるが、表現できるものもやはり基本的ものでしかない。
 しかしこれに「関係」クラスのインスタンスを導入すると、その表現力は一気に拡大する。
図 2 基本形

 図2は2つの「内容」インスタンスを「関係」インスタンスで関係を結んだものである。これがontology的モデルの基本形である。
 図2は下顎左側側切歯が齲蝕の状態にあることを記述している。2つの「内容」インスタンスはそれぞれ、歯という実体と、齲蝕という状態を表現している。文章に例えるなら「齲蝕 下顎左側側切歯」であるが、このままでは意味が明確ではない。意味を表すにはこの2つの関係を述べなければいけない。
 そこで、この2つの語句の間にどのような関係があるのかを規定するのが「関係」クラスのインスタンスである。この例では「関係」インスタンスは「修飾」なので1つの「内容」インスタンスがもう一方の「内容」インスタンスを「修飾」していることを示す。どちらがどちらなのかは「内容」インスタンス中の「関係接合子」インスタンスが決める。この場合では「関係接合子.構造要素="親" 関係接合子.分類="自身"」というアトリビュートを持つ"sb0001"すなわち「下顎左側側切歯」が修飾されるもので、もう一方の"st0002"「齲蝕」が修飾するものである。文にすると「齲蝕(状態にある)下顎左側側切歯」となり状態の表現が明確となる。
 表現するものに対して生成されたインスタンスは冗長に感じるが、それは人間が表現の裏に存在する知識を有しているからであり、ontology的モデルではこの隠れた知識を明確に表現しているからこそ冗長に感じるのである。
3. 基本モデルを発展させる
 Ontology的モデルの基本は上記のように単純である。これを発展させてより複雑な状態を表現してみよう。
図 3 関係クラスによる意味づけ

 図3は前の例と良く似ているが注意深く見ると、先の例では修飾されるものであった「下顎左側側切歯」が修飾するものに変わっている。この場合は「下顎左側側切歯(の状態にある(の形態をした))前装鋳造冠」であることを表現している。このように同じ「内容」インスタンスであっても「関係」クラスでの結合の仕方が違えば意味が変わってくる。
図 4 冠の装着状態

 図4は「下顎左側側切歯(に装着された)前装鋳造冠」である。
図 5 材料まで言及した冠の装着状態

 図4の例にもう一つ「内容」追加した図5は、「グラスアイオノマーセメント(によって)下顎左側側切歯(に装着された)前装鋳造冠」となる。
図 6 組み合わせによる多彩な表現

 図6は上記の例を組み合わせたもので、「グラスアイオノマーセメント(によって)下顎左側側切歯(に装着された){下顎左側犬歯(の形態をした)前装鋳造冠}」といった複雑な状況を表現している。しかし、XML自体の構造はこのような複雑な状態を表現する場合でも単純なままであることに注目してほしい。
4. 計量と定位
 原理的にはこの「内容」と「関係」ですべて記述できるのであるが、「内容」が数量を表現する場合それは「計量」という修飾クラスを使う。
図 7 計量の基本形その1

 図7は「直径が0.9mm(の)不錆鋼クラスプ用ワイヤー」を表現する。
図 8 計量の基本形その2

 図8は、「深さ3mm(の)ポケットの深さ」を表現する。
 さて「関係」の場合は「関係接合子」クラスは「定位」クラスにより修飾されることがある。「定位」は「関係」で結ばれた2つの「内容」がどのような位置関係にあるかということを表現する。
図 9 定位の用法

 図9は「内容」"s01mbm"は「内容」"s01g" の近心に位置していることを示す。
図 10 定位と計量による詳細な部位指定

 図10のように「定位」の中には「方位」と「計量」の両方を含むことができる。これにより相対的な位置を極座標系で表現することができる。この例では「左下小臼歯の遠心12mmの顎骨に植立されたインプラント」を表現している。
 本論文では主に修復、補綴関係の表現を試みたが、矯正領域における様々な検査方法も、コードを規定すれば表現・交換可能である。さらに「関係」と「定位」の組み合わせは個々の歯の正確な位置や方向、正常範囲からの相対位置、歯に加わる力の方向や強さといったものまで表現可能であり、このような表現方法と、これによる記録の蓄積によって、新しい知見や分析方法などを導き出せる可能性を秘めている。3)
5. まとめ
 Ontology的モデルは非常に強力な表現力を持っているが、インスタンスとしてできたXMLドキュメントの人間による可読性は決して良くない。しかし、この事はこのインスタンスがコンピュータの内部表現や情報交換に使われる事を考えれば本質的な問題ではない。実際一般的なエディタだけでインスタンスを作成することは難しく、実作業では簡単な専用エディタ(DinfoExエディタ)4)を作成し、これによって作成、パース、検証を行った。これによりこの表記方法がコンピュータにとって扱いやすい事が確認できた。
 ただこの過程で特に「関係」クラスの<関係.構造>や<関係.分類>、「関係接合子」クラスの<関係接合子.分類>等にどのような値を入れれば良いのか迷う場面も多く、より詳細に検討、整理する必要を実感した。

 本研究は厚生労働科学研究医療技術評価総合研究事業H12-医療-009の成果に基づき実施されている。
参考文献
[1]廣瀬康行,矢嶋研一,森本徳明,佐々木好幸,成澤英明,尾藤茂. 歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築. 医療情報学23(1):33-43,2003.
[2]佐々木好幸, 廣瀬康行, 矢嶋研一, 森本徳明, 成澤英明, 尾藤茂. 歯科情報のオブジェクトモデリング. 医療情報学22S:5-6, 2002.
[3]森本徳明, 佐々木好幸, 廣瀬康行. XML Schemaを用いたの矯正歯科診療の記録の試みについて. 第62回日本矯正歯科学会抄録集,学展-155,2003. (in printing)
[4]http://www5.big.or.jp/~karte-m/dinfoex.html