歯科システムの新しい実装を考える
森本 徳明1)
歯科分野における保健医療福祉情報の標準化に関する研究会1)
The design of new system on dental information
MORIMOTO NORIAKI1)
The study group of standardization for Dental Health Information System1)
Abstract: Our study group "Standardization of Health Information in Dental Field" makes this workshop whose theme is standardization of glossary and handling. At first Dr Saito, head of Committee of Standardization in Dental Information established by MEDIS-DC, presents about standard dental disease master. The next, we present some practical samples formulated the document model with W3C XML Schema about many findings in dental records. At last, we make discussion with participants about our trials and verify the effectiveness and problems in this workshop.
Keywords: workshop, standardization, dental information

1. 歯科の医療情報に対する特色
診療規模からみた特色は、ほとんどの歯科診療施設が外来のみで病床をもたないことと、 医科であれば大病院は数多いが、歯科の場合は大学と同規模の病院はほとんどないことで あろう。歯科医師の約9割が個人の歯科医院として開業しているのが現状であり、 事業規模から診療室ひとつで、歯科医師1~2名、歯科衛生士、歯科助手、 歯科技工士が複数名、受付が1名という体制が多い。
前述の状況から、多くの診療所で、歯科医師自らが診療から事務的なこと(診療報 酬明細書の発行業務や経理等)まで行っており、法規や省令によって定められた歯科独自の部位表現方法や、歯科特有の診療サイクル・診療論理が作られてきている。
そして、コンピュータが一般に広く普及してきた当初より、歯科医自身の事務処理軽減の ためにスタンドアローンのレセプトコンピュータが導入されてきたが、その機能は歯科医 自身もしくは受付により入力が容易にでき、その内容チェック、レセプト印刷、さらには カルテ印刷までこなせることが要求され、20数年かけて実現されている。
このようなシステムを開発してきた業者は一般的に事業規模も小さく、歯科の保険をはじ めとする業務に関することについては非常に深くまで研究していて使いやすいユーザーイ ンタフェースを装備しシステム化していたものの、ユーザーからの情報交換に関する要 求も少なかったため、それぞれのシステムは個別に開発され互換性に乏しいものとなった。
歯科の病院情報システムとなると、約10年位前よりいわゆるオーダリングシステムが幾つ かの大学で開発納入されてきたが、医科と異なり歯科で求められたものは、それまでの 医科で経験することの少なかった、病名・処置をメインに開発することとなった。しかし、 歯科単独で独自のシステムを開発するためには、予算的にも、組織的にも、また経験的に も不十分であったため、医科で納入されていたシステムの流用、改造でなんとか対応しよ うと開発をはじめたが、医科で納入された病院システムの不備を指摘し、その根幹の改変 を迫る要素を含むものであったことが経験されることとなったと思われる。逆に、歯科で の経験が、今後の医科のシステム構築に役立つと考えられるノウハウを蓄積できたとも言える。
2. 歯科の標準化へ向けての歴史
2.1 課題研究会の設立
 平成7年11月第15回医療情報学連合大会において、「歯科診療情報システムを考える」 というワークショップが催された。これを機に、病院システムに関する 経験やアイデアの交換や、活発な議論を行うためのメーリングリストdhisを創設するこ とにした1)。このメーリングリストには大学関係者だけでなく、 各社の技術者にも多数参加して戴き、活発な発言の中より、各歯科病院に共通した標準的 な入力画面やシステム構成などを、ともに描き出して行きたいと考えてつくられた。
さらに、このバーチャルの枠組みと同時に、我々の活動を発表するための母体となる枠組み を作る必要性より、平成8年(1996年)11月、前身 となる「大学附属歯科病院情報処理研究会」(期間:1996年11月~2001年5月)を立ち上げた。
2.2 歯科用特殊記号の登録申請
このような活動をはじめたほぼ時を同じくして、JIS第一水準、第二水準では網羅できなか った文字に対するJISの拡張計画が進んでいるという情報を入手した。
歯式は歯科ではあたりまえに用いられている記述方式であったが、それまでのコンピュータ に登録されている文字では表せない歯科用特殊記号を多く利用していた。歯科のシステム開 発を行っている際に、必ず取り扱い、表記の問題に直面した。表記については、個別に外字 を作成することでも何とか対応できたが、検索や並べ替えを行う場合や、多施設間で情報交 換を行う場合には、共通の文字コードを持っている必要がある。そして、これは機種やソフ トに依存してはならないものであるから、JISの漢字拡張計画に、歯式の表現を可能とするタ イポグラフィが組み込まれるよう申請作業を行うこととした。
最初の仕事として、既存のシステムで利用されている外字文字フォント、必要とされる表示 形式分析を行った上で申請書を作成し、関係各位に説明等を行いつつ理解を求めた上で、本 学会の推薦をいただき、平成8年12月に「2バイト情報交換用漢字符号 拡張集合への登録申請書」 として申請を行った。その後、平成12年1月20日に、当初希望したすべては含まれなかったが、 歯科で表現するために必要な最低限の歯科用特殊文字が文書番号"JIS X 0213:2000" 標題 "7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合"のなかに登録された2)
この活動は、平成14年には、Unicode 3.2に歯科用特殊記号3)として 採用されたことにより、やっとコンピュータの世界で、日本において通常用いられる歯科の記号が、 入力、表示、検索、交換がやっとできるというスタート地点に立てたといえる。
3. 本研究会の設立
課題研究会の見直しにより、2001年度で「大学附属歯科病院情報処理研究会」が解散となったが、 我々の活動内容の必要性を再認識し、あらたに範囲を拡大し、歯科全体の情報化に関わるもののなかで 緊急性の高い課題を絞込み、それを研究課題とする「歯科分野における保健医療福祉情報の標準化に関する研究会」 (期間:2002年4月1日~2005年3月31日)を申請し、承認された。
研究課題は、歯科分野における保健医療情報の流通を行うために必要な情報交換の枠組み策定のみ ならず、必要な用語の統一さえ十分なされていない現状を踏まえた上で、 グランドデザイン等で示されている医療のIT化に対応すべく、歯科分野で必要なデータ交換の枠組みと用語の統一を図 ることを目的として、そこに存在する課題の解決をひとつづつ行っていくこととした。
その中でも特に「レセプトの電子化」等の政策も考慮し、データ-交換の枠組みの作成と 歯科用標準病名集の作成を具体的な最初の課題としている。
研究方法として、情報交換の枠組みに関しては、XMLを利用し、他の医療交換の枠組みを参考にしつつ、 歯科特有の情報を構造化し記述する方法を探ることと、歯科病名に関しては2001年に日本語版が発刊された ICD-DA4)とICD対応電子カルテ用標準病名集5)の中 から歯科口腔関係の病名を抽出し、歯科標準化病名集の作成を行うこととした。
4. 今回のワークショップについて
課題研究会のテーマである「用語の標準化とそのデータの取り扱い方法の標準化」を軸に、ワークショップを企画した。 時間を3分割し、基調発表として2題、そしてそれを元に討論する時間を十分設け、実装にむけての方策を考える。
まず、取り扱いの基本となる用語に関して、齊藤ほかの当会のメンバーも多く参画しているMEDIS-DCの 歯科標準化委員会で作成した歯科標準病名マスターがこの秋リリース予定であり、そのリリース後のこと、 さらに今後の用語標準化に関するスケジュールと方針ということで委員長の齊藤氏より話題提供をいただく。
次に、実装するにあたり、データの取り扱いの方法が問題となるが、今回、当研究会の廣瀬が本年の春季 学術大会で発表した「歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築」6) の内容を元に、実装を目指し、歯科の臨床で想定される記録の具体例を複数の協力者に作製、発表していただく。 その具体例をもとに理解を深めるための議論を行うことと早急の策定が求められている歯科のレセプトの 記録・伝送方式についても考えを広げられれば幸いである。
最後に、会場に参加されている方とともに今後の歯科のシステムを考えるための討論を行い、 前述の新しい用語マスターとそれを取り扱うXML Schema の考案により、実装を行う場合での考慮点や 今までの歯科システムで達成できなかったこと中で可能となった点について理解を深めることを目指す。
参考文献
[1]dHIS, Dental Hospital Information System Forum ,http://www.dhis.info/ , 2003.
[2](財)日本規格協会、JISX0213:7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合、http://www.jisc.go.jp/app/pager?id=5919 , 2000.
[3]Unicode, Inc, Unicode Standard Annex #28, http://www.unicode.org/unicode/reports/tr28/ ,2002.
[4]厚生労働省大臣官房統計情報部、国際疾病分類歯科学及び口腔科学への適用第3版、2001.
[5](財)医療情報システム開発センター, ICD対応電子カルテ用標準病名マスター第2版, 2002.
[6]廣瀬康行、「歯科所見のontology的なモデル分析に基づくXML Schemaの構築」、医療情報学,vol.23, no.1,pp.33-43、2003.