ワークショップ

歯科の病院情報システムでの携帯端末利用を考える
       

座長 玉川裕夫
成澤英明 、○森本徳明 、○廣瀬康行
大阪大学歯学部附属病院予防歯科1、昭和大学歯科病院第2歯科保存学教室2、広島大学歯学部附属病院医療情報室3、東京医科歯科大学歯学部歯科麻酔学講座、医病医療情報部システム4


Hiroo Tamagawa, ○Hideaki Narusawa , ○Noriaki Morimoto , ○Yasuyuki Hirose

Osaka University Dental Hospital1
Showa University Dental Hospital2
Hiroshima University Dental Hospital3
Tokyo Medical and Dental University Dental Hospital4

Abstract: Recent development of computer communication technology has changed user interface of hospital information system. Especially in a dental hospital, we have possibilities and barriers of using mobile terminals as a daily data input terminal. For example, space utilization, sterilization, x-ray film handling, natural color display is mimimum requirements of dental clinical terminal. This workshop discusses not only recent technologies of mobile terminals but also fundamental comprehensions of data handling principles in dentistry.

Keywords: Mobile terminal, Dental Hospital, Data Handling



はじめに

                  座長 大阪大学歯学部附属病院 玉川裕夫

 昨年度の医療情報学連合大会では、「歯学部・歯科大学附属病院の病院情報システムを考える」と題したワークショップが開催され、歯科の病院情報システムが抱える本質的な問題点に焦点をあてた議論が開始された。その後、全国の関係者が参加しているメーリングリスト(dhis@cc.showa-u.ac.jp)に場を移して、情報交換を継続するうちに、場所や時間の限定されたワークショップでは出来ないことが、このメーリングリストで出来るのではないかという意見が生まれてきた。
 それは、単に情報交換を行うだけでなく、メーリングリスト参加者が協力して作業を行い、共通に使えるものを作り出していこうということである。
 一方で、個人が携帯できる情報処理端末(携帯端末)は、新しい技術の盛り込まれた機種が次々とマーケットに投入されており、今後病院情報システムの中でも、重要な役割を演じると考えられる。特に、歯科臨床の現場では、消毒やスペースの問題、あるいは日常的に扱う情報量は医科ほどには多くないことなどから、携帯端末の利用を積極的に進めていける潜在的な素地がある。また、すでに、ノート型パーソナルコンピュータを病院情報システムの端末として採用している歯学部附属病院もあり、今後、携帯端末の利用が各地の歯科医療機関で進んだ場合、データの蓄積や相互交換のために、今、考えておかなければならない問題があるということも上記のメーリングリストで話題となった。
 そこで、本年は、「歯科の病院情報システムでの携帯端末利用を考える」と題し、上記メーリングリストを基盤に議論を進めつつ、成果を得ることを目標としたワークショップを開催することにした。
 成澤先生には、我々が最も身近に接することになる端末に関する最新のトピックスと技術動向について、携帯端末を含めた話題を提供していただき、森本先生には、広島大学歯学部附属病院の病院情報システム構築に参画してこられた経験から、ノートPCでの実装例を紹介していただく。そして、廣瀬先生には、1医療機関内での携帯端末利用を考えるだけでなく、歯科の病歴を相互に交換することをめざした場合に、今、考えておかねばならないことを総括していだだくよう、それぞれお願いした。
 3人の先生方から、以下に示す抄録をいただいたが、今後も上記メーリングリストで議論を重ねていく予定であり、その結果、関係者に共通の認識が生まれ、やがてそれらがひとつの成果として結実するであろうことが期待される。
 なお、このメーリングリストでの議論はすべて公開されており、歯科の情報システムに関心のある方なら誰でも入手できる。所属や立場の壁を乗り越えた、生産的で活発な議論が展開されているので、WWWサーバ(http://www.hosp.tmd.ac.jp/dhis.html)をご覧いただきたい。

1)携帯端末技術の動向

                        昭和大学歯学部 成澤英明

 今日では携帯情報端末は、小型軽量で日本語ペン入力インターフェースを備えているものも安価に入手できる.これはあくまで個人向けのテキスト情報を扱うものであり、医療情報用の端末としては、これに加えてレントゲン画像を表示する機能、歯科においては特にカラー画像の表示機能を備え、さらにこれを高速にやりとりできるネットワークインターフェースが必要であろう。
 医療情報システムであるから、すべての医療スタッフが扱える必要がある。このため、習熟に訓練が必要なキーボードインターフェースに依存しないことが望ましい。ほとんどの入力をパターン化しメニューから選択し、非定型な情報ものだけをキーボードなりペン入力する形が望ましい。治療する場所の周囲におかれるわけであるから、感染コントロールに関しての配慮も重要である。この意味においてもペン入力は有利である。歯科においては、デスクトップ型ではあるが、キーボードレスエントリーをほぼ実現している市販システムもある。
 ネットワークに関しては、1996年に発表になったWindows系のサブノートパソコンはほとんどがCardBusインターフェースを備えた。これはPCIと同等の130Mbit/secの転送速度を持っているため、100Base-Tのネットワークを使うことができる。光ファイバーを用いるものでもっと高速なネットワークも普及しつつあるが、端末においてはコスト的な理由もあって当分の間100Baseが上限であると考えた方がよい。また、データベースや画像データも100BASEでさえ能力不足なようであれば、設計自体を見直した方がよかろう。
 最難関なのは画面である。すなわち、紙と比較して、コンピュータのモニターは情報密度で決定的に劣る。なぜなら判読可能な文字の大きさが紙に比較してずっと大きい上に、カルテは見開きであるからである。640X480というVGAの画面に詰め込める情報量はA4版のカルテにやや劣る程度の水準であり、見開きになれば半分程度であろう。1995年の終わりには高額であるが、1024X768X64k色のカラー液晶を備えたノートパソコンが発売された。1996年には、800X600の解像度が当たり前となり、上位機種は1024X768でほぼ出そろってきつつある。来年あたりにはVGAの4倍以上の密度を持つ1280X1024液晶を持つものが出現すると思われる。
 レントゲン画像の表示ノウハウは、亀田病院のシステムを見る限りはほぼ確立しつつあるようである。歯科は当然独自のノウハウが必要になると考えられるが克服は可能であろう。歯冠色、歯肉色を医療記録として満足のいくレベルで扱っているシステムは未だ存在せず、今後の研究開発が待たれる。
 すべての医療情報を携帯端末の上で扱うことになった場合には、今までのようにシャーカステンでレントゲンフィルムを患者とともにみながら説明することができなくなる。表示用の大型スクリーンを各治療台に設置可能であるなら、そもそも携帯端末の必要性がないからである。つまり携帯端末には治療台に座っている患者にinformするためのツールとしての機能も要求される。紙媒体と異なり、症例データベースを任意に参照できるため、Informed Concentを成立させる有効な補助手段と成得る。このためには、患者のよく見える位置で操作しなくてはならない。このためには、片手で支えられる軽量さと、残った片手で扱える操作性が要求される。
 以上の要件をまとめると、ペン入力が可能な軽量なキーボードレス端末であり、1024X768X64K色の大型TFT液晶と高速なCARD BUSを持ち、当然十分なCPUパワーとメモリとハードディスクを持つことが条件となる。
 現時点では、これをすべて満たすものは実在しないが、近いものはすでに市場に存在しているため、我々がこのきわめて理想に近い端末を手に取る日も遠くあるまい。


2)ノートPCへの実装例

                        広島大学歯学部 森本徳明

1.システム構成
 本学医療情報システムは医病、歯病共通のシステムであり、両院で主に定型業務を処理するホストと非定形業務を処理するサーバにより429台の端末を制御、管理している。医学部でのデスクトップ:ノート型は232台:80台に対し、歯学部では43台:74台とノート型を多く採用している。これは歯科の診療形態と病名・処置入力を考え、また設置場所を検討した結果、各診療室に1台のデスクトップ(プリンター付)と診療台2台あたり約1台のノート端末を配置した。

2.ノート端末の仕様
 富士通製 FMR-50NL/T:CPU i486SX(25MHz),RAM 約11MB,
         HDD 170MB,10BASE-T装備,9.4"TFTカラー液晶(640X480)
      OS:MS-DOS 6.2+MS-WINDOWS3.1
        カードリーダ、マウス付   本体重量約2.7Kg

3.稼働システム
 稼働システムはデスクトップとノートPCで差はなく以下のものが稼働している。

 ○HOPE/EGMAIN(富士通製)上のシステム
1)歯科病名・処置オーダリングシステム
 2)歯科放射線オーダリングシステム
 3)入退院移動オーダリングシステム
 4)検査オーダリングシステム
 5)処方オーダリングシステム
 6)検査結果参照システム
 7)院内メール・掲示板システム

 ○MS-WINDOWS3.1上のシステム
 8)診療・研究支援システム
 9)看護支援システム
 10)外部接続(UMIN)システム

 ○MS-DOS6.2上のシステム
 11)看護勤務管理システム
 12)その他

4.入力方式
 1.カード入力:利用者ID、患者ID
 2.マウス入力:各種オーダ入力、指示歴・検査結果参照、Windowsシステムにおける一般的操作
3.キーボード入力:パスワード入力、数値入力等
  なお、キーボードによるデータ入力は操作性を考え、最小限となるよう配慮している。

5.ノート端末の評価
利点:デスクトップに比して、設置場所をとらず、移設が容易。
   カラーディスプレイの視認性、キーボード入力の操作性は良好であり、カードリーダ、LAN等の附加装置の追加もデスクトップと同等に行える。
欠点:チェアサイドに設置するには、清掃性に乏しく、衛生的な取り扱いが困難である。
   デスクトップと同等の仕様を満たす際、高価となる。

6.今後の展望
 1.今後、画像データの参照等を考えると十分な視認性を確保するディスプレイの対応が求められる。
 2.医療現場での使用を考慮し、清掃性に優れ、防滴・防塵仕様の端末が求められる。
 3.携帯端末として利用するには、入力方法、電源及びLAN回線等に対する考慮が必要である。


3)歯科情報を扱うときの問題点

                    東京医科歯科大学歯学部 廣瀬康行

1. 診療現場における携帯端末
1.1. 定義と使用目的
・医科(看護ケア:パトロールでの持ち歩き、患者の移送)
・歯科(診療端末:期待、持ち座り、省スペース、台数)
1.2. 物理的形状
・重量と省スペース
・シャーシ形状と操作性
1.3. 機能仕様
1.3.1. 文字認識機能
・手書き入力
・その反応速度
1.3.2. 記憶容量
・業務用アプリ
・各種マスターファイル等
・データのキャッシング
1.3.3. 画面大きさと解像度
・診療画像
・電子カルテ
1.3.4. ネットワーク機能
・ホストとの交信
・診療履歴の参照

2. 歯科情報と医科情報とに違いはあるのか
2.1. 診療サイクル
・医科(検査と処方)
・歯科(病名と処置)
2.2. 文字について
2.3. 作図について
2.4. 画像や音声について
・X線(画素子数と階調のダイナミックレンジ)
・カラー写真(とくに暖色系の色調変化)

3. dHIS の課題
3.1. 当面の議題
・歯種表現のための code ならびに typography 等の標準化と互換
 実システムの実コードからは独立した code 体系
・歯式の入力に必要となる特殊な文字コード等の標準化
・歯式の入力画面(CUI版、GUI版)
・病歴データベースにおける病名と処置との対応の付け方
・病名ならびに処置名の体系化・標準化とコード割当(辞書作成)
 ならびに同義語・類義語辞書の作成
3.2. 将来的には
・歯科病院もしくは歯科医院における電子カルテの標準仕様
・病院間ならびに病院医院間のデータ交換形式の標準化

4. 歯科における特殊記号
4.1. 特殊記号の種
・歯式にて用いられる「歯種等の表記」ならびに「歯式の表記」
・健康保険にて規定されているもの
・歯科健康診断表で便宜上に使用されているもの
4.2. 特殊記号の意味と意義
・事象と表記
特殊記号は「模様」
「模様」はヒトによって解釈される
相異なる・複数情報を・Convergence した 情報
・部位+現状+(病状)
4.3. 特殊記号の扱いに関する制約や条件
・ハイブリッド環境
・マルチプラットフォーム & マルチデータベース
・異メーカーのデバイス
・既存の文字コード体系の利用可能領域
・各施設の自由度の確保
・各施設のシステム規模への対応と病診連携

5. 特殊記号の標準的な扱いへの試み
5.1. 基本方針と戦略
・マルチプラットフォームのサポート
・複数のコード/術語体系の補完性と整合性
・実業務システムの実装コードや「体系」からは独立した
 meta code
・可能な限り paradigm の付着とその制約からの解放
・既存の外字を活用できる可能性を残すこと
・各施設の自由度の確保
5.2. 特殊記号(=模様)の出力様式
様式の種
 ・外字のタイポグラフィ
 ・絵(PICT/BMP)
 ・ポストスクリプトの絵
 ・ポストスクリプトの文字
ソースの公表も
5.3. 特殊記号に対応させるコード等
5.3.1. 模様と 部位(列)や事象との対応
 ・コードまたは術語
 ・マトリクスまたはツリー
 ・Atomic な情報への分離と融合
・処理アプリの活用もしくは支援
・目的に応じた体系&処理の利用環境
・それらの統括体系の準備
5.3.2. 用途や目的に応じたセット
 ・各診療機関内で実装する歯牙部位ならびに現状の同定指定の【方法】
・画面表示&プリンタ出力【セット#D & セット#P】
 ・診療機関間の情報交換のコードもしくは術語 【セット#C】
 ・収束点としてのメタコードのセット
5.3.3. 情報交換用の様式における情報の質
 ・求める質(正確さの期待度、粒度)の設定
 ・多様なレンジの質への対応可能性
 ・MML 等との整合性
5.4. 意図と例示
5.4.1. セット#D & セット#P
情報のコンバージェンスへの対処法(処理系)も
5.4.2. セット#C
5.5. 留意点
「(表記のための実体を指し示す)コード体系」と
「意味体系もしくは構造」とを混同しないこと