1-E-4-5 電子カルテ / ワークショップ: 口腔領域の医療情報電子化はここまできた −診療録の電子化と保険請求業務の電子化−

歯科における電子レセプトの要件

○成澤 英明

昭和大学 歯科病院 歯科医療情報室

抄録: 歯科治療の特性として,大半の処置が非可逆的であるという特徴がある.
治療行為によって,歯は修飾されていき,決して後戻りすることはない.例えば抜かれた歯が復活することはあり得ない.
また,同月内にいろいろな部位の治療を行うことが一般的である.
具体的には,右下4番C2に対して充填を行った.同月内に左上7番のC2に金属鋳造修復により冠の装着を行った.
というような具合になる.紙のレセプトの場合,右上4番左上7番C2,CR X1, FCK X1というような記述になる.これは医科ですでに行われている電子レセプトでも同様である.
しかしながら,このフォーマットでは,冠が装着されたのがどちらだったのか記述されていない.
これは歯科では今までも問題であった.後日さらにう蝕が見つかり充填が追加されたというレセプトが来たときに,右上4番であればあり得るが,左上7番ではあり得ない.これがチェックできないフォーマットでは困るのである
今回のワークショップでは,医科と同じフォーマットを用いた場合に起こり得る不具合の指摘およびフォーマット案を具体的に提示する.

Electronic Receipt System in Dental field

Hideaki Narusawa

The division of Dental Informatics, Showa University dental hospital, Tokyo, Japan

Abstract: This is your English abstract. Even if you put "linefeed"(ENTER) in this text, it is recognized only as a delimiter of words. To really change line, method is explained below in this template.

Keywords: electronic medical services billingelectronic dental services billing


1. 緒言

医科においては2001年4月より全国的にレセプトのFD提出の準備を完了した.歯科においてはいまだレセプトの電子フォーマットのドラフトすら目にすることができないのが現状である.そこで電子レセプトの得失を分析するとともに,現状の医科レセプトの問題点を分析し歯科レセプトの理想像を提言することにする.

2. 医科において発生した電子レセプトに対する危惧とその歯科における考察

2.1 コストが高くつくのではないか?

 歯科の電子レセプトを仮定して,紙媒体と電子媒体を比較してみる.
 紙代:言うまでもなく紙代がかかる.一枚あたり5円.月間500万枚はあるので,2500万,年間で3億円の費用がかかっている.
 プリンタ:プリンタの購入代金,インク(トナー)代金.3万の歯科医院が導入しているとするとプリンタ代は10億円になる.インク代は月1000円として,年間で約4億円である.
 ソフトウェア開発費:レセプトに印刷するというのは実はプログラマーにも大変な作業である.今のように各県で異なるということになっていると自治体,レセソフト会社あたり20万円ほど余計にコストがかかっている.また,対応プリンタごと設定をしないとならない.大手が10社とすると1億円を超える費用が必要である.
 輸送コスト:5万の歯科医院が仮に宅急便でレセプトを輸送したとすると,毎月2500万の費用が必要である.これも年間3億円になる.
保管費用:年間で6000万枚の紙となると60トンの重量になる.1000枚で20センチメートルの高さであるので,厚みは12キロメートルになる.2メートルの高さに積んだとすると,6000の山ができ,150坪のスペースが必要になる.坪単価2万円で300万であるが,10年間の保管義務があるため,約3000万円/年間約4億円のの家賃が必要になる.無論,このような保管法をとってしまったら取り出す時に往生してしまうし,期限切れのものを廃棄するための人件費も必要であるので,当然この数倍のコストがかかっている.
人件費1:毎月のレセプト出しに先生方が使っている時間を2時間,時間あたり5000円とすると,年間60億円の人件費である.さらにその先の分類作業が必要になる.
審査費用:500万枚の審査費用は約6億円になる.再入力コスト:保険機関ではさらに紙レセプトから入力作業を行っていると聞く.一分に一件入力し,時間あたりのコストが2000円とすると,年間に約2億円になる.
雑な計算ではあるが,合計で約80億円となる.歯科医一軒あたりでは年間10数万円というわずかな額であるが,これらは電子媒体の採用によって消滅させることができるコストである.

2.2 現在のレセコンのシステムをかなり変更する必要があるのではないか?

 医科では,一般的に使われる病名が電子レセプトに収録されなかったケースがあったようで,苦労したようであるが,歯科の場合はカルテとレセプトの同一性が高いのであまり問題にならない.また,これから電子レセプトのフォーマットを作成するのであれば,収録漏れが発生しないように設定することができるであろう.

2.3 モニターでチェックせねばならず面倒だ

 紙に比べモニターの画面は一覧性に欠け,指摘の通りであろう.しかし,歯科の場合は各社レセコンのチェック機能が充実しており,こういったチェックはあまり大変ではない.さらに効率を高めるために,問題になるのは,支払う側のチェック能率である.
 先の試算で大きな割合を占めているのは歯科医がレセプト出力に費やしている人件費である.2時間と見ているがこれが4時間であれば倍のコストになってしまう.つまり,電子レセプト導入の際のねらいとしては,歯科医がレセプト出力に費やす時間を短縮する,というのが効率化にもっとも貢献するはずである.実際には,各県のローカルルールや,保険者ごとの独自ルールが存在して,歯科医を悩ませ,時間を失わせている.したがって電子レセプトはきっちりとした自動チェックがかかるようなフォーマットを採用するべきである.そして,公開された全国統一ルールを採用し,各歯科医院のレセコン,保険者側のチェックも同じルールで行われ,恣意的な査定が行われないすっきりしたシステムにまとめ上げるべきだろう.
 入力時にリアルタイムでチェックが行われているなら,原則として月末には何もする必要がない.そして同じルールで支払い側でチェックされるのであれば,返戻査定が発生するはずがないのだ.

 

2.4 フロッピーで出せば審査支払機関(支払基金、国保連)はコンピューターでレセプトのチェックをするのではないだろうか?

医科方式の電子レセプトであると,傷病名と処置内容関連が希薄なため,自動チェックに限りがある.人手による解釈が必須になってしまう.したがって,最も時間を費やし,コストがかかる部分の改善が為されない.減額査定分よりも人件費がかかるのであれば,コスト割れであり効率が悪い.逆であるなら,医療機関側からすると恣意的な査定をされていることになるであろう.こういったコストは医療の質には直接関係がなく,医療費削減の社会的な要請に応えるためには最小限にするべきであろう.そのためにはむしろコンピュータチェックを最大限に行い,人手によるチェックは最小限にすべく努力するべきである. そのためには,前項で記載したように,公開された同一のルールでチェックされるのが望ましい.妙なルールが発生したなら事前に抗議することができるであろう.

2.5 コンピューターなら同一人物の過去のレセプトと比較して、いわゆる縦の審査をやるのではないか?

 今まで行われていなかったとしたら,チェック不能だからという理由以外考えられない.こういったチェックで返戻になるのであれば本来不適切な医療だったはずである.むしろ公正にチェックされる環境を求めたい.

2.6 コンピューターチェックを通じて厚生労働省は医療の詳細な情報を独占してしまうのではないか?

 電子メディアの特質を活かせば,全く同じ情報量を歯科医師会が持つことができる.したがってむしろ同等の情報量を得て発言力を強めることができるはずである.

3. 歯科における電子レセプトの望ましい姿

歯科治療の特性として,大半の処置が非可逆的であるという特徴がある.治療行為によって,歯は修飾されていき,決して後戻りすることはない.例えば抜かれた歯が復活することはあり得ない.また,同月内にいろいろな部位の治療を行うことが一般的である.
具体的には,右下4番C2に対して充填を行った.同月内に左上7番のC2に金属鋳造修復により冠の装着を行った.
というような具合になる.紙のレセプトの場合,右上4番左上7番C2,CR X1, FCKX1というような記述になる.これは医科ですでに行われている電子レセプトでも同様である.しかしながら,このフォーマットでは,冠が装着されたのがどちらだったのか記述されていない.これは歯科では今までも問題であった.後日さらにう蝕が見つかり充填が追加されたというレセプトが来たときに,右上4番であればあり得るが,左上7番ではあり得ない.これがチェックできないフォーマットでは困るのである.
 適切になされた歯科治療は適切に評価され,恣意的な判断によって返戻をきたすようなことを許してはならない.ルールは公示され一義的でなくてはならない.
レセプトにあってカルテにないものとしては,
 症状詳記
カルテにあってレセプトにないものとしては,
治療日時
病名処置内容関連
所見など主観的情報
検査値
画像

 これらは,レセプトが請求書という見地であれば不要な項目である.が,特別の場合にのみ詳記が要求されるのはルーチンワークとしては効率がわるい.すべて提出してしまい,必要に応じてそれを見れば良いのである.現行の紙レセプトの形式は,紙媒体に収容可能な情報量が限られていることに起因している.電子媒体の情報あたりコストは極小になるため,より詳細な記述が可能になる.
 隣町に貨物を輸送するには,隣町に運べばよい.電車の運賃は搭乗した距離に応じて支払う.これらは当たり前のことで,合理的に思えるが,人件費のファクターをいれると話が違ってくる.米国の貨物会社,FEDEXは,全米の貨物はとにかく例外なく一カ所に集める.そして仕分けを行って全米に配達される.ボストンの地下鉄は,全区域一律の料金になっている.
 必要な場合に必要なことをする,という形が必ずしも効率的ではない.単純な画一的なルールのほうが効率が高まる場合がある.出来高払いではなく包括払いにするという考え方もここから出てきていると考えられる.しかしながら,一度包括化してしまうと,その内容に含まれる頻度やコストが埋もれてしまい,なんらかの要因によって,評価された点数が不適切になったとしてもそれを知ることができなくなってしまう.このため,包括化されたとしてもステップごとの記録はしておくべきである.

 厚生労働省の監修しているいわゆる青本が出版されているが,現実には記載されていないケースが多々ある.これは現場の判断にゆだねられており,ローカルルールが発生してしまう.レセコン業者はこれに個々に対応し,地域によって異なったチェックルールを作成して販売している.これは,紙媒体である書籍よりも論理を記述するためにはコンピュータソフトの方が優れているということに他ならない.すなわち,保険のルールに関して詳細に記述することは,電子媒体であるならすでに行われており,実在しているのである.ならば,青本を基準にコンピュータ上のルールを記述したものを作成,公開し,医療機関側も審査側も同じものを用いれば良い.双方で事務コストを費やしているのは医療費の無駄に他ならない.

4. まとめ

 医療機関は,患者さんの医療を行うのが業務である.請求書であるレセプト作成に時間と労力を割き,コストをかけるのは本来の姿ではない.規模が大きな病院であれば専属スタッフを持つことができるが,小規模開業医が多い歯科としては大変効率が悪い.事務負担を最小限にして,医療の質の向上に努めるためには我々はカルテをそのまま提出して,あとの処理は支払う側が適性に行うのがあるべき姿であろう. そのためには,1.電子レセプトは簡略化したカルテそのままであるべきである.2.計算ルールは公開され,誰でも使うことができるようにするべきである.3.支払い側だけでなく,歯科医師の団体も詳細なデータを保管,管理すべきである. という3つの提案を行いたい.そして,それが明日の日本の保険歯科診療より充実し,なおかつ効率よく無駄な医療費を削減せしめるシステムとなることを願ってやまない.

参考文献

[1] 厚生労働省 平成11年度 国民医療費http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/99/kekka1.html0

[2] 厚生労働省 平成11年度 診療種類別国民医療費http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/99/kekka4.html

[3] 厚生労働省 平成11年度医療施設動態調査(平成13年5月末概数)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/is0105.html

[4] 金川耳鼻科皮膚科レセプト電算化システムについてhttp://www02.so-net.ne.jp/~kanagawa/reseputo.html