1-E-4-3 電子カルテ / ワークショップ: 口腔領域の医療情報電子化はここまできた −診療録の電子化と保険請求業務の電子化−

病名と処置のリンク、保険請求の整合性チェックについて

○林 直治    玉川 裕夫

大阪大学歯学部附属病院医療情報室

抄録: 大阪大学歯学部附属病院では処置オーダ稼働にあたり、医事請求業務に関わることから、特に「保険請求上の制約に適合した高い精度をオーダ内容が保持していること」に重点をおき、医事掛の窓口で診療室からの処置オーダの内容・カルテの記載・紙伝票(コストペーパ)の3つを照らし合わせエラー(不一致)がないかチェックした。稼働当初の混乱がおさまった6/6-7/6には、750人/日の外来患者に対して40件強/日のエラーが発生していた。エラーは1)担当医の保険知識不足、2)うっかりミス、3)マスタ設定不備、4)システム機能不備にわけられ、それぞれ構造化した対応が必要であった。1)2)は各科での教育や保険医としての意識向上が前提ではあるが、処置オーダがそれを補う機能を備えることが望ましい。とりわけ2)は誰にでも起こりうるものであり、ミスが少なくなるよう支援してくれるのが本来のオーダシステムであろう。3)4)は、マスタ設定の修正と、システムの改造で補えるので、1)2)に比べると取り組みやすい。そこでエラー低減を目的として、オーダ内容の整合性をチェックするマスタを作成した。具体的には1)ある行為に対し特定病名がないと警告、2)ある行為に対し特定病名があると警告、3)ある行為に対し特定行為がないと警告、4)ある行為に対し特定行為があると警告、5)ある行為に対し特定薬剤(材料)がないと警告、6)ある行為に対し特定薬剤(材料)があると警告、の6通りである。その単位は1歯・1顎・1口腔・1初診と異なっており、またオーダが発生した(診療)当日のみならず過去(該当病名開始日・暦月・その他の特定期間)の内容をみる必要もあり全てを網羅するのは非常に困難ではあるが、上記の期間に発生したエラーに対し、このマスタで31%をカバーすることができた。他の対策との併用効果もあって、現在エラーは一日20件台に減少している。

Linkage between name of disease with daily dental hospital treatments and fit-checking for insurance claim rules

Naoji Hayashi    Hiroo Tamagawa

Medical Information, Osaka University Dental Hospital

Abstract: On launching an new order entry system for daily treatments, Osaka University Dental Hospital put stress on that the system has high precision fittings for insurance claim rules. We analysed errors for a month. Though our functions to check consistency of order contents covered 31% of errors through the term, lack of input standed 35.4%. It is important not only fitting of ordered data but also to direct users to launch enough order.

Keywords: error checkhuman errorordering systeminsurance claim rule


1. はじめに

 大阪大学歯学部附属病院(以下、当院と略す)では2001年度からの処置オーダ稼働にあたり、1)保険請求上の制約に適合した高い精度をオーダ内容が保持していること、2)病名オーダと連動し効率的な画面展開がおこなわれること、3)将来の電子化診療録を視野に入れ診療録記載上必要な項目が入力できること、を重要と考えたが、医事請求業務に関わることから、これらの中でも特に1)に重点をおき、今回、これをサポートする1手段としての病名と処置とのリンク、保険請求の整合性のチェックのためのマスタ作成をおこなった。

2. 方法

2.1 エラー(不整合)データの収集

 運用当初よりトラブル発生時の対処用として、従来より使用していた紙伝票(コストペーパ)の運用を継続していたので、医事掛の窓口において、これと「診療室からの処置オーダの内容」「カルテの記載」の3つを照らし合わせ、処置オーダの内容にエラー(不一致)がないかチェックを行うことにした。エラーと判断されたものは患者1人日につき1枚の報告書を作成し(よって1枚に複数のエラーが含まれていることもある)、これを元に発生するエラーのリストアップを行った。

2.2 チェックマスタ作成方法

 上記により集められたものを稼働当初の混乱がおさまった6/6〜7/6を対象期間として対処方法により分類する事を考えた。まず、行為と病名・行為・薬剤(材料)の組合せとして、1)「ある行為に対し特定病名がないと警告」により防げるもの、2)「ある行為に対し特定病名があると警告」により防げるもの、3)「ある行為に対し特定行為がないと警告」により防げるもの、4)「ある行為に対し特定行為があると警告」により防げるもの、5)「ある行為に対し特定薬剤(材料)がないと警告」により防げるもの、6)「ある行為に対し特定薬剤(材料)があると警告」により防げるもの、との分類を考えた。そしてこれらに含まれない「その他」をあわせ、計7パターンに分類することとした。

3. 結果

3.1 エラー発生件数・エラーカバー率

 今回の6パターンのエラー発生件数・エラーカバー率は別に示した

3.2 「その他」の構成について

 今回の分類では平均で約70%を占めている「その他」の構成については図1、2のとおりであった。その大部分を「入力漏れ」(カルテ・コストペーパ記載分がオーダ入力されていない(不足))、「入力ミス」(オーダ入力を単に間違えただけ)が占めており、一日あたりの平均値は前者が35.4%(/全体)、51.3%(/その他)、後者が14.9%(/全体)、21.6%(/その他)と、両者をあわせると50.3%(/全体)、72.9%(/その他)を占めていた。

4. 考察

 チェックルーティンを考える上では、今回当院が採った以外に、行為と部位の組合せとして、A)「ある行為に対し特定部位がないと警告」により防げるもの、B)「ある行為に対し特定部位があると警告」により防げるもの、が、対象単位によっては、イ)「歯」、ロ)「顎」、ハ)「口腔」、ニ)「初診」、が、更に、オーダ発生時以外の過去(これに関してもその行為により、1か月前・2か月前・3か月前・6か月前・2年前と複数の期間が考えられる)にさかのぼった情報とのチェックも考えられる。そしてこれらは単独ではなく、複合的に加味されなければならなく、また、一つのエラーに対して複数のチェックをかけることも重要と考える。これら全てについて当院のみで網羅させることは現時点では不可能であると思われる。しかしながら今回の結果によるとその出現頻度には偏りがあるようで「入力漏れ」という対応が最も難しいものが非常に多いことがわかった。これの原因としては操作不慣、時間不足、面倒くさい、といったことが考えられる。また「入力ミス」の原因として、操作不慣、保険知識不足といった点が考えられる。
 整合性のチェックによる当院としてのデメリットはトラフィックの増大、タイムラグ(チェック中の時間待ち)の増大、といった点が考えられるが、メリットとしては返戻の減少、医事スタッフの個人的経験の集積利用・負担軽減、担当ドクタの入力アシスト・保険知識蓄積といったことが考えられ、入力されたオーダの整合性はもちろん、不足しているオーダをいかにさせるかという観点からのアプローチも必要と考えられる。

図1 「その他」のエラー発生件数
図2 「その他」の構成比率