1-E-4-2 電子カルテ / ワークショップ: 口腔領域の医療情報電子化はここまできた −診療録の電子化と保険請求業務の電子化−

データ収集集計方法の一事例、歯科医師会活動を通じて

○神田 貢    難波 克明    松賀 正考

兵庫県歯科医師会 情報調査室

抄録: 多数のユーザから電子化された情報を収集する必要がある場合いくつかの方法が考えられる。
フロッピーなどの記録媒体に保存したものを郵送すること、データを暗号化してE-Mailで送ること、などが実現可能であるが兵庫県歯科医師会では、会員からマークシートによるアンケート回答をNTT Communications の提供する"Arcstar iFax"サービスを活用してfax送信することで、回答内容を電子化し、E-Mailに個々の回答を添付して収集した。
また、収集後のデータはunixマシンのPostgreSQLサーバにデータベースとして蓄積し、PHP言語によって開発した検索エンジンをApacheサーバ上で稼動させることで、リアルタイムに検索結果を統計処理して表示させることに成功した。
PHP言語とは、HTMLファイル内に記述して実行することのできるスクリプト言語で、Apacheサーバに組み込むことで通常のcgiと比較して処理速度が高速であることや、PostgreSQLなどのデータベースとの連携やXMLへの対応など、大変優れた特徴を持っているので、広範なWebアプリケーションを容易に作成可能な言語である。
歯科診療録の電子化を進める上で、こうしたオープンソースによるソフトウェアを構築することのメリットやその可能性について提示させていただきたい。

Effective association of WWW and facsimile for data collection and its statistical analysis on activities of a dental association

Mitsugu Kanda    Katsuaki Namba    Masataka Matsuga

Information Research Room, Hyogo Dental Association,Hyogo,Japan

Abstract: Introduction of one method for data collecting and statistical analysis. We have developed a system using Fax,E-mail,PostgreSQL and PHP.We clepe it "Statman System". Statman can offer a range of services such as chart,table and statistics. Statman can take many kinds of contents such as Email,Web form and OCR data from fax sheet.

Keywords: PostgreSQLPHPArcStar InternetFaxLinuxFax OCR


1. はじめに

医療情報の電子化を目指す時、避けて通れない問題はいかにして安全にデータを収集するのか、そしてそのデータをいかに効率よく処理するのかという問題である。兵庫県歯科医師会では会員を対象としてアンケート調査を実施する際に、回答用紙を配布し、郵送により回収していた。それを業者に委託して内容を表計算ソフトで手入力し、調査室委員が統計ソフトなどを使って集計分析を行っていた。筆者らはこうした手法によるものとは全く異なるシステムを開発してデータ収集と分析を行う事に成功した。つまり多数の回答者がマークシート用紙に回答を記述し、個々のFaxにより代表番号に送信すると、逐次OCRされた回答内容がデジタルデータとしてe-mailに添付されて送られてくる。メールが届く都度、データベースに追加していく。Webによる検索が可能であり、オープンソース・ソフトウェアで構築したWebアプリケーションにより、ブラウザで誰でも検索できるようにした。平成12年に兵庫県歯科医師会情報調査室が県下約3,000人の会員を対象に実施したこの調査手法が実際の診療の現場からのライブなデータを収集する一つの手段として大変有効であったので報告する。

2. システムの概要

2.1 従来の方法

従来のアンケート調査の流れは以下のようであった。

  1. 設問と回答用紙を会員に郵送
  2. 会員が回答用紙に手書きで記入後郵送
  3. それらをまとめて業者委託し手作業で入力
  4. 元となるデータを調査室で表計算ソフトなどにより集計
  5. グラフや表としてまとめ報告書やイントラネットにて公開

という手順であったが、効率的ではなかった。このため、調査実施から報告書作成まで極めて長期間を要していたのが実情である。

2.2 StatmanシステムとFax調査の仕組み

 本稿で報告するのは、NTT Communications社(以下NTTと略)の提供する"ArcStar InternetFax"サービスを利用してFaxで回答を収集し、情報調査室が開発した"Statmanシステム"により自動集計を行うシステムである。この概略を次に示す。

  1. 情報調査室と医療保険委員会で作成した設問に対する回答を記入するため、マークシート形式の回答用紙を作成する。(図1)
  2. 兵庫県歯科医師会発行の月刊誌”歯界月報”に設問を掲載し回答用紙も同封して全会員に郵送する。
  3. 会員は回答記入後、NTT側の代表番号に対して回答用紙をFaxで返信する。電話料金はすべて歯科医師会負担とする。
  4. NTTはその回答用紙を光学的に読み取り、回答用紙毎に文字データに変換し、電子メールに添付して歯科医師会宛てに逐次送信する。
  5. 電子メールを受け取ったメールサーバは、即座にそのメールから必要なデータだけを抜き出し、後述するStatmanシステムに渡すためのデータの形に変換する。この時点で異常値は処理される。
  6. 続けて同マシン内でデータベースサーバとして稼動しているPostgreSQL1)データベースにこの元データを自動的に追加する。Faxで回答用紙を返信してからここまでで約1分以内に処理が可能であった。
  7. 兵庫県歯科医師会会員ネットワークである、イントラネットサーバにアクセスした会員は、集計結果を即座に検索閲覧する事ができる。
  8. 回収締め切り後、Statmanの出力画面がそのまま調査結果の報告書として利用できる。
図1 マークシート回答用紙

2.3 Fax Email変換サービス'Arcstar InternetFax' について

'Arcstar InternetFax'とは'NTT Communications社'が提供する、FaxとEmailを相互に変換して受信と送信を代行するサービスである。初期費用も必要なく、誰でも容易に導入することができる。Fax送信用のマークシートはNTT側の規定どおりに作成する必要があるため、専用の作成ツールが無償で提供されている。なお回答欄に記述できる文字種は数字やカナ文字、英字等を選択できる。OCRによる読み込み結果はcsv形式の添付ファイルとして契約アカウント先にEmailで送信される。

2.4 Statmanシステムとは

Statmanシステムとは、PostgreSQL、PHP、Apache、Perl等1)2)3)のオープンソース・ソフトウェアを同じくオープンソースなOSであるLinuxマシン4)5)上で組み合わせて稼動させた統合システムである。このシステムの特徴は基本となるソフトウェアをすべてオープンソースとして公開されているものを組み合わせた点にある。予算面で限りのある調査において、いかにコストパフォーマンスと作業の効率化を向上させるかを考慮して、こうしたソフトウェアを選択した。システムの流れは次の通りである。
収集されたデータを元にPostgreSQLはデータベースエンジンとして稼動している。Statmanシステムにブラウザでアクセスすると(図2)

図2 Statmanシステムにアクセスした画面

検索条件を入力する画面になる。ここで必要な条件を入力後送信すると、その検索条件に合致するデータをPostgreSQLから呼び出し、各種統計数値6)を算出し、グラフ等を作成して出力する。これらのプログラムはHTML内にPHPによるスクリプト言語として記述した。(図3)

図3 Statmanシステムの検索結果表示画面

この出力画面にみられるように、収集されたデータはメールで送られて来た段階でもある程度の異常値は削除してあるのでそのまま算術平均値などを算出する場合もあるが、10%調整平均値や中央値(メジアン)、なみ値(モード)などの代表値なども算出できるので、ケースによって最適な代表値を選択できる。また、検索条件を複数選択することでクロス集計を行う事も可能である。回答項目が複数である場合、多くの組み合わせが考えられるが、地域別や年齢別などの代表的な項目で集計することが多い。クロス集計結果は、色分けされた棒グラフなどで視覚的に判りやすく表示させている。グラフにはこの他にも箱ヒゲ図や、パーセンタイルグラフ(図4)など、検索結果を元にリアルタイムに画像を描画させてから表示するようにしているが、PostgreSQLやPHP、画像描画ツールであるGDなどが極めて高速に動作するため、検索開始から表示までに要する時間はわずかなものである。作業が高速であることはサーバへの過負荷を軽減させるためにどうしても必要な条件であった。

図4 検索結果表示画面(各種グラフ)

2.5 オープソース・ソフトウェアとは

オープンソース・ソフトウェアとは、以前はフリーウェアと言われていたソフトウェアを、ライセンシング形態を大幅に自由化することで様々なビジネスシーンでのシェア拡大を目指そうとする運動に基づいてソースが公開されたソフトウェアである。これらのソフトウェアは無償で配布されるが、ユーザへの何らかの形でのサポートが有償で提供される事もありうる。また、商用ソフトと組み合わせて配布する事も可能である。
PostgreSQLとは、SQL準拠のオブジェクト・リレーショナル・データベース管理システム(ORDBMS)である。PerlやPHPなどの言語によるwebとの連携に優れた高速なデータベースを構築できることが特徴である。
PHPとはHTMLファイル内に記述できるスクリプト言語であり、WebサーバであるApacheサーバのモジュールとして組み込む事で、自由度の高いWebアプリケーションを構築できる。PostgreSQLなどのデータベースサーバやXMLとの連携が優れている。7)

2.6 費用

設問集と回答用のマークシートは月報に印刷して約3,000人の会員に送付したため、別途の印刷料金や郵送料金も必要なかった。回答用紙を月報郵送の封筒に折り込むための費用が1件につき\3円で計\9,000円が必要であった。NTTからのOCR結果Email通信料金は一件につき\25円であった。なお、Statmanが稼動するサーバマシンは県歯科医師会のホームページ提供用のマシンを流用している。これらすべてを合算しても、わずか¥14,000円程度の費用であった。従来のこうした調査に必要な経費が約30万円必要だった事からも、本調査方法のコストパフォーマンスのよさが認められる。

3. システム運営結果

調査用紙を配布直後からStatmanによる自動集計作業は順調に経緯し、わずか2日間で200件を突破する回答が寄せられた。(図5)

図5 Statmanシステムの回収数推移

データ集計結果を直ちにブラウザ検索できる為、時々刻々と回収されるデータが次々と集計されていく様子をリアルタイムに観察することができた。ハードウェアに対する負荷も軽微であり、締め切りをするまでの間にハードウェア的な問題は発生しなかった。最終的な有効回収率は14.5%であった。調査結果の概要を得るために必要な日数は2-3日間であった。

4. システムの問題点

本システムの問題点としては次の点が挙げられる。

5. 考察

平成11年に実施したOA機器に関する調査結果によると、兵庫県歯科医師会の会員のうち、パソコンを持っている割合が約59%、レセコンを持っている割合が約62%であったのに対してfaxを持っていると回答した人はおよそ94%であった。現時点においてはメールやブラウザを使いこなせる人の割合はまだ多くはなく、Faxの方がより多くの回答を得ることができると考えられる。本調査システムはデジタルデバイドを解消する手段としてFaxを有効に活用することができるということの証明だけでなく、データがデジタル化されて収集される事の優位性を証明することができた点で有効であったと考えられる。ただ、Fax導入次期が古い場合など、ノイズのために送信できないケースがあったが、Webのフォームによる回答やメールによる直接回答も可能であるため、将来はこうした様々な入力方法が混在するシステムを開発するべきだろう。

6. まとめ

ネットワーク経由でデジタルデータを回収できれば、様々な形で有効に活用できる。Statmanシステムのような統計処理だけでなく、カルテのデジタル化、レセプトのデジタル化などを目指す事も、解決すべき点は多々あるにせよ、技術的にはすでに可能であると言える。例えば情報を暗号化し認証鍵を持つ本人でないと開けないようにする技術や多くのデータが一極集中するのを避け、サーバを分散処理する方法などは、現在すでに広く実績がある。これらの技術の多くを取り込むことで、安全で安定した、高速なシステムが構築されるだろう。新世紀の歯科医療情報システムを模索するにあたって、本稿が一助になれば幸いである。最後に本調査システムを実施するにあたり関係各位から多大な協力をいただいたことに感謝したい。

参考文献

[1] 石井 達夫、PC UNIXユーザのためのPostgreSQL完全攻略ガイド、1999.

[2] トップマネジメントサービス、Linux/FreeBSD SQLデータベース構築入門、1999.

[3] 三島 俊司、CGIのための実践入門Perl、2000.

[4] フレンドリー&トップマネジメントサービス、Red Hat Linux6.1インターネットサーバー構築入門、2000.

[5] Paul G,Sery,Linux Network Toolkit,1999.

[6] StatSoft,inc. STATISTICAユーザーズマニュアル応用統計編、1996.

[7] マークアップ、インタープログ編集、PHP,Perlで使うXML/XSL-Sablotronで実現するWEBサイト管理の効率化、2001.