1-E-4-1 電子カルテ / ワークショップ: 口腔領域の医療情報電子化はここまできた −診療録の電子化と保険請求業務の電子化−

保健・福祉・医療に関わる行政IT関連施策と
地域医療情報化による医科歯科連携の展望

○市川 乃子

京都府保健福祉部健康対策課

抄録:  この初夏に出された「経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(「骨太」)」の中の医療関連部分として「医療制度の改革」があり、「医療サービス効率化プログラム(仮)」の策定が示され「質が高く、無駄がない医療サービスの効率化」が推進され始めています。
1:医療サービスの標準化と診療報酬体系の見直し 2:患者本位の医療サービスの実現 3:医療提供体制の見直し 4:医療機関経営の近代化・効率化 5:患者・保険者の機能の強化 6:保険と自費における保険診療の守備範囲の見直し 7:患者側の負担の適正化、についてなど、医療現場での改革が進められようとしているのです。
厚労省からは、平成12年1月下旬に日歯に対し「地域医療情報化推進事業」(医療機関間の情報ネットワークを整備するためのコンピューターや附属機器購入経費2/1補助事業)の実施報告が出され、歯科には都道府県歯科医師会分のみが補助対象となっているものの、群市区歯科医師会分を都道府県歯科医師会が負担できない府県では実施されていないようです。
歯科界は本来個人経営小規模医院の集団であり、医科のように医療機関間や医療関連他業種間での連携を重要視していなかったようですが、今後はIT整備を活用し、医科のような福祉系と医療系サービスの連携がもてればと思うのです。
医科と比して行政内では立場も発言力も弱い歯科業界ですが、規模が小さいことや技術者集団である歯科医師の力量がIT導入によりうまく集約して発揮されることを期待し、歯科界の明るい展望を見出していくひとつのファクターとして、行政IT関連事業を切り口に、医科・他医療職・福祉職間の連携への歯科の関わり等、歯科界の今後について考察してみたいと思います。

The administration's IT-policies about public-health, social-welfare & medical treatment and views on the future of the dentistry in cooperation with the medicine by an information-oriented local medical care.

Eiko Ichikawa

Kyoto Pref. Div. of health & welfare

Abstract: Going with the social current, IT-innovation's tide runs in the administration and the medical world’s innovation from government arises, too. The administration's IT-policies about public-health, social-welfare & medical-treatment are in the important issue. Though we've thought that there is no evidence for rising quality and effect with the efficiency or standardized of medicine, we have to recognize situation of the dentistry world now and choose the way of well cooperation with an information-oriented local medical- care for bright future.

Keywords: an administrative IT policiesan electronic self governing bodyan imformation oriented local medical care


1. IT変革の時代と行政IT関連施策

産業革命にも匹敵するような、予想できなかった程の現在の社会の変革の最も特徴的なことは「スピード」であろう。10%普及するのに、電話機は76年、フックスは19年、パソコンでも13年も要したというのに、インターネットがかかったのはたったの5年なのである。ちなみに世界のインターネット普及状況は図1であるが、2003年には日本でも60%を越えるのではないかと言われている現状でもある。
ところで、我が国の行政にいる歯科医師は全国9万人程の歯科医師のうちわずか130人程度で歯科保健政策の実施を必要性・費用対効果性・効率性・公平性・実現性などを行政内で議論し、医師会関連と比しても想像以上に低い優先順位の中で歯科業界・歯科医師会側の通訳もしつつ、日々奮闘している。実際に歯科保健は、さまざまな保健行政の中でも一番自治体間に温度差があり、都道府県に正職員配置されている歯科専門職(歯科医師・歯科衛生士)数が10名以上のところもあれば、もはや少数派とはいえ未だ嘱託利用や配置無しといった都道府県さえある。
そんな中、世間のIT変革の荒波ほどでないにせよ行政施策としても予算額をみても保健・福祉・医療関連よりも破格にIT関連予算が大きく、明確に事業優先されている昨今である。そこで、マイナス成長を続ける歯科界の明るい将来への展望の材料を探る参考に、行政歯科保健と保健・福祉・医療のIT関連施策の連携について検討してみたい。

図1 国別インターネット人口普及率

2. 医療制度改革の中のIT関連具体的施策と歯科医院経営を取り巻く今後の情況

前代未聞の人気を誇る小泉政権による構造改革が始まろうとしており、「聖域なき改革」の重要なターゲットの一つに医療制度改革が掲げられている。政府の総合規制改革会議「重点6分野に関する中間とりまとめ」の中の「医療の具体的施策」の一つとして、「医療に関する徹底的な情報公開とIT化の推進」・・@原則電子的手法によるレセプトの提出Aカルテの電子化・EBM・医療の標準化などの推進B複数の医療機関による患者情報共有、有効活用の促進C日本医療機能評価機構をふくむ、第三者機関による医療評価の充実D医療機関の広告および情報提供に関わる規制の抜本的見直し・・が基本理念として示されている。我々には、医療の枠組みを根底からかえていくような議論が待っている。そして、これをうけて医師会・歯科医師会・薬剤師会からは、「医療とは画一的なものではなく個々の患者の病態・特性を勘案し、当該患者にもっとも適した治療法が選択され、効果を上げるものである。効率化や標準化によって、医療の質や効果が上がるというエビデンスはない」との声明が出された。
そこで、今後歯科界を取り巻く社会背景について整理していくと、2005年には歯科医師の供給が需要を上回る予想がだされており、2025年には9,000名〜18,000名の歯科医師過剰が見込まれ、歯科医師の供給過剰による経営不安定となり、臨床経験が少ないまま開業する歯科医師達がその過当競争に巻き込まれるであろうこと、そして予防医療への社会の要求の高まりや特殊診療科目(口臭外来、歯科ドック、美容歯科・・)などの需要創出の必要性などが生まれてきてくるであろうことなどが見えてくる。
今日の日本の医療保障制度のほとんどが戦後の復興期にかたちづくられて以来国民生活の維持・安定のために重要な役割を果たしてきたことは言うまでもないが、これまでの歯科界の方法論で、はたして乗り越えられるだろうか。

3. 歯科の、医科との違い

我が国では、医学教育が医科歯科二元の立場でおこなわれており、1906年以降の身分法・業務でも法的に別個の部分を持ちながら医療として共通部分をも持っているわけであるが、「行政上の扱いは事業展開上も別個にされることが多い」のが現状である。また、歯科単科としての医療費は総医療費の9.2%、無床小規模の診療所中心でかかりつけ機能が発揮されやすい、1口腔32本の歯の治療内容を重視して発展してきた医療、医薬品の使用頻度は20/1(歯科医療費の1.3%)と小さい、他科と比して歯科診療では保険外診療の占める割合が大きい、などの特徴が明らかにされている。

4. 電子自治体の構築と国のIT施策の経緯・今後の予定

現在各自治体では、豊かさをもたらすIT社会の形成に向けた理念や自治体の政策・方向性を住民・企業・大学・市町村他に示すため、というIT戦略ビジョンの「構想」が次々に策定されている。実際に電子自治体の事例を、というと、

などがあげられる。                   
ここで、国のIT施策をみてみる。

もはや、時代の流れとして留まることは考えられない。

5. 保健・福祉・医療IT関連施策と情報化の推進

今後は保険・福祉・医療の分野でも、ますます地域の活性化に貢献するようなシステム化が望まれているのはいうまでもない。そこには、「システムの標準化」や「プライバシー保護対策」などの共通基盤的課題に取り組みながら支援措置を講じていく必要がある。
また、ある府県の保健医療分野のIT関連施策事業では、「救急医療情報システム運営」「遠隔病理診断システム運営」「高齢者福祉ネット相談」「医薬品審査システム」などの継続事業に続いて、「看護学校への授業用コンピューターシステムの導入」「高齢者向けホームページ活用情報提供・交流」「障害者情報機器購入費助成」などが新規事業として立ち上がっている。

6. 地域医療情報化における医科・歯科連携の展望

現在、医療を取り巻く諸状況は大きく変化してきており、国民の医療に対する関心はますます高まりをみせている。歯科領域での保健・福祉・医療についても、他医療職や福祉関連職とすでに連携している医科とのつながりを太くしていく必要があるといえる。すでに保健・福祉・医療の連携が叫ばれており、保健サービスの「効果」「効率化」「評価」が求められてきているが、現実にはまだまだ難しい。実際、保健・福祉・医療のそれぞれの分野ではOA化や情報システム化は進行しているが、そこでも行政的に分断されている状態のため、情報が連動しにくいのであるが、社会では今後さらに、「業務の効率化」「保健・福祉・医療の連携によるサービスの充実」の視点が求められてくることであろう。
たとえば、住民が自分の情報をカード化して医療期間などに持ち歩くとすればそこに歯科の必要な情報も盛り込まれるべきであるし、全身と口腔の関係については国民の関心も高まっており、ベース疾患と合わせて歯科口腔の個人データの構築も必要であろう。
医学の分野は専門化が進んでおり情報共有により患者へのより効果的な治療が可能となるのであり、これまでのように医科だけが完結した医療としてさらに独立していくことがないよう、IT改革を機会に医療情報ネットワークの中に入り込んでいくべきであろう。
実際、医科と歯科はこれまで別れていた方が都合が良かったようであるが、今後は歯科からのADLの向上による国民医療費削減というアプローチから連携しやすい土壌ができてきていることを利用していくべきであろうし、世間一般人の集団である行政内部にも歯科医師の配置を確実に進めていくことで歯科界の土台を構築していく事が必要であろう。
今、将来を見据えて真剣に対処しなければならない課題は、現在診療施設:6万2千、歯科医師:8万8千名の歯科界の「歯科医師数の適正化」「歯科医療情報のインフラ整備」「IT社会到来による電子カルテ化と開示」「先進医療への保険導入」「予知予防医療への保険導入」「医院経営安定化のための開業資金の低減化」「購入歯科材料の低コスト化」など多岐にわたると言えるが、将来を正しく推察・判断した上での方向決定においては、ドッグイヤーのIT化の波にうまく乗ることや今後の時代に適合した地域医療情報化での医科との連携の仕方とが歯科界の将来の方向性を大きく握る鍵であろうと思われる。

参考文献

[1] 平成11年度厚生白書

[2] 平成12年度厚生白書

[3] 平成12年度通信白書

[4] インターネット白書2000

[5] 平成11年度経済白書

[6] 平成12年度国民生活白書

[7] 平成13年度行政研修小冊子

[8] 歯界展望Vol.94 No.5

[9] 平成10年歯科医師需給に関する検討会報告書